第74話 建設的な話し合い
「あー、この解放感がたまらない」
「正装って緊張しますよね」
「昔はさぁ、貴族っぽくゴッテゴテの服とかって着てたんだけど、こっちのスタイルの気軽さを覚えちゃうと、もう堅苦しいのは無理だわ」
「これからもゼフィーナとリズミラには頑張ってもらいましょう」
「それ採用!」
「……なんちゅうか、大変そうだの?」
「HAHAHAHA、大事なのは全てを受け入れる気持ちSA!」
バザムを統治してない同盟中心人物達と会談しても無駄じゃろ? とせっちゃんに言われ、あっマジじゃん、という事で帰ってきました一般ドッキングベイへ。もう必要もないから正装から解放された奥さんたちを見て、せっちゃんが色々察したような感じで聞いてくる。
俺、知ってる。ここ、ウカツ、発言、危険。妻、一番、それ前面、とても、大切。
「苦労しとるのぉ」
「何を言ってるんだい? 僕は素敵な奥さんを沢山もらって幸せいっぱい元気いっぱいなタツロー君だよ?」
おいこら、何でそんな嫁から冷凍光線が発射されるような事ばかり聞く。さっきから二人の耳がピクピク動いて恐ろしいわっ!
「いやいや、我が知っているプロフェッサーと同一人物とは思えなくてな。悪意は無いのだよ」
「悪意はなくても人は殺せるんですよ!」
「すまんすまん」
せっちゃんは一時的に俺の端末へ経由してもらう事で会話を続けられている。どうもこのAIちゃん、人との会話に飢えているらしくて、ずっとしゃべりっぱなしだ。まぁ、AIの感情回路持ちって人間との差異ってあんま無いし、寂しさも孤独も悲しさも感じるんだとか。アビィが今最強にはっちゃけてる理由がそこだとか。まぁ、面白いからいいんだけどな。暴走して同族作るとかは勘弁願いたいところだったが……
「で、商人を遠ざけてどんな話がしたいんだ?」
「ふむ……」
せっちゃんは少し視線をさ迷わせ、まっすぐ俺を見る。
「まずは謝罪を。こちらの事情に巻き込み、申し訳ない。利用するような形となったが、こちらの情報を汲み取り、子供達を助けてくれたこと、誠に感謝する」
深々と頭を下げるせっちゃんに、俺は苦笑を浮かべる。
「いや、誘導されてるのを理解した上で行動したのは俺らの責任だし、そこはせっちゃんが責任を感じる部分じゃないと思うよ?」
俺が二人に視線を向けると、二人も頷いて同意してくれる。ありがとう奥さん達。
「あの子供達が殺されなくて助かった。あれらはオーガスト経由で預かっている子達でな、我も詳しくは知らぬが、複雑な背景の持ち主ばかりらしい」
「……その情報は知りたくなかったわ」
「知らぬより知って対策した方が賢いぞ?」
「そりゃそうだけどさぁ……」
厄介事はノーサンキューなんだが。そしてちょっと嬉しそうな顔をするシェルファさん。ちょっと自重しようよ?
