第45話 借りはきっちり返却する

 動く白亜の城、とでも言えば良いのか。作った人が女性だから、デザインがかなり女性的でゼフィーナもお気に入り。手伝わされた時に、頭クレイジー過ぎへんこれ? と思ったものだが、ファラの件で懲りた俺は自重を辞めたので、これはこれで実に頼もしい。


「ただなぁ、やりすぎじゃないだろうか」

「気持ちは分かります。ええ、気持ちは凄い分かります。そこは分かってあげて欲しいですよ? タツロー」

「そうよ。何であんな小汚ない野郎に、心底気持ち悪い目で見られなくちゃならないのよ。分かれ旦那様」

「アッハイ」


 いやまあ、俺としてもムカッ腹は立つんですけどね? でも、さすがにブラストマグナムレーザーを通常より高出力で、エクス・マウル式ハイパータキオン素粒子注入タイプミサイル百発は、オーバーキルってレベルじゃねぇぞ!? となるんだが。


「マイロード、敵船アパッチ、有視界距離」

「おう。こっちはこっちの仕事をしよう。総員戦闘配備」

「「「「はい!(あーい!)(ウィー)」」」」


 デミウスが使っていたブレイジングイーグルは、確かに戦闘艦としては完成形に近いんだが、何しろアレはあの『大災害』個人のパーソナルデータに基づいたカスタマイズ宇宙船なんだよね。つまり、あの船の調整は全て超感覚持ちの、アイツに合わせた超絶ピーキー状態、使い勝手が悪すぎる。


 という事で、アルペジオに残されていた俺が採掘とかに使っていた船、それを色々といじり、俺専用に調整した戦闘艦を作った。


 船の名前はオールドシルバー。見た目は完全に翼の無い戦闘機っぽい感じで、鋭くシャープな印象になるようにデザインした。そして、コックピットを完全新規のシステムに一新。かなり大掛かりな船になってしまったのは否めない。


 コックピット中央に球体があり、その中に入って火器管制を一部引き受けるファラ。その外周にリング上に三方向へ配置されたシートへ、オペレーターのシェルファ、全てをサポートフォローするマヒロ、安全に配慮した球体型のシートにルルと監視役のポンポツとファルコン。そして、宙に浮いた感じのパイロットシートへ俺が座る。モニターはもちろん三百六十度フルライブモニターを採用して、直感的体感的な操縦が出来るようになっている。


「ステルス状態解除します。ファラ、火器管制を」

「火器管制システムリミッター解除。システムオールオンライン」

「マヒロ、ジェネレーターよろしく。情報管制システムチェック入ります」

「ジェネレーター出力調整。火器管制回りの出力調整。マイロード最終チェックを」

「はいよー」


 はい、もうね、ソロでヒャッハーとか出来ないレベルで、個別のクルー能力必須なコックピットになっております。だってねぇ? 俺が今後ソロで動くとかって、もう無理だしな。なんせオイラ王様だしなぁ。


「チェックオッケー」


 最終チェックを終わらせたタイミングで、コソコソしていたアパッチ五隻が動き出した。うん、やっぱりアパッチの能力を完全に使えてないな。この距離でやっと気づくとか……マカロニちゃんが泣くぜ。


「敵のジェネレーター稼働率増大」

「連携よろしくっ!」


 グッとフッドペダルを踏み込み、同時に操縦桿を思いっきり引き上げる。船体が急上昇し、ちょっと前までいた場所へ何かが突っ切って行った。初手レールガンな、それはちょっと考えが足りなすぎる。


 レールガンというのは、狙撃にしか向かない兵器なんだよ。いやこれが、散弾をブッパするシャードキャノンとかなら、距離があれだけどまだ分かる。レールガン連射って、それはアカンだろうに。


「さて、借りを返しに行こうか」


 相手が素人だろうと玄人だろうと、やる事はやりましょうか。


「行くぞ!」


 操縦桿をダイレクトに動かし、細かくフットペダルを踏み分けながら、一番動きの悪いアパッチへ突っ込む。


 急加速し急角度でアパッチの背後へ、上から落ちるような機動で突っ込み――


「バニッシュ!」

「シールド効率変動」


 すれ違う瞬間に船体側部に、それ専用につけた突起へシールドが集中し、アパッチのシールドをブレイクする。そこへすかさずファラが制御しているレーザーが連続して射ち込まれ、あっけなく船体の真ん中から折れ曲がって爆発四散した。


 こっちはヘッドオンしなくても、専門で火器管制してくれるクルーがいるんだよ。いやー楽でいいわー。


「敵船散開」

「そりゃあ悪手だろうにっ!」


 連携して逃げ道を塞ぎながら、じりじり削って、としないと勝てないぞ?


