第65話 見習いの定義が乱れる(ウゴゴゴゴ

「見習いの定義ってさ、半人前とかさ、こうさあ、もっと初々しいっつうかな」

「言いたい事は凄く理解するけれど、彼女達のトップにいるのって、アンタの嫁の中でも一番ぶっ飛んだ奴だって自覚はあるんだよね?」

「……」

「目を逸らすんじゃないわよ」


 おっす、オラ、タツロー! 元気に現実逃避してるとこだぞ!


「あの子達の年齢だと、アンタの縛りがあるから、第三種でしょ? ガラティアって何気に育成上手よねぇ」


 嫁が容赦無く現実を突きつけてくる件について……いや、そうだな、いつまでも遠い目をしてたって、俺がイケメンになれるわけでもないんだ、現実を見よう。


 あのぉ、日本が誇る、世界的に有名な巨人をチクチクしちゃう感じの漫画原作のアニメ、あのとんでも装置で背骨折れっからっていう加速で、縦横無尽に飛び回るアレ。あれを現実で見ている感じ。そして最大の謎なのが、別に見るつもりなんか微塵もないんだけど、すげぇ勢いでピョンピョン飛び回ってるのに、スカートが一定以上捲れない謎仕様。あれ、特別な装置でも使ってるんだろうか? あんなん作った記憶ねぇし。


「フル装備で来る必要無かったな。医療キットは必要だったけど」

「そうねぇ。シュルファが普段通りの服装で大丈夫でしょ? って言ってたのもさもありなん、って感じよねぇ」


 シスターズが活躍していた時期って、微妙に俺は引き籠って整備漬けだったし、ファラはファラで色々一杯一杯で、回りを見ている余裕など存在しなかったとか。だので、俺らって彼女達の本来の実力って知らんかったのよ。ガラティア経由では聞いていたけど。


「お言葉ですが、本日のメンバーは実力が足りず、それならばと実践の空気を感じ取って成長しなさい、とメイド長に申し付けられたメンバーです。お恥ずかしながら、そこに自分も含まれます」

「……」

「……」


 一応、俺達の世話をする体でついてきている、どんぐらいだろう? 小学校高学年以上中学校三年生未満くらいの女の子が、クッと口を固く結んで悔しそうに申告してくる。いや、君はどこの武将なんだ? ってかメイドの必須条件に戦闘が含まれてるの、絶対おかしいと思うんだよ。いや、身内だからさ、自分の身は自分で守れる程度の護身術とかは必要だろうけど、それだって装備品を揃えればなんとでも出来るわけで、必須ではないんじゃないかと思うんだ、俺。


「知ってる? バトルメイドって言うんだって。そこがうちのメイド達の到達点で、そこから更に上にマスターがいて、エルダーがいて、頂点がメイド長らしいわよ」


 ドヤ顔で言い放つファラ。うむ、常に美人で嬉しい限り、ってちゃうわっ! なんじゃそりゃ?!


「なんじゃいその中学校二年生男子が、それこそ一生治せない不治の病としてお付き合いするような設定」


 俺が突っ込むと、横で聞いていた女の子が、はいっと真っ直ぐ手を挙げて口を開く。


「最近ですが、更に上の才妃が追加されました。さすがに私達のようなチンチクリンではお屋形様の相手になれるはずもなく、大人になってからの勝負でも、他の才妃様相手では勝てないかなぁっと」


 おい、ちょっと待て。それ、俺、聞いてない。それ、俺、知らない。


「ちょっとアルペジオに戻っていいか? 俺、ガラティアを折檻しないと駄目な気がするんだ」


 指を無駄にペキポキ鳴らしながら言うと、ファラが無駄無駄と笑って首を横に振る。


「手遅れね。大丈夫よ、さっきの男の子みたいなのが来れば、自然と落ち着くわ」

「それはそれで他のエッグコア隊の男の子達が咽び哭く事態になりそうなんだけど……」


 俺の言葉に、女の子があははと苦笑を浮かべる。


「モテたいオーラを前面に出されると、こちらとしてもちょっと遠慮したいかなぁって思うんです」

「……そういうモンなん?」

「ギラギラしいのが好きって女もいるっちゃいるけど、良く知らない相手がグイグイ来るのって面倒くさいじゃない?」

「なるほど?」

「分からなくていいわよ。アンタが女心を完璧に理解して、気遣って、何事もそつなくこなし始めたら、それはそれで気持ち悪いって思うから、そのままの旦那様でいて?」

「お、おう?」


 なんだか微妙にバカにされたような気が、そこはかとなくするんだが。多分、勘違いだろう。うん、勘違い。


「楽しそうですね」

「お疲れー。てか、また凄いの引き摺って来たわね」


 そこへシェルファがマリオンを連れてやって来た。なんか、微妙に小汚ない、すんげぇ頭がデカい野郎をボロ雑巾のように引き摺っているんだが。服装的に、多分教団関係の人間だろうけどな。


