第46話 あいつだけ、やってるゲーム違くね?
それはまるで、大海を泳ぐ魚の群れのように、一糸乱れぬ編隊飛行で駆逐艦へ襲いかかる。
「ランサー隊、このまま駆逐艦を全部落とすぞ」
「「「「了解」」」」
年上のお姉様たちに母性を求めて、どこか浮わついて現実を甘めに見積もっていた少年達は、もうそこにはいない。
部隊単位で統一されたパイロットスーツと、サイバーパンクなヘルメットに身を包む彼らの表情には、自信と誇りと戦士の輝きしか存在していない。かつての甘ったれた子供達は、立派な戦士に成長していた。
「ソード隊はランサーに群がる戦闘艦を叩く。ランサーの背中を守るぞ」
「「「「了解」」」」
ランサーがブルーで統一された船体カラー。ソードがパープルで統一された船体カラー。それが巨大な魚影のように動き、自分達を飲み込むように迫ってくる。こんなに恐ろしい光景はそうそう無いだろう。
どちらの隊の隊員達も、共和国程度の練度では届かない技量であるし、下手をすれば帝国軍近衛兵ですら届かないかもしれない。それでも両隊の隊員達は慢心する事は絶対にない。
タツローがいるから? いや、タツローはもう別格すぎて比較するのも馬鹿馬鹿しくなる。問題は、タツロー直々にメビウス、正確にはメビウスワン、リボン付きというコードネームを貰ったマルトにある。
タツローの方針で、一定の年齢に達していない少年少女には、第二種までの身体強化調整までしか施さない、という決まりがあり、ボーイズもシスターズもほとんどが第二種止まりの強化調整だ。
それは成長途中の段階で施すのは、ちょいとまずいんじゃないの? というタツローの心配から決まった事だが、裏を返せばタツローを代表とする超常者には絶対に勝てない、届かないという事でもある。がしかし……
たった一人だけ、気合いと努力と忍耐力とで、一人の少年がやり遂げたのだ。そう、マルト少年は届かせてしまったのだ。
もとから身体が強いタイプではなく、どちらかといえば弱くて守られていたタイプだった彼は、常に思っていた。悔しい、何故、どうして……僕はどこまでも無力だ、と。
そんな彼は救われる。大好きだったお姉ちゃん達も救われた。これでもう怖くない。そう思って気が緩んでいた時、現実を突きつけられた。リズミラの釘刺しである。
改めて自分が無力である事を、全く理解できていない子供だった事を突きつけられ、マルトは全力で訓練に取り込んだ。まさかの完全コピーデミウスAIに挑戦する無謀さで。
そうして彼は手に入れた。ディフェンサーシステムという武器を。ただその一点のみで、タツローという雲上人を唸らせた。
「本当、あいつだけやってるゲームが違いすぎる」
「もうこうなったら、オレらは他のコロニー解放する時に、出会いを見つけるしかねぇよ」
「それなー」
それと、タツローがマルトを弟のように可愛がる理由が他にもある。
マルト君、その実直で真っ直ぐな少年らしい熱血で、時々魅せる弱い少年らしさで、子供と少年とちょっとだけ青年っぽさに変化してきた色気で、シスターズのほぼ全てを惚れさせてしまったのだった。つまり、ナカーマという感じで、タツローがシンパシーを感じているのだった。
「馬鹿言ってねーで働け」
「まだ対抗意識を燃やせる君が好き」
「馬鹿言ってねーで働け、ごらぁ!」
「へいへい」
ディフェンサーシステムを使いこなし、戦艦からのレーザーをディフェンサーで弾き、ディフェンサー搭載のシールドを使って戦艦のシールドをブレイクし、すかさず大量のエネルギー注入式のミサイルで重要区画を損傷させていく。遠くから見ていると、本当に一人戦闘大隊状態だ。
「ランサー隊、駆逐艦の除去率八十」
「ソード隊、戦闘艦の除去率七十五」
「メビウス、戦果、戦艦一、重巡洋艦二十五、巡洋艦三十二、ミサイル艦十五、大型フリゲート艦二、フリゲート艦五」
ホワイトブリムからの通信に、少年達は気を引き締め直す。遊んでる場合じゃない。まさかここまでスコアを引き離されているとは思っていなかった。
「ゲームが違うとか言ってられんぞ! こっちもさっさと終わらせて合流する」
「「「「了解」」」」
ランサーとソードが合流し、一気に駆逐艦と戦闘艦、レーザー艦を潰そうと動いた時、宙域全体に強制的な通信が割り込んだ。
『ごきげんよう。自分は教団で神官長をしておりますニブム、と申します。ええっと、ライジグス、でしたか? 新国家とやらに告げます。我々はクヴァーストレードコロニーを破壊する準備を整えた。今すぐ武装を解除し投降する事をお勧めする』
