第50話 O・HA・NA・SIしましょうか?
拿捕した、別にいらん共和国製品の船を眺め、これスクラップにして素材化すりゃ使い道あるんかね? と、ちょっと現実逃避してみる。
「帝国にも宣戦布告したと、そう見なしてよろしいか?」
「……」
「黙って済ませる問題ではないぞ? ちょうど我のグランゾルト艦隊も有る事だし、クライス・ロナでも潰して見せればいいのか? なぁ、共和国の一等星殿?」
アリアンちゃんが荒ぶってらっしゃる。
本当に、ギリギリの部分まで追い詰めて、しっかり敵国の一番トップを生かして捕虜にするマルト君、マジ有能。そして、それを見た他のボーイ達が、俺も俺もと拿捕したのが、目の前に広がるスクラップ三歩手前くらいの船達である。
西部酒場の運用訓練に使うかな、と漠然とは考えているんだが、如何せん粗悪品。これなら近場の資源を内包した小惑星群で、ちゃんと採掘採取した資材を使った方が良い。売ってもいいんだが……売れっか? これ。
「殺せ。我らは誇りある共和国の騎士である。敵国の手に落ちたならば、何も語らず黙るのみ」
何か格好良い事言ってるけど、あれは自分に酔ってる人間の言動だな。あの状況でも自分は無事に助かると信じているんだろうか?
「別動隊が来る予定だったようですよ?」
「ん? お、ありがとう」
シェルファがタンブラーちっくな容器を手渡してくれた。中身はお茶かな? いそいそとストローを差し込んで一口。
「スムージー?」
「なんですそれ? これはガラティアが用意してくれたイライラしてる時に飲むと良いらしいジュースだそうです」
「ほーん」
ヴァイタミン無双的なサムシングかしら?
「それで、別動隊って?」
「ポンポツ君が捕まえてきた公社の人間が持っていた情報に、コロニー内へ破壊工作のエキスパートを招き入れる的なデータが残ってまして、あの人達、そのエキスパートが既に潜入出来てるって思ってるんじゃないんでしょうか?」
「へー」
ジュースをもう一口飲み込み、アリアンちゃんの前でイキっていた男達を見れば、こっちの話が聞こえたのか、真っ白い顔で口をパクパクしながら、俺らを見てくる。いや、こっち見んなし。
「話す気分になったか? ん?」
ま、あいつらも公社の奴らも、コロニー内部で捕縛した犯罪者達も、全部帝国に引き取ってもらう予定だし、好きにすりゃいいさ。
俺らはアリアンちゃんをその場に残し、もちろんいざという時の備えとして、数人のシスターズが輝いた笑顔で箒、もうありゃ武器のレベルだけど、を持って見守ってるから大丈夫だろう、と言う事で公社が入っていた施設へと向かう。
「あ、ご主人様、お疲れさまです」
「はいはい、お疲れ」
公社の中は、かなり酷い。ちょっと、いやかなりスプラッターな様相である。何をやれば、こう、あっちこっちに血痕がぶっ飛ぶんだろうか。
「随分、美味しい蜜を楽しんでいたようで、今の生活を守るために、結構抵抗したようです」
「公社のサラリーってそんなに悪いのか? 不正に手を出すレベルで」
「初任給が毎年アップするような会社ですが何か?」
「それで何が彼らを犯罪に走らせるんだろうね?」
「楽して儲けるのが一番楽しいんじゃないですか? 良く分かりませんが」
「俺も良く分からんわ」
スプラッタな現場を抜ければ、支部長室という部屋にたどり着く。中ではガラティア直属の、俺の才妃になってしまったメイド達がてきぱきと動いている。
「いかがなさいました? ご主人様がこちらに出向かれるような用件は、こちらで把握しておりませんが?」
「あ、いや、住人達の様子はどうかなと、それが気になってな」
「なるほど。ご心配には及びません。大した混乱は無く、むしろとても歓迎されていますよ」
「……え? マジで?」
「うふふふふ。正常にコロニーを運営して、正常に治安を守ってくれて、不適切な税金の徴収などせず、適正よりやや低いレベルの税金で暮らせる……この条件で難癖付ける者がいたら、私達が叩き出しますよ」