「謝罪は以上。建設的な話をしたい」
「どのような?」
「残念ながら我だけではコロニーを守りきるのは難しい。内部的な事であるのであれば、知恵を働かせ、工夫をこらして乗り越えられる部分もあるが、如何せんリソースの問題でそう大きく動けない」
「なるほど。そもそも大図書館さんは検証とか調査を専門にしていたクランだもんね」
とにかく色々調べて、とにかく検証して、そんなデータを惜しげもなくプレイヤーに提供して、というクランだった。もちろん秘匿すべき知識は秘匿して、自分達の利益の為に使っていたけれど、それでも彼らがもたらしたデータは、多くの生産プレイヤー達を助けたもんだ。俺もその一人だったし。
「しかり、なのでライジグス王国と軍事的な同盟を結びたい。今までは商人達の金の力でどうにかなっていたが、相手も同程度の金の力を持っていた場合、こちらは戦う前に逃げる奴らしか出ないだろう」
「つまり、実質敵の悪徳商人はそのレベルの資金を持っていると予想している?」
「確実に持っている。周辺宙域の傭兵活動をしている奴らの動きがきな臭い」
だからシェルファさん、わくわくした表情でこっちを見ない。トラブル大歓迎ってのは関心しませんぞ。
「大手の傭兵達は様子見をしているようだが、半分宙賊に足を突っ込んだ奴らは連合を組み始めている。ここにも何度か偵察へ来ているのを確認している」
「……確定ですかい」
「大変です! どうしますかタツロー! 助けるんですか!」
「気持ちは分かる。分かるけども、だからこそシェルファ、落ち着きなさい」
ファラがぽんぽんシェルファの頭を叩くのを見ながら、まぁ、見捨てるって選択肢はないんだよな、と考える。
せっちゃんを気に入り始めている俺がいるわけで、何だかんだお世話になったクランのホームを滅茶苦茶にされるのは気分が悪い。それに、マドカさん達、シュリュズベリイ一族について、俺以外のプレイヤーがいたという情報も知りたい。
「同盟は、俺とせっちゃんで結んで問題ない?」
「いや、出来ればマドカと結んでもらいたい。彼女が今の我のマスターだ」
「なるほどね。マドカさんは第三層?」
「いや、今は中枢に匿っている。それと今後を見据えて強化と調整を受けてもらっている最中でな。もうしばらく時間が必要だ」
強化と調整って時間かかったっけ? 第一種で三分、二種で十分、三種で三十分だったけど……
「何考えているか分かるけど、その情報を口に出したらダメよ?」
「んあ?」
「それ、ウチだけ特別だからね? 普通じゃないという事だけ理解すればいいから、お口閉じときなさい」
「お、おう」
ファラに凄まれて言いかけた事を飲み込む。どうやらウチの強化と調整は色々おかしいらしい。全く気付かなかった。
「どうかしたかの?」
「何でもないわ。それで軍事同盟と言うことだけど、こちらが一方的に軍事部分を担う事になりそうで不平等だと思うのだけど?」
「確かにそこは不平等じゃな。そちらの危機にこちらは援助出来んわけじゃし。我としてはコロニーごと王国に組み込んでもらった方が楽なんじゃが」
「おいおい、恐ろしい事を言うなし」
面倒事は増える見込みなんだ。自分とこの問題ならいざ知らず、他所様の厄介事まで持ち込まないでいただきたい。いや、もう首は突っ込んでますが、ここでバザムをゲットだぜ! とかしたら共和国が襲撃してくる未来しか見えない。今と変わらんという意見は無し。気分的な問題です。
「こちらから提供できるのは、知識じゃの」
「教育、もかしら?」
「うむ、問題が片付き、国交が正常に働くのであれば、王国からの留学生を受け入れるのも良いかもしれんな」
「それは良いわね。義務教育課程ぐらいならあるけれど、そこから先の専門的か高等的な教育となれば、ウチだと帝国本星にでも行かないと難しいから。その分、バザムは近いし良いわよね」
何か話がまとまりそうだぞ? ファラが正妃みたいな事をしている珍しい光景です。
「今後を警戒するなら、他の側妃を派遣してもらうのも有りですね」
「それはそれで血の雨が降りそうだ事」
興奮状態から復活したシェルファの言葉に、ファラがやれやれと肩をすくめて人の悪い顔で笑う。
「そこは神聖なる儀式、じゃんけんで決めてもらって」
「それでも血の雨が降りそうよ」
「……ゼフィーナとリズミラ、がんばれがんばれ」
「その二人こそ暴れそうよね」
「……」
二人のやり取りを、せっちゃんは妙に嬉しそうに見つめている。
「どうした?」
「うむ。こう、家族という感じが我は好きなんじゃよ」
「……そうか」
やっぱ、このちんまいAIちゃんは見捨てられないわ。これからも仲良く、楽しく、共に歩いていくために、俺は俺が出来る努力をしようじゃないか。
「じゃ、もっと情報を共有しようじゃないか」
「うむ、お話は好物じゃ」
嬉しそうに微笑む幼女に、俺はしっかり身内判定を下し、情報共有という雑談をするのであった。
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