第57話 『貧者の守り手』守れていない件について
アフガンハンドな彼女に連れられて、リアルで通った事はないが、見た目まんま大学な感じの建物に案内され、俺達はそこの、どこからどう見ても野戦病院ですありがとうございます状態な食堂に通された。
「すまないね。色々と立て込んでいて、こんな場所しか空いてないんだ」
本当かよ、というツッコミは飲み込み、周囲をチラリと見回せば、外傷というよりかは衰弱っぽい人々が多い。
「じゃ連絡した時にも言ったけど、適当に優秀な人材を紹介してくれるかしら?」
ファラの言葉にアリシアは苦笑を浮かべ、オーバーに両手を広げて見せる。
「ここにいる人間は、さっきの男以外、全て優秀な学術の徒さ。紹介も何も、この場所で今現在、このふざけた状況に立ち向かっている全ての人々こそ、真に優れた人材だとも」
「そういうのはいらない。アタシ達は、ここのゴタゴタに好んで首を突っ込むつもりはないの」
いちいち自分に酔ったような物言いをするアリシアに、ファラは靴先でトントン床を叩きつつぶった切る。そんなファラに、アリシアはやれやれと肩を竦めて、妙にわざとらしくため息を吐き出す。
「アンタねぇ」
「ストップ」
ファラがアリシアに食ってかかりそうになるのを止める。なるほど、古い知り合いってだけあってファラが感情的になるポイントを良く知ってる。
「つまり、ここで戦ってる連中は全員優秀だから、連れていかれると困る、って事か?」
ファラの腰をポンポン叩きつつ聞けば、アリシアは急に表情を消して、つまらなそうに俺を見る。
「君と話す気分ではないんだがなぁ」
どうやら俺はお呼びじゃないらしい。なら、真面目に対応する必要もないか。
「そうか、それじゃ失礼する」
俺は全員に帰るぞと告げて、アリシアに背を向ける。
「おいおい、旧友との再会に横やりとは粋じゃない」
ちょっと慌てた感じで声をかけてくる。どうやらコレのあてはファラのようだ。俺はファラを見ながら聞いた。
「だって、残る?」
「まさか。キャプテンの指示には従うわ。クルーとして当たり前だし」
ファラは手をヒラヒラ振りながら、うんざりした表情でアリシアを見る。
「アタシ何度も忠告したわよね? アンタのその頭でっかちな態度、ずっと鼻につくって。こっちを怒らせて言質を取って、なし崩しがいつものパターンなのを忘れてたアタシも悪いけど、アンタに付き合ってられないわ」
「ファラ、それはちょっと不義理じゃないかね?」
「なんで? いつからアタシ、アンタに雇われたのよ? 連絡したらちょっと顔を見せに来ないかって言われて、用事もあったしついでに来ただけよ」
ファラは面倒臭い雰囲気を隠しもせず、心底嫌そうな表情でルルを抱っこする。ルルパワーで回復するんだろう。
「がんばってねー。もう二度と連絡しないけど」
「……」
道中の雰囲気を察するに、ここはじり貧なのだろう。ここで動いている人間に覇気が存在しない。遠からず、彼らが戦っている存在に飲み込まれて終わりだな。作戦的なモノの立案であったり、それらを指揮するような人物がいないのかね? それなら俺のあてが思いっきり外れた事になるんだが。
「……すまない、手を貸して欲しい」
つらつら考えながら歩いていると、意を決したようにアリシアがボソリと呟く。それを聞いたファラは立ち止まり、自分の耳をトントンと叩く。
「聞こえない」
ファラの一言にアリシアは、何かをぐっと飲み込んで、頭を下げて叫んだ。
「手を貸して欲しい!」
「タダで?」
「ぐっ……」
意を決した言葉だったのに、思いっきり現実を叩きつけるファラさん。さすがはベテランのギルドメンバー。確かにそれは大切なところだわな。
「金は無い」
「どうすんのよ? 無償の奉仕を期待してるなら、アンタ初手で間違った対応してんだから無理よ? それと頼む相手間違ってるわよ? アタシはただの平クルー。このメンツの決定権を持ってるのは彼よ」
