第58話 おや、知りませんでしたか? 俺の目は節穴です

 一旦、作戦会議を開こうとなって、船に戻ってきました。いやー、帰りもなんちゃって商人さんが凄かったな。


 船をしっかり守っていたマヒロを労いつつ、リラックスルームで一服しながら、アルペジオ残留組に超空間通信で集合をかける。


「という話を聞いてな」

『信じられませんの。本当ですの?』

「義理らしいけど、息子が直に語った話だからなぁ、嘘って事はねぇんじゃねぇの?」


 ガラティアにおばあちゃんの武勇伝を聞かせていると、続々とメンツが集合してきた。ガラディアに話したおばあちゃん武勇伝を再び世間話のように語って聞かせていると、ほぼメンツが揃ったので、ルナ・フェルムで直面している問題を相談した。


「それはまた」


 ゼフィーナがうんざりした表情を浮かべて漏らし、ゼフィーナの心情を理解できるのか、他の面々も同じような表情を浮かべていた。そんな中、それまで様子を見ていたシェルファが手を挙げる。


「ん? どうしたんだ?」

「ええっと、疑問というか心配というか、誰も指摘しなかったので、気づいてないのかな? って思ったんですけど」

「うん」

「報酬のリストなんですが、どこぞの紐付きであるとか二心ありとか、そういったリスクの回避方法は用意がある、んですよね?」

「……」


 別の意味で空気が固まった。


 あれ? どうしてそんな重要な事、スコーンと抜けてた? そうじゃん! こっちに対して帰属意識なんて持ってないんだし、いくら待遇を良くしたところで安心なんかできねーじゃん!


「アルペジオの場合ですと、ガラティアがそこの部分を上手に調整していましたし、才妃の皆がシスターズを鍛えていましたし、相互監視みたいな状況でしたから心配してなかったんですよね」


 衝撃を受けていると、シェルファが追撃を入れてくる。そうして、俺は実に能天気に生きていた事を実感してしまった。


 アルペジオですら結果としてラッキー、それまで危ない橋を渡っていました、という状況だったんだなんて……なんてこったい……


 頭ん中、お花畑状態で、なんでこんなに危機意識が低いんだ?


『クランホームの雰囲気でしょうねん』

「え?」


 唐突にアビィが口を挟み、その言葉にガラティアがなるほどと激しく頷く。


『びっくりするぐらい、クラン「遊戯人たちの宴」の日常に近い雰囲気ですのん』

『つまりですの。純粋にゲームの延長線上として無意識に思い込んだんですの。NPCですの』

「いや、それは……」


 何て傲慢で、何て愚かな……


『才妃達をメイドの道に引きずり込んだのは、自分の責任だと思ったからですの。そこに裏切る裏切らないというファクターを、ガラティアですら認識していませんでしたの。こればかりはご主人様を責められませんの』

『そうですのん。ただの人格AIであるあたくしですら、同じ認識でしたのん』

「……俺は、現実だと認識していたんだと、思いたいんだけどなぁ」


 ゲームの感覚が抜けないで、嫁と思っている相手を、NPCだと思っていた? うっそだろ……


「ちょっと何よ、急に顔色悪くして。それにゲームだとかNPCだとか、何の話をしてるのよ」

「あーんー」


 これはもう、正気を疑われるとか、妙な薬をかましてハイなテンションになってる、と言われようとも説明するべき事なんだろう、なぁ……


「あー、今から言う話は、嘘でも何でもない、厳然たる事実だ。そこは疑わずに信じて欲しい。そして先に謝っておく、ごめんなさい」


 俺はそう前置きをし、自分のこれまでを詳細に語った。


 天の川銀河の太陽系という場所に存在する第三惑星、地球という星の日本という国で生まれた事。


 地方のちょっとした裕福な旧家に生まれ、家族から疎まれながら生きてきた事。実家の事業が失敗し、俺一人を残して家族が蒸発した事。実家の事業を乗っ取った叔父が状況を知っていて、呆然としていた俺を引き取ってくれた事。


 叔父の家には半年程度厄介になったが、叔父の娘が海外留学から帰って来てからは敵視され、耐えきれなくなって施設に逃げた事。


 高校は夜間、昼はバイトで何とか卒業し、大学へ進学できるレベルではあったが、将来に大した希望を持っていなかった俺は、適当に選んだ会社に就職して、そこがブラックに近いグレーな会社であった事。


