第53話 夢の都? 夢の島?

 うちのクランのコロニーとステーションは、いわゆる近未来的な宇宙生活イメージが根底にある。つまりは海外テレビドラマ的な、基本的な科学の延長線上の超技術的な空間、とでも説明すれば良いだろうか。身も蓋もない、ド直球で説明するなら宇宙世紀ダブルオーなんちゃらだ。あれよかもう少しSF要素が強いが。


 ルナ・フェルムはどうか。しっくり来るのは、七十年八十年代初期くらいの、当時ごっりごりのSFとされていた感じだろうか。超技術が身近に存在し続け、それが生活として馴染みきり、所帯染みた当たり前の光景となった感じ。これも説明が難しいが、いずれ人類が到達できそうなSFが俺らのクランコロニー。とんでも理論が根底に存在するオーパーツ的なSFがここ、という感じだろうか。


「生活感が凄いな。カオスな感じが特に」

「こういう雰囲気は、共和国側だから、なんでしょうか?」

「うーん……ちょっとおかしいかも」


 は虫類的な外見をした人種、犬の頭部をしたもっふもふな人種、同じような猫、鳥、よく分からない動物系の頭部をそれぞれした人種、本当に凄いとんでも人種が闊歩している。これほどまでに、『ああ、まじで別の世界に来ちゃったんだ』と実感する光景は他にはないだろう。


「知り合いの話と違う、か?」

「そうなの。そいつ、バザム出身なのにクッソ真面目な奴で、故郷を誇ってる人間だったから嘘なんて吐かない分類の奴だし……凄くモヤモヤする」

「ふむ」


 ファラが聞いた話では、雑然とした感じではなくて、イメージとしては、秋葉原のかつての電気街みたいな専門店が、こうズラーとストリート単位で並んでいる感じで、商品のジャンル別に並んでいるストリートを、目的の品物を探して練り歩く、という感じなんだとか。


「ぐっちゃぐちゃですよね?」

「ぐっちゃぐっちゃぐっちゃぐっちゃ!」

「専門的な感じはしないな。というか、ボル気満々な商品ラインナップだしな、あれ」


 どこの店も、並んでいる商品が粗悪品ばかり、しかも値段がこれまた酷い。二束三文レベルの品物ばかりなのに、全てが正規品より二倍から三倍の値段設定になっている。だからか、どこの店にも誰も足を止めない。


 それに治安も良くないな。さっきからちょいちょい、スリというか俺たちの武器を狙った奴らがうろちょろしている。


「面倒臭い」

「同感、つかちょっとアイツに連絡してみようかしら」

「いやあ、嫌な予感がしますね!」

「しますーしますー!」

「なんで君らは嬉しそうなんだい? 嫁と娘よ」


 何を期待してドキドキワクワクしてるんだか。


「とりあえずミツコシヤ本店に行くべ。さすがにあのおばあちゃんの直系が、こんな詐欺まがいの商売はしてないだろうし」

「わーい! アメー!」

「飴あるんかな? でもおばあちゃんの本店だからあるか」


 俺らがそんな会話をしていたら、周囲でうろちょろしていた奴らの動きが止まり、何やら慌てた様子で立ち去った。


「何だ?」

「いなくなっちゃった」


 幼児(実年齢は少女であるが)に気配を感じ取られるスリ(多分)って、犯罪者やめたら? ってレベルじゃなかろうか。いや、うちの娘ちゃんは、こんなだけどしっかり訓練してるスーパー幼女だけどさ。


「あ、タツロー。あそこから雰囲気違ってますね」

「ん?」


 シェルファが指差す場所は、まるでそこからシールドでも張られているかのように、きっちり境界としてカオスと秩序のように分かれている。そして、そこからは先ほどのイメージ通りの光景が広がっている。


