第71話 こたえあわせ ①
「妙にな、小金持ちが増えた時期があんねん。したらな、その小金持ちを護衛しとった、まっっっったくうだつの上がらん戦闘部門のギルドメンバーも何故か小金持ちになってん。おかしいやろ? わいもこりゃなんかあるんちゃうか? と思っとったらや、半年後にボン! 悪事がバレてん」
それは情報は大切だよね、と気づいてすぐに実施した情報収集の中で聞いた話だ。三人目か四人目の商人が、何か過去でもいいから面白い事なかったか? と聞いた時の話題であった。
「正確に何年前やって? たーしか、二年位前やったか……せやせや、二年前や。その悪事がバレたきっかけな、そん時に支配者っちゅう胡散臭いのが出たんや、間違いないわ」
この話、全く気にしてなかったのだが、とある事件で強烈に思い出す事になる。それは、孤児院のいざこざで大量に確保した元ギルドメンバーどもを、ネットワークギルドへ擦り付けに行った時のギルドマスターの言葉がきっかけだった。
「たく、二年前の悪事から何も学んでねぇじゃねぇかよ。誰だよ、こいつら採用した馬鹿野郎は……んだよ、クヴァースじゃねぇか。ああ、あの自称元ベテラン様が試験官じゃねぇかっ! ろくな事しやがらねぇっ!」
いやぁ、はっとしてぐっと来たよ。それで色々繋がった感じがした。
「今、もらったデータでは、二年前から何故か、クヴァーストレードコロニー、現ライジグス王国の首都アルペジオ経由で、わざわざこのルナ・フェルムで一番価値の低い食料品、共和国産の物が入ってきている」
「はあ、確かにそうありまんな」
「クヴァースに立ち寄る理由は?」
「……あれ?」
「そう、おかしい。クヴァースを経由するのと、共和国から直接ルナ・フェルムへ来るのだと、燃料費が余分にかかり余計な手数料を付けないといけない。ルナ・フェルムで人気がほぼ無い、持ち込むだけで絶大なリスクしか生まない共和国産の食品を、だ」
俺の指摘に、商人達が不思議そうな顔して首を傾げる。
「話は変わるけど、この最初の取引から半年後に事件が起こったのを覚えているか?」
「ええっと……こっから半年……ああっ! 確かネットワークギルドの方でシステムバグが大量発生して、それの処理をしている時に、ギルドが関わってない裏取引の情報が一気に見つかって大捕物に発展した、あの事件でっか?」
「そう。それじゃ、その事件で捕まった商人、ギルドメンバーの名簿と、そこの取引データと合わせて見てくれるか」
「はあ、分かりましたわ」
データを並べて、そこに出てきた事実に、会議室が瞬間揺れた。
「俺がクヴァースを自分の所有物宣言しようとした理由、それはクヴァースが共和国の戦略で、ほぼ共和国に奪われそうだった、共和国側の施設になりかけていたから、それが気に入らなかったんだわ。二年前だったら、ほぼ掌握されてただろうねぇ」
俺の言葉に誰かがゴクリと唾を飲み込んだ。巨大モニターに映し出された事実、それは二年前にルナ・フェルムへ危機が訪れていた事実。
「その時期にルナ・フェルム内で起こった事件って他にあったはずだ。覚えている人はいるだろうか?」
俺が聞くと、商人の一人が声をあげた。
「あれや、ダイコクヤさん、あれやで」
「……幻惑薬かっ?!」
はんなり美女が、百年の恋が覚めるレベルの形相で、クワッと目を見開き叫んだ。
「その幻惑薬なる物が何か知らないが、クヴァース経由で入ってた食料品の正体、多分それだ」
「なんやてっ?!」
「小売り関係の商人に酒をおごって聞いた話だと、食料品を仕入れているのに食料品を売ってる気配が無い、だというのに結構儲かってる、不思議な話もあるもんや、ってのを聞いててな」
「……はあ、なんてこったい」
一連の流れは、ルナ・フェルムという巨大コロニーをなーなーで使ってきた人達の、危機意識の低さを狙った侵略行為だ。もっと言えば、ルナ・フェルムという商売人だけしかいない集合体の、あまりに脆弱な統治形態を嘲笑った手口だとも言える。
「で、ここで重要なのが、そんな危機的状況を一発でひっくり返してしまった存在がいるっていう事実だ」
「……ちょいまち、え?! そ、それって」
「そう、ルナ・フェルムの支配者」
迷惑行為だけをする妙な存在エックス。しかし、彼の登場時期から、彼の起こしてきた事を冷静に客観的に見ると、驚くべき事が見えてくる。
「ネットワークギルドのシステムバグ、これはそれに見せかけた情報提供。次の自由解放商区、これ一見すると治安が悪化して正常な取引が行われないように見えて、実は治安が守られて正常な商売が営んでるんだわ」
「はあっ?!」
俺も数回通って気づいたのだが、明らかにその場に不馴れな人間がいると、どこからともなく護衛する人物が現れる。ルルが最初に気づいて、俺が勝手にスリだと勘違いした人物達だ。彼ら彼女らはそれとなく見守り、明らかにぼったくろうとする商人に引っ掛かると、親切な通りすがりとして現れて助け船を出してくれる。更にはまともな商人に誘導してくれるというサービス付き。そんな光景を数回見ている。
「ぼったくりやちゃんと商売してる奴ら玉石混淆ではあるんだが、ちゃんとやってる奴らは良心的だし、そういう店にはちゃんと常連がいたりする。彼らのような存在がいるから、あそこで買い物する人間が増える」
俺の言葉にシェルファがため息混じりに呟く。
「わざわざ奥の商区にいかなくても済ませられる、その数が次第に増えれば……」
俺はニヤリと笑い、パチンと指を鳴らす。
「商区が廃れるだろうな。時間はかかるだろうけど。けど支配者にとって時間は有限じゃない。時間という縛りがなければいくらでも待ち続けられる」
「ちょ、ちょちょちょちょ、なんちゅー恐ろしいっ!」
「事実だ。治安が悪いように見えて、実は統制が取れている。だから商区よりも実際人出は多く、ちょっとした宝物探し気分で練り歩く人も多い。商区に店を持たない小売り専門の商人達も、あそこなら店を出せる。地面に直接だけどな」
「……つまり、支配者の目的っちゅうのは」
「現バザム統治側の人間の排除」
俺がバッサリ切ると、商人達は青い顔で天を見上げる。
「多分だが、このコロニーを守る意思が無いなら、別の場所で商売しろって言いたいんだろうさ」
「なんてこったい……」
幻惑薬ってのが何か分からないが、多分、ここを管理している中枢のAI的に、看過できない状況を作り出してしまう危険性があったのだろう。だというのに、今現在種明かしをして初めて気づいた商人達を見れば分かるが、彼らはあまりに商売人過ぎるのだ。そんな彼らが自分の体を管理している、と思い込んでいる事実に、AIは恐怖したのではないだろうか。感情回路がプログラムされているか知らないが。
「んで次」
「まだあるんでっか?」
もう聞きたくないという表情の商人達に、俺はニヤリと笑ってやる。何しろこっちは、その支配者とやらに利用されたのだ。彼か彼女かは知らないが、この状況を引き起こした、いや放置したんだからもう少し胆を冷やしてもらおう。
え? いじめっ子だって? いやいや、俺は親切に物事を丁寧に解説しているお人好しな国王様ですがな。ははははは。
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