「いつもの教団メンバーです。また変な儀式してましたよ?」

「儀式の現場はしっかりメイド長へ情報を送りました。幸いでしたが、手遅れだった犠牲者はおらず、応急処置をした上でアプレンティスの子達に運ばせました。それで大丈夫ですよね?」

「適切じゃないかな。ありがとうマリオン」

「はあいっ!」


 ハートのビームでも出しそうな嫁の返事に、思わず頭を撫でてしまう。いやあ、凄い愛されてるんだよねぇ……ありがたい事です。


 デレデレと表情を崩すマリオンから視線を逸らしたシュルファが、ちょうど視線の先にいるアプレンティスの子達を見つめる。


「アプレンティスの子達、凄いですね」


 シェルファが、的確にチンピラどもを制圧していく少女達を見ながら、良い天気ですね、位のテンションで感想を言う。そんなんで良いのかい? マイワイフ。


「でもこうして見ると、やっぱりシスターズの子達って上位者なんですね」

「はっ?!」

「いえ、シスターズの子達の仕事を見た事がありまして。彼女達はもっと地味というか、派手な動きというよりかは、効果的で適切な効率性でもって動く、と言いますか」


 ガラティアよ、お前はどこに行くつもりなんだ?


「それはもちろん、タツローキングダムで全宇宙制覇ですの! って言うわよ」

「心を読むのやめていただけません?」

「アンタ、結構顔に出るのよ」

「可愛いですよね」

「そこがたまらないんじゃないですか。ヘタレで隙だらけなのがご主人様最大の魅力です」

「それ誉めてないよね? 貶してるよね?」


 そんな馬鹿話をしていると、ここら一帯を封鎖していた連中を一掃出来たと、アプレンティスリーダー(なにそれ?)と名乗る少女から連絡が来た。


「まだピョンピョンしてるわよね?」

「心がピョンピョンするんじゃね?」

「残党を探しているんですよ。まだまだですね。気配位読めないとアプレンティスは卒業できませんよ」

「どこの武人だよ」


 アプレンティス達が悪人達を一ヶ所に集めているようで、俺たちもそこへ向かう事にした。聞きたいこともあるし。


「しっかし、酷い有り様だなぁ」

「衛生環境もあったもんじゃないわ」

「そうですね。ああ、そうそう、ロドム君でしたか? 助けた男の子の」

「おう、宇宙一の兄貴な」


 いや、あの子は本当にこっちの陣営に引き込みたいね。なかなか出来ないぜ、妹をひたすら守って耐え続けるなんてな。


「その子経由で、シュエルターに隠れている子達が居るって知らせがありまして、そっちの子達も無事保護してます。今ごろ、マヒロちゃんとルルちゃんがお相手してるんじゃないでしょうか」

「なるほどね。一番衰弱が酷そうな子を抱えて、成功率が高そうなルートで逃げたか。やるねぇ」


 こっちの子供達は覚悟が決まったのが多くてたまらんね。ガキはガキらしく、もそっとお馬鹿でもいいんだけど……それだけ世知辛いって事なんだろうなぁ。


 チンピラ君達は孤児院の前に集められ、かなりボコボコにされたのか、抵抗する様子もなく、弱々しく呻いている。


「ここの孤児院で子供の面倒見ていたおばあさん、その人をどこにやったか知ってる奴はいるか?」


 おばあさんがいない、というのはアプレンティスの子達経由で知っていたので聞いてみるが、チンピラ君はこちらすら見ないで、弱々しく地面をひたすら見ている。


「知らないんじゃない? どうせこいつに踊らされた奴らだろうし」


 ファラが爪先で、シュルファが頭鷲掴みで引き摺り続けているビッグなヘッド男を軽く蹴飛ばす。


「それもそうだな、んじゃ、こいつら警備部の奴らに引き渡しだな。それと元ギルドメンバーは個別にギルドへ渡すか」

「それが良いわ。きっと素敵な場所に連れてってくれるから」


 ファラが黒い笑顔で言うと、元ギルドメンバーだろう男達が真っ青になっていく。どんなペナルティが課される事やら……


「情報を、次は第三層かね、こりゃ」


 ファラの感覚を信じるならば、きっとそうした方が良いのだろう。どんな事が待ち受けているのやら、楽しみのような怖いような、面倒事じゃないといいんだけど……


 きっと俺の願いなんて届かない、そう思いながらも、次こそは妙な事にならないよう祈らずにはいられなかったのだった。

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