 社会の理不尽を色々体験し、会社の理不尽で体を何回も壊し、最終的には社会から逃げでしてボロボロの身体で余生を生きる決意をした事。


 そんな時にフルダイブゲームに出会い、ここに完全一致するような世界観のゲームでこっちでレガリアと呼ばれている超技術を産み出す技術者のような職業で遊んでいた事。


 脱コミュニケーション状態だった俺を、デミウスというその後の戦友と出会い、生きてみてもいいかと思い始めた事。


 楽しかった事。


 変態変人しかいないクランの事。


 思い出が一杯で、語り尽くせない事。


 その俺にとって居場所とも言えるゲームが終わる事が決まった事。


 最終イベントには参加していた記憶はあるが、気がつけば宇宙に放り出され、自分の姿が変わってしまった事。


 そこから隣人に襲われて倒し、なんやかやでアビィの施設へ行き、修行後にゼフィーナ達と出会い、アルペジオへ行き、ルルと出会ったりと全てをゲロった。


「はぁ……つまり、そのゲームの時の雰囲気と今のアルペジオが同じで、アンタらはアタシらをゲームの登場人物のように感じてる、って衝撃を受けてるって事でOK?」


 ファラの要約に、俺はゆっくり頷く。すると顔面に凄い衝撃が走り、身体が真後ろへ吹っ飛んだ。


「つぅぅうっ」

「バッカじゃないのっ!? ガラティアもアビィ……アンタはどうだろう? とにかくガラティアも、何て下らない事にショックをうけてんのよっ!」

「そうですね。確かに聞いた話が事実だったとして、いえ、皇帝がいるって事は事実なんでしょうけど、実に馬鹿ですね」

「ヤーイ、バーカバーカ、ダゼ」

「しょうもなですわん!」

「ねーねだめっ! とと様いたいいたい!」

「いいのよ、馬鹿はこうでもしないと自覚しないのよ」


 どうやら殴られたようだ。鼻血は、出てないな。ちょっと前歯がガクガクするが問題ない。ルルの小さい手が殴られた鼻を、サスサス擦る。ちょっと痛いです、ルルさん。


「ほら、こっちを見なさい!」


 襟首を捕まれ、ぐいっと持ち上げられて、真正面からファラと向き合う形になる。


「アンタねぇ、さんざんアタシ達で悦しんでおいて、ゲームのキャラクターでした、と思えるの? 何? 何なら妊娠でもする?」


 あまりにぶっとんだ言葉に、身体から力が抜けて笑えてきた。


「すげぇ殺し文句だな」

「アンタが今ここに居て、アタシ達が今同じように居る、たったそれだけの事で何をそんな衝撃を受けるのか、理解不能よ? 心情は理解するけどね」


 何というか、確かにこいつは姫様なんだな、と激しく実感してしまう。この気質は、この有り様は、まさしく高貴なる人だわ。


「タダ働き決定。アタシ達はただのお人好しの、ちょっと危機意識が低いのが弱点でした。それで終わる事を、そこまで深刻にならなくてもいいって話。分かった? 旦那様」

「そうだな。ああ、全くもってその通り」


 もう頭が上がらんわ。一生、この魅惑的な尻に敷かれて生きていくんだろうな俺。それはそれで幸せだろうけども。


「ガラティアもアビィも、もうこの話は終わり。気にしない。それでいいわね?」

『ご配慮ありがたく、大奥様』

『同じく、感謝しますわん御姉様』

「いや、アンタに御姉様と呼ばれるとゾワッとするから止めてくんない?」


 こうして俺の目が節穴だった事実が判明し、それと同時にいつか話さないといけない過去の事もぶちまけられて、ちょっとスッキリしつつ、本題の食料をどうするか、その力業でもって突破する方法などを相談しつつ、今後の行動指針を固めていくのであった。


--------------------------------------------------

 感謝を述べたいと思いこのスペースを使います。


 どうも、いつも読んでくださってる皆さま方O-sanと申します。


 今回は、とてもありがたいご指摘をいただき、それがもとで今回のエピソードが出来上がりました。


 読んでいただいた上に、とてもありがたいご指摘をいただき、色々と話が膨らむ事となりまして、ありがとうございます。


 これからも頑張っていく所存でありますので、よろしくお願いします。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る