第67話 ネットワークギルド 商取引部門
アフガンハウンドのちゃんねー事、アリシアなんちゃらさんの依頼、食い物が無い問題を解決する方法を色々考えたのだが、結局は地元民の商人を仲介して、ちゃんと取引した方が後腐れ無くていいんじゃねぇ? 妨害されているっていう部分はアプレンティスにお願いすりゃいいだろうし、というところに落ち着いた。
「と言うわけでな、商人知らん?」
「孤児の僕に聞きますか? 国王様」
無事、変なトラウマを植え付けられる事無く、きっちり復活を果たしたレイジ君。アベル君の方がちょっと重症でね、変態の精神攻撃で大分弱ってしまっているので、まだ医療ポットから解放できないのだけれども、レイジ君は凄くタフで復活が早かった。そんな彼に話を振ってみたのだけれど、ちょっと冷たい。
「なんか卒業? 卒院か? したお兄ちゃんお姉ちゃんなんか商人に雇用されたりしてるんでしょ? 良さげな商人知らないかなぁって思って」
「知ってても紹介なんか出来ませんよ。こっちに面識はありませんし、兄弟達に紹介してって頼むのも気が引けます」
「うーん、そうかー残念」
確かに、いきなり行って紹介して、というのも失礼ではあるか。
「ギルドの商取引部門に行けばいいんじゃないですか? 国王様はギルドメンバーなんですよね? それならギルドで相談にのってくれるんじゃないでしょうか?」
「……おお、すっかり自分がそんなのだった事を忘れていたよ」
こいつ大丈夫か? みたいな目で見られるが気にしない。どうも彼は俺を嫌っているようだ。これはスカウト無理かなぁ、ロドム君もそうなると難しくなるかなぁ、アベル君はどうなるか……他の孤児院の子達は、来てくれそうなんだけど。
「んじゃ、ギルドに行ってみっかな。誰か一緒に行くか?」
俺が声をかけると、背中にファルコンを張り付けたルルがダッシュでやって来て足にしがみつき、マリオンがしれっと後ろに控え、ポンポツがトコトコ近寄ってくる。
「ファラとシェルファとマヒロは留守番か?」
「アタシ達は別行動よ」
「ええ、ちょっと買い物に」
「マヒロはお二人の護衛兼荷物持ちです」
「なるほど、分かった。じゃ、ちょっくら行ってくるな」
「「「いってらっしゃい」」」
この前のギルドマスターは怖かったけど、少し時間は空いたし、大丈夫だよね? とか思いつつ、俺はブルーエターナルから下船したのであった。
○ ● ○
タツロー達の背中が消えるまで見送り、私とファラはレイジとかいう少年を見る。私達の視線に引き吊った表情を浮かべるが、それは知った事ではない。
「さて、貴方に施した善意の強化調整ですが、その善意も必要なさそうなので、しっかり請求しようかと思っています」
私の言葉に少年は顔を青ざめた。タツローはのほほーんと、冷たい態度取られちゃった嫌われてるのかにゃ? 程度にしか感じていないだろうけど、本来彼は一国の王であり、本来なら国賓待遇でルナ・フェルムで歓待を受ける立場の人間だ。その人の善意に不服を覚え、いらない、位のふてぶてしさの態度を見せるのは、はっきりといただけない。それは完全に我が国への非難であり、しっかりその対応をしなければならない。
「第一種で百万、第二種で五百万、第三種で一億。貴方に施したのは第四種、我が国以外では施せない強化調整で、金額にするとどれくらいになるか難しいところですが。独占している技術である、我が国オリジナルの技術である、成功させるには高度な施設が必要不可欠である等々を加算していくと、そうですね五十億程度にはなるでしょうか? それを貴方には支払っていただきます。できますよね? いらないって態度をしているのですから」
私が淡々と告げると、少年は真っ白になって力無く項垂れてしまう。心苦しいですが、ここはしっかり分からせないといけませんから、心を鬼にします。
「君が何を思ってウチの旦那様を敵視しているか、まぁ分かるわ。簡単にさっくり状況を解決されて、自分達には持ってない色々な物を持っていて、どんな時でも揺るがない。嫉妬してるんでしょ? 比較対照が無謀すぎる点を除けば、普通の反応よね?」