「うん。こりゃあ、とっととあっち行くべ。娘ちゃん、合体!」

「にーに! わんわん!」

「オレ達モヤルノカヨ、ダゼ」

「ですわん」


 がしがしと俺の体を登り、まずルルが肩車。ポンポツがピョンと俺の背中に張り付き、さらにポンポツと俺を踏み台に、ファルコンがルルの頭に引っ付く。これでよし。


「ほら行くぞ」

「ああ、ちょっと、今連絡中」

「はいはい、こっちですよ」


 小走りで混沌空間を駆け抜け、境界の先へたどり着く。


「お、兄さんの武器、それ職人の一点モノちゃう? こっちのこのパーツとかどない? 出力上がるんちゃう」

「おいおい、自分とこのパーツとかあかんわ。兄さん兄さん、こっちのこのバッテリーとかどうや? マッチすると思うねん」

「お、マジだ。値段……適正だな」


 俺の武器を見た商人達が、わらわら寄ってきて、自分達の店の商品をおすすめしてくる。どれもこれも実際使えるパーツで、なるほどしっかりした目利きの商人だと分かる。


「あー、向こうの奴らと一緒にされたらかなわんわ」

「そうやそうや、あっちは勝手に店をやってる奴らばかりやで。まあ、あんさんは目利きが出来るみたいやし、騙されるちゅう事はないんやろうけどな」

「勝手に? ここの管理は……大商会の序列上位の商人達による投票だったか、そんな滅茶苦茶通るのか?」


 店に並んでいる商品を、手にとって品質なんかを確認しつつ聞くと、商人達は苦虫を百匹噛み締めたような表情を浮かべる。


「このコロニーの所有者ちゅう輩が現れてな、ルナ・フェルムの支配者とか名のって、滅茶苦茶やりおるねん」

「……」


 何かどっかで聞いた事のあるような、ないような。


「タツロー? ダメですよ?」

「俺じゃねぇよ!」

「とと様はせいぎーのひーろー!」

「うふふふ、冗談です」


 何でも、その支配者とやらが、勝手にドッキングベイからこのストリートを繋ぐ場所を、自由解放商区なる場所に指定し、大商会の商人達が出張るより早く、どこから話を聞き付けたのか、明らかにモグリの商人達が簡易的な店を開いて商売を始めてしまったのだとか。それのせいで治安が悪化し、それが問題となっているらしい。


「あー旦那様、かなり面倒臭い」

「あんだよ?」


 商人達の愚痴を聞いていると、旧友と連絡を取っていたファラが、美人がしちゃいけない表情を浮かべて、苦いものを吐き出すような感じで切り出した。


「その支配者、どうも色々やらかしているみたい。お陰でこっちの予定がおかしくなりそう」

「どう言う事よ?」

「支配者を名乗るだけあって、ルナ・フェルムのメインフレームにアクセス出来るみたいで、富裕層と貧困層を作り出して滅茶苦茶やってるみたい。特に貧困層。そこ、私達の目的の学術区画よ」

「……おーもー」


 どうもファラの旧友、結構な学のある人物らしく、ギルドの仕事で大金を稼いでは、興味のある学術を学ぶ為に施設へ入学し、学を修めて卒業し、また仕事で稼いで新しい学術を探して、というのを繰り返す人物らしく、ちょうど学術区に在籍中に、この騒動に巻き込まれたらしい。そして、その支配者と戦っている中心人物だとか。


「はあ、どっちにしても、俺らの目的は人材のスカウトだし、様子を確認してから考えるか。嬉々として首を突っ込むのは無しな?」

「アタシはそれが正しいと思うけどね」


 俺の言葉にファラの視線がシェルファとルルに向けられる。まあ、見るまでもなく、あの二人は首を突っ込む気満々だろ。正確には、俺に首を突っ込ませたい、だろうが。


「まずはミツコシヤ本店だ」

「なんや兄ちゃん、あのミツコシヤさんと知り合いなん?」

「あ? ああ、クヴァース……アルペジオになったの知ってるか?」

「おおっ! 王冠と王権のベッピンなお妃さんもろうた新しい王様の国の事でっしゃろ? いやーええ政治しまっせ、あっこの王様。仕入れが楽になって、えろう助かっとるわ」

「はは、アルペジオにミツコシヤの支店があんだわ。そこの店主と懇意にしててね。その繋がりだよ。品の良いおばあちゃんでな」

「うっわ、ルナ・フェルムの鬼子母神、アルペジオにおるん? そりゃけったいやな」


 何、その物騒な二つ名。あのおばあちゃんからほど遠い異名なんだけど。


「そのお方の知り合いっちゅうなら大丈夫やね。ミツコシヤさんなら、ほれあっこのいっとうごつい店やで」


 商人が指差す先には、そりゃもう城なんじゃね? というくらい巨大な建築物がででどんと威風堂々建っていた。


「何だろう、あっちはあっちで絶対寄っちゃダメな気配をひしひし感じるんだが」

「さすがアタシの旦那様、アタシも同じ気分よ」

「楽しそうですね」

「おっきいねー」

「真逆ノ反応ダゼ」

「性格でますわん」


 あっちもこっちも嫌な予感だらけの中、一応、そこそこお世話になっているし、まあ、おばあちゃんの顔を立てる意味でも行かないとダメですな、という訳で城へに向かうのだった。

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