「お、おう。穏やかにな」
「やですよ。歓迎されているのに、やりませんよ」
共和国を蹂躙して、西部酒場を曳航して帰った時に、派手で目立つからという理由で、プラチナギャラクティカの艦橋で、アルペジオの独立と俺が王となりライジグス建国をします宣言をしたんだが……もっと混乱すると思っていたんだけどね。拍子抜けだな、こりゃ。
「良くも悪くも、皇帝のおかげというか元凶といいますか、力ある者を尊敬する傾向にありますから。既にマスターズにしろシスターズにしろ、宣言前から目立ってましたし」
シェルファの言葉になるほどと納得する。確かに、メイド達の受けは良かったな。
「ご心配には及びません。ここを徹底的に改めて、住民の皆様が笑顔で暮らせるような、そんな仕組みを構築しますから」
「おう、頑張ってくれ。あー、あんまり頑張りすぎずに、時々休めよ? 頼りない旦那だが、胸、肩、太もも、腕等、貸せる場所はあるからさ」
「っ! 今度っ! 是非っ!」
「お、おう」
公社を後にし、クランホームにでも戻るかな、と思った時、いつも飴を買い求めるお店のお婆さんが手を振りながら歩いてくる。
「どうしました?」
何か問題でもあるんかいな? そう思って聞くと、お婆さんは少し驚いた顔をしたが、すぐにいつもの笑顔でペコリと頭を下げる。
「いえいえ、ライジグス陛下、私のような商人相手にそのように優しい言葉をいただけるとは、有難うございます」
「あ」
すっかり忘れてた。外では王様らしくしろってガラティアに言われてたんだっけ。お婆さんはそこを丁寧にフォローしてくれたようで、うおー慣れねー! 普通でいいじゃん普通でさー!
モード横柄な俺様、モード横柄な俺様と。
「こほん、許せ。何分、成り上がりなモノでな」
「うふふふふ、いえいえ、こちらこそ足をお止めしてしまい、大変な失礼を」
あー、この暴君俺様設定、嫁達のチョイスだけど、あがー! 乙女ゲーのキャラかっつうのっ! いや、やった事ねーけどさっ!
「して、何用かな?」
「はい、バザム通商同盟から陛下へ、是非に会談をと。侍女の方にお願いしようと思っていたところに陛下がいらっしゃいましたので」
「あー、暇だからな……こほん、失礼。どのような会談内容だろうか?」
「クヴァース、いえ、アルペジオにおける関税関係と、交易などの内容だとは聞いております」
「なるほどな……一旦預かる。自分一人で決めるわけにはいかんのでな」
「……うふふふふふ、そうですか。はい、より良い返事をお待ちしております。あ、王女様に飴を献上したいのですが」
「献上? 必要ない。また買わせてもらう。価値ある物には対価を支払わなければな」
「……ありがとうございます。お待ちしております」
「うむ、ではな」
「はい」
お婆さんが立ち去り、慣れない事で肩が凝った気がして腕を回していると、シェルファが笑い出した。
「何だよ?」
「うくくくくっ、い、いえ。随分と身近にいる権力者だなーと」
「似合わんのは理解しとるわ」
「いえいえ、確実に皇帝には勝てます」
「?」
「まあまあ、通商同盟の件、ゼフィーナさんに相談しましょう?」
「お、あ、ああ」
シェルファは妙にご機嫌に、俺の腕を嬉しそうに抱き締めて、ぐいぐい引っ張って歩いていく。何なんだよ? 何か機嫌が良くなるような事あったんかいな?
「タツローはそのままのタツローでいるべきですよ」
「はあ? なんのこっちゃ?」
「分からなくてもいいです。きっとずっと変わりません」
「?」
良く分からんが、嫁が嬉しそうなら、まあそれはそれで良いんじゃないかな。そんな事を思いながら、シェルファにひっぱられ続けるのであった。
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