ファラの言葉に、白い顔色ながら、それでも口を固く結ぶ。なるほど、タツローがしつこくしつこく、冷たくされようとあしらわれようと話しかけて、少しでも心を開かせようと思うのも理解出来る。この状況下でも、それだけの対抗心を持てるのは、ある意味得難い才能だ。
「ウチの旦那様と同じ立ち位置に立ちたいなら、まずは旦那様の施しを一括払い出来る程度にはなりなさいな。その頭でっかちで稼げる方法を見つけられるとも思えないけれど」
少年は悔しそうに両手を握りしめる。まぁ、頭は良いから理解してるんだろう。自分が出来なかった事をさらりとこなした上に、自分が与えられなかった生活を、ポンッと無償でくれる。うん、私でもちょっと八つ当たりしたくなるかもしれない。そう、彼の態度は単なる八つ当たり、やり場の無くなってしまった感情をぶつけているだけ……そこを自覚してるなら、後は大人になりなさいな、というだけの話なのだ。
「まずはウチで働きなさい。君が嫉妬している相手が、才能に恵まれ、環境に恵まれ、全てに恵まれているなんて幻想、すぐに消え失せるだろうから」
「そうですね。むしろ努力して今がある、タイプの人間ですから」
「え?」
私達の言葉に意外そうな声を出す。
「当たり前でしょ? 必死に訓練して理想の自分へと近付けるのよ? 才能だけでどうにかなるのは子供の時だけよ」
「……大変ですよね?」
「……本当にね。あいつ、気がつくと超速でぶっちぎりに駆け抜けていくのよね。横に並ぼうとしている妻達の苦労を知れってのよ」
そうなのだ。彼の妻である事は、凄く大変なのだ。その分の見返りは大きいし、手放すなんて気には更々ならないけれど。
「……僕も、届きますか?」
私達の話で何かの気付きでもあったのか、顔色を戻し力強い瞳でこちらをみる少年、いやレイジ君に、私達は笑顔で頷いた。
「立ち止まらない限り、必ず届くわよ」
こうしてレイジ君をしっかりゲットする私達である。いやぁ、しょんぼりするタツローを見るの、かなり気分が悪いんですよねぇ。これでそれを回避できたと、うん、奥さんも大変です。
○ ● ○
訪問二回目のネットワークギルド、イン、ルナ・フェルム支部! へやって参りました! そして、こっちを凝視していやがるギルド職員の皆さんの顔が怖いっ!
「あの、また何か問題でも?」
受付のお姉さんが、妙に血走った目で見つけながら聞いてくる。あの、すげぇ怖いんですが。
「ええっと、商取引部門の方にちょっと聞きたい事がありまして。その、相談出来たらいいなぁーみたいな?」
俺の言葉に、それまで凝視していた職員全員が安堵の息を吐き出す。あれかな、元ギルドメンバーのやらかしを、また持ってきたとか思われたんだろうか。
「そうでしたか。それでしたら、三階フロアーへどうぞ。そこが商取引部門の受付ですので」
「あ、そうなの。それじゃそっちにお邪魔させてもらうわ」
「はい、どうぞ」
俺達はエレベーターに乗って三階へと移動する。久方ぶりのお出掛けにルルの機嫌も良さそうで、ずっと鼻唄を歌っているし、後ろに控えるマリオンも嬉しそうだ。横に立てばいいのにね。言っても聞かないんだもの。
「なんでやねんっ! 今までワイも商売出来てた商品が取扱禁止って、どないなっとるねん!」
エレベーターの扉が開くのと同時に、そんな叫び声が聞こえてきた。
受付には、ルナ・フェルム的商人ファッション、アラブの民族衣装みたいなゆったりした服を着た、青年以上おっさん入り口的男性が、ばんばん手でテーブルを叩いて叫んでいた。
「なんで食料品を扱うのに、特別な許可が必要なんやっ!」
……彼の叫びはこちらにも影響がありそうな気配がするんだけど、あるぅえぇ? 穏やかな日々は続かないって事? 厄介事復活の兆し? そんな兆しはいらないんですけど。
やれやれ、また波乱があるのかしら? 正直、勘弁して欲しいんですけど……きっとこっちの祈りは届かないんだろうなぁ。
嫌な気配を感じつつ、話を聞かないと始まらないので、嫌々受付へと向かう俺であった。
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