第69話 忘れていた訳じゃない。抜けていただけだ。(キリッ
色々情報などを集め、それなりに動いていたのだけれど、すっかり忘れていた事を、はっと思い出した。
「偉い人達の面会、忘れてた」
あ、いけねっ(てへぺろ)程度に呟いた俺の小声は、しっかり他の皆に聞こえてたようで、思いっきり呆れた目を向けられる。いやだって、わりかし大忙しだったじゃんか。
「覚えていて無視していたのと思ってました」
やめてマヒロちゃん。そんなマジで? って本気気味の表情で俺を見つめないでっ。
「アタシは、お前らが来い、って態度だとばかり思ってたわ」
「ヘタレなタツローがそんな俺様プレイ、夜のプライベートタイム以外でやれるわけないでしょうに……私はてっきり会う気がそもそも無いと思ってましたけど」
「とと様、天然ちゃんっ!」
「ルルノ会心ノ一撃、効果ハバツグンダゼ」
「くりてぃかるひっとですわん!」
「君ら容赦ないよねぇ……知ってたけど」
しくしく泣く振りをしながら、がっくり項垂れると、ルルがよしよしと頭を撫でてくれる。優しくて泣けてくるぜ。
「それで?」
「お、それでとは?」
「いや、どうすんのよ。一応、ラブコールは受けてたんでしょ?」
「……一気に行く気がなくなるな、その呼び方は」
俺のげっそり顔に、ファラが苦笑して謝ってくる。いや、確かにそうなんだけどね。相手は海千山千の商人のおっさんなハズだし、むっさい男どもイメージのラブコールというのは胸焼けが酷い。
「まあ、色々と確認する事が出来たし、やるべき事は他にないしな。ちょいと会ってくるかな」
フードカートリッジの簡易プラントは製作済みだし、懸念していたレイジ君のスカウトは嫁達の説得で上手く行ったようだし。残ってるのはアベル君がなかなか回復しない、ってとこだがこればかりは時間が必要だろう。
「連絡を入れますか?」
「あ、頼める?」
「それがオペレーターの仕事ですから」
シェルファが嬉しそうに端末を立ち上げ、軽快な指先で立体ホロボードをタイピングしていく。なんか、これが足りない、この機能が必須、こんな便利ツールが欲しいと頼まれるままにカスタマイズしたけど、凄く簡単に使ってくれるよね、その端末。試しに俺が使ってみたら、あまりに専門的すぎて全然使えなかったんだけど、凄いよね、人間の成長ってさ。
「連絡したといって、今すぐ会いましょうとはならんよなぁ。となると、ロドム兄貴の訓練の様子を眺めるか?」
レイジ君の引き込み完了で、ロドム君も正式にスカウトしてみたら、二つ返事で了承してくれたのだよ。ふふふふふ、優秀な人材は大歓迎さ。ちゃんと契約書にも確認してもらってサインを入れてもらえたし。ふふふふふふ、やったぜ。
いやぁ、アプレンティスのレミィちゃんの圧が凄いのなんの。確かにロドム兄貴は良い男だが、何か執着の感じがちょっと妙というか、依存? っぽく感じてるんだよなぁ。これは後でガラティア案件だな。
「タツロー」
「はいはい?」
「今すぐでも会うそうです」
「なんですとっ?!」
「寧ろ是非にでもって返事が」
「おいおい」
シェルファが見せてくれた画面には、確かに丁寧な文面だが、いつでもどうぞ、寧ろ今すぐにでも、つか今すぐ来いくらいの勢いがある文字列ががががが。
「何だろう、切羽詰まってる感じじゃない?」
「んだなぁ、予想は出来っけどな」
「あらまぁ、アタシ達、それ聞いてないわよ?」
ファラが優しい、それこそ聖母のような顔で微笑む。俺、これ、知ってる。これ、絶対、結構、本気、怒ってる時。ヤバイ、助けてシェルファと、彼女を見れば、あれれれれ? 同じ顔してるぅ。
「聞いてませんね」
「アッハイ、いや、ちょっと待って奥さん。少しばかり抜けてたんだって、レイジ君の事とか君らのフォローとかが嬉しくてっ!」
必死になだめて、必死に誉めちぎって、何とか聞いてもらう体勢を整え、ギルドで見聞きした事を伝える。
「はあ、食料品の扱いを定める特別許可証」
「どこで発行してるか分からず、いつの間にやら宇宙港では、それを前提とした検疫ボットの設定変更、ねぇ」
彼らが我が国、ってか俺の力を借りたい理由はそこだ。彼らとて、このコロニーが自分達の正式なる所有物じゃないとは理解してるだろうし、このコロニーがレガリアだってのも理解しているわけだ。彼らが欲しているのは、つまりレガリアの扱い方、ってとこだろうなぁ。
「誰が管理してるの? 知らね。って返答は流石に引いたわ」
「いやまぁ、ちょっと前の私でも同じ反応しますよ? レガリアタイプのコロニーステーションって、全く理解できないけど生活は出来ます、ってところばかりですし」
「寧ろ、普通に建造されたコロニーとか、怖くて住めないわよ? 寝てたらシステムが落ちて窒息なんてざらだし。日常生活でノーマルスーツ着用は義務だったりするし」
「なにそれこわい」
そこの技術格差も謎なんだよなぁ。それなら宇宙船なんかもっと粗悪になるはずなのに、どうして宇宙船はそこそこのレベルなんだろう。でっかい戦争があったって感じでもないんだよな。
「まぁいいや。流石に今すぐってのは、君らの準備的にも無理だろ?」
「え? 何で?」
「ファラ……偉い人に会うなら、こちらも国を代表するのだから正装を」
「あっ」
「そのままの君も素敵だよ? マイハニー」
「ならその棒読みは止しましょうね? マイダーリン」
「そういう事だから、明日だな」
「えーっと、マリオン! マリオン!」
ファラとシェルファが慌ててマリオンを探しに走る。分かります。正妃の正装って、凄いゴテゴテしてるから、メイド三人位で準備するってイメージだからなぁ、女性は大変だ。その点男は楽ですよ。豪華なマントをバサリと羽織れば完成ですから。
「ルルもせーそー?」
「ルルちゃんは大丈夫だよ。ちょっと難しい話をするから、ミィちゃん達と遊んで待ってようか?」
「あーい」
最近のルルは、近い年齢の子供達と遊べるようになって、少し俺への依存度が減った。それは成長と言えるし、彼女も徐々にでも大人になって行くんだなぁと思えるのだが、ちょっと寂しいと感じる。まだ実の子供もいないのに、これで子供が生まれたら俺は確実に親バカ一直線だな。
「マヒロ、シェルファは手が離せないだろうから、代わりに返事出しといてもらえる? バザムの会議で使ってる専用の宇宙港を使わんとならんだろうし、その準備を頼む意味合いで」
「了解しましたマイロード」
ただ、気になる事は他にもある。支配者の事だ。
支配者の行動、それがどうにも気にかかる。一見すると滅茶苦茶やってるだけの、あたおかな人物だが、色々な情報を組み合わせたフィルターを通すと、実は結構筋が通った事をしているのに気づく。それらを踏まえると、支配者という名乗りもあながち偽り無しという感じになるんだよな。
「それも明日確認すれば良いか」
ポンポツとファルコンを引き連れて、孤児院の子達と遊びだしたルルを眺めながら、俺はゆったりと椅子に深く埋まっていく。きっと色々な事が、明日にはスッキリと答え合わせが出来るはずだから。
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