「どーもー、お話したくない男でーす」
「ぐっ?!」
苦虫を何百匹噛み砕けばそんな顔できるん? と心配になるくらいしっぶい顔をするアリシア。
「すまなかった。力を貸して貰いたい」
「ま、どう見てもじり貧だもんなぁ。自分達追い詰められてます、酷い状況です、この状況下で見捨てて行かれるんですか? って思わせる為にここを選択したんだろうしな」
「うぐっ!」
「学者馬鹿、考えが浅いのよアンタ」
「誠実さもありませんしね」
「だめだめのだーめねー。ひととしてじくがぶれてる!」
「追イ詰メチャ駄目ダゼ」
「くずですわん!」
「ううぅぅぅっ」
俺達のダメ出しに、尻尾が萎れてぺったんこになってしまった。この外見は特だなぁ、責めすぎると良心の呵責が酷い。
結局、俺が折れる形で話を促す。
「はあ、まず目先の大きな問題は何だ?」
「え?」
「お前さんの行動は色々思うところはあるがね、あれは大したもんだと思ってんだよ」
俺が話を聞いてくれるとは思っていなかったのか、目を真ん丸にしたアリシアに、俺は指で食堂の端っこを指差す。そこには痩せ細った子供達が、涙を流しながらカロリーバー的な物をかじってる姿があった。
「大人の都合で子供が困る、ってのが一番ムカつく行為だ。その子供達を助けているっていう部分は評価できる。で、どうなんだ?」
「あ、ああ、ありがとう」
「助けるって話じゃねぇぞ? 話を聞いてみない事には判断がつかねぇって事だからな?」
「それでも、ありがとう」
「最初からそうすれば良かったのよ。本当、何で普段は頭が回るくせに、一番重要な部分でポンコツなんだか」
「うぐぅっ」
ファラのツッコミにダメージを受けながら、アリシアは現在の状況で一番何が問題かを教えてくれた。
「あー『貧者の守り手』が食料の供給を邪魔してる?」
「ああ、そこが一番の問題なんだ。
「自動調理機とかフードカートリッジとかは?」
「そもそも、基本インフラ回りも厳しい」
「守り手が攻めてどうすんだよ」
俺のぼやきにアリシアが教えてくれた。
どうもルナ・フェルムでは、幼少時期に徹底的に教え込まれる教訓があるらしい。それは、『タダより怖いものはこの世にない』だそうだ。何か美味しい話があったとしても、そこには必ず裏があり、絶対に危険が待ち受けている。幼少時にこれを教え込まれ、守り手のボランティア活動を裏があると疑い、貧しく苦しくとも利用しなかったらしい。すげぇなルナ・フェルム民。
「なるほどなー、計画が色々上手く機能しなくて、より直接的な方向へ舵を切ったってところか」
さあて、これは面倒になってきましたー。これってよくよく考えれば、放置した場合、絶対にアルペジオにとばっちりが来るよな。すげぇ近いし。
うーん。とりあえずの危機は食料だと。別に上では食料が無くなっている訳じゃなかったし、やり方はいくらでもあるっちゃある。
「交換条件だ」
「ん?」
「食料の事は何とかしてやる。条件は、政治、経済、軍事、法律に精通した人材のリストアップで手を打つ。どうだ?」
「金では無く?」
「ああ、金より人材が欲しいんでな」
俺の言葉にアリシアはしばらく考え込む。
「そのリストの人間を無理矢理勧誘とかはしないよな?」
「当たり前だ。こちらの条件を話して、その上で協力してくれる人間をスカウトしたいだけだ」
アリシアは再び考え、それでやっと納得したのか、モッフモフな右手を差し出してきた。
「交渉成立って事でいいか?」
「ああ、頼む。助けてくれ」
「了解」
残念ながら掌に肉球は存在していなかったが、その手は思ったよりも女性らしい感触をしていた。
さて、やる事は決まった。結局、首を突っ込む事になっちゃったが、どうにも弱ってる子供を見ちゃうとなー、放っておけないんだよねぇ。ま、やると決めたんだ、徹底的にやってやろうじゃないか!
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