かつて地球で一番有名になった宇宙人像。リトルグレイそっくりな顔形をした男が、瞳を真っ黒に染め上げて、妙に細長い手足を振り回し、全身をガックンガックン痙攣させながら宣言したのだった。
○ ● ○
「正妃様?」
「構わん、無視しろ」
「ですよねー」
モニターを確認すれば、エッグコア隊もホワイトブリムも全く動揺した様子も無く、淡々と作戦を続けている。
「では第二シークエンスに入りますかー。オールドシルバー準備は出来て?」
『はっ! 準備万端整ってございます』
「はーい。ではドッキングしてくださいー」
『了解しました。クイックシルバー、プラチナギャラクティカの補助システムとしてドッキングします』
いつの間にかプラチナギャラクティカの背後に存在していた大型戦艦が、真ん中から真っ二つに割れ、プラチナギャラクティカの側面に合体し、更に船が巨大になる。
クイックシルバー。プラチナギャラクティカのとある機能を使用するために存在する補助戦艦。もちろん単艦での運用も可能な、TOTO作の頭クレイジーシリーズその二である。
「クイックシルバーとのリンク確認。ジェネレーター直結」
「火器管制システム……リンク完了」
「正妃様、準備完了です」
「うむ。これで旦那様の読み通りなら」
「射って来ますかねーマスドライバー」
頼もしく振動を始めた足元を見つつ、ゼフィーナとリズミラは黒い微笑みを浮かべるのであった。
○ ● ○
「アパッチを持ってたから、そんな気はしたんだよなー」
リトルグレイ男が、何やら教育上凄まじく良くない感じで、激しくトリップしながら罵詈雑言叫んでいる動画を、意識的に無視しつつ、俺はハイパードライブを使用してとある場所へと移動していた。
「ポンポツ、ファルコン、教育的ガードは完璧か?」
「やってやってるわん」
「見セラレナイヨーダゼ」
「まえがみえねー!」
ポンポツがルルの耳を押さえ、顔面にファルコンがもふもふアタックをしているのを確認して、二人に親指を立てる。なんだか段々、こう股間辺りがビルドアップしてきているリトルグレイとか、さすがにルルには見せられん。
「マイロード、ビンゴです」
「やっぱり?」
「はい、彼らが使っていたステーションの一部を、不完全ながら占拠しているようです。マスドライバーも使えますね」
俺らが目指している場所は、かつてマカロニさんのクランが設置したステーションだ。確かクランの貿易関係で使っていた場所だったか、目的の場所近くまでマスドライバー、巨大な物資輸送目的のレールガンで荷物を射出し、目的地近くで回収するという運用で使用していた設備だ。
まあ、ご覧の有り様で、使い方によっては軍事転用可能な設備なので、本来なら厳重なロックや警備をするんだが……あのクラン、ソフト方面疎かにしてたからなー……警備もザルだったしなー……侵入するの簡単だったんだろうなー……
「あ、切れた」
「んお?」
モニターを見ていたシェルファの呟きに反応すれば、リトルグレイが地団駄を踏んで叫んでいる。
『もう許さんっ! クヴァーストレードコロニーよ! 恨むならお前達の王を恨め!』
いや、ちゃんと責任取ってお前が恨まれろよ。何で俺が恨まれなくちゃならんねん。
「うっわー、あれが合体したプラチナかー。あの状態でやっと使える主砲って、どんな威力なの?」
火器管制システムから出てきたファラが、俺の背中に張り付いた状態で聞いてくる。
「ああ、圧縮破壊砲な。惑星を破壊できる」
「え?」
「惑星を破壊できる」
「え?」
「惑星を――」
「もういいわっ! え? それ射つの?」
「最小出力でな。デモンストレーションにしたいんだと」
「……あの二人が何を目的にそれをやるのか、分かっちゃったあたしも腹黒なのかしら?」
「綺麗な白肌だったぞ?」
「もう、そういう事じゃなくて」
イチャコラしてたら、シェルファの威圧がががが。
「さ、さーて、そろそろ火器管制に戻ろーっと」
この状況で逃げやがった。えーっと、ちょいちょいと手招きすると、シートを動かして俺の近くに寄る。とりあえず頭を撫でておく。
「平等、大切です」
「アッハイ」
微妙にマヒロが呆れているのを感じていると、コックピットにアラームが鳴り響き、モニターに大きめの小惑星規模なデブリを射出する、マスドライバーの様子が映し出され、リトルグレイの狂ったような笑い声が響き渡った。
そう、上手くいくかな?
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