 散開した四隻は、偏差射撃など考えもしないレベルで、ただひたすらにレールガンを連射しまくる。


 こちらはヒラリヒラリと回避し、動きの悪い奴を追えば良い。それにレールガンをそんなに連射なぞしたら――


「敵船、ジェネレーター反応減衰」


 レールガンが狙撃用と言われ、最終的にはゲーム内から駆逐された理由。ほとんどの戦闘系パイロットからネタ武器と思われている理由が、エネルギー効率の、コストパフォーマンスの圧倒的な悪さだ。


 レールガン、超電磁砲はエネルギーを電磁力に変換し、そこへ弾丸を用意して射出する。たったこれだけだが、その仕組みがすでに兵器としての、欠点となってしまっているのだ。何せ、レールガン運用エネルギーの五分の一程度で、重レーザー数発分なのだから、レールガンの弾丸一つで、エネルギー注入タイプミサイル一ダース分なのだから。そりゃ駆逐されるわな。


 すぐに二隻目へ狙いをつけ、一定距離を保つように移動すれば、こっちの意図を察したファラがしっかり攻撃を合わせてくる。


「二つ目!」


 レーザーでシールドを叩き割り、そのままレーザーで蜂の巣にして撃墜。残り三隻。


「マカロニさんとこのクラメンは、もっと上手に使えてたぞっ!」


 楽しくなってきたっ! さあ、油断せずにガンガン行こうかっ!



 ○  ●  ○


 帝国撲滅艦隊の約半数が蒸発したのを目撃したクライス・ロナ方面、共和国第十三撃滅艦隊は、上に下にの大騒ぎであった。


 逃げ出そうとする者、あまりの事に呆然と現実を拒絶する者、訳も分からずひたすら罵詈雑言を叫び続ける者。そんなカオスに包まれた中、一人素早く立ち直った上級士官が、全艦に向けて叫んだ。


「足止めをしろっ! 全駆逐艦はそのまま突っ込め! フリゲート艦に搭載された戦闘艦を全部差し向けろ! その間に重要な艦船は撤退する!」


 とんでもない命令だったが、確かにこれ以上、戦艦やら重巡洋艦やらを撃墜されると、完全にクライス・ロナに戦力が消え失せる。それはカッスカスの共和国領内を、どうぞお通りくださいと言っているようなモノだ。


「レーザー艦も置いていく! 戦艦及び巡洋艦以上の艦船は撤退準備! ハイパードライブ可能距離まで下がれ! 下がれ!」


 死んでこいと命令された駆逐艦や、レーザー艦、フリゲート艦に搭載されている戦闘艦のパイロットたちは、悲壮な覚悟で前進を開始した。


 そして彼らは見てしまう。白亜の巨城の後ろに、もう一隻の巨大な船がいる事を。



 ○  ●  ○


 エッグコア専用運用フリゲート艦ホワイトブリム。その艦橋には白と黒の悪魔、いやメイドさんが大勢座っている。


「はい皆さん、これから実戦です。訓練で行った全てを発揮しましょう」

「「「「はいっ!」」」」


 テティスの言葉に、シスターズが元気良く返事をし、すぐに耳近くで作動する自立式のヘッドセットを起動させる。


「メビウス、スクランブルです。準備はよろしいでしょうか?」


 オペレーターの一人が呼び掛ければ、中央モニターにマルト少年がアップで表示される。パイロットらしいパイロットスーツに、各種プロテクターが付き、きっちりヘルメットを被ったその姿は、普段よりも三倍くらい凛々しく見える。


「メビウス了解。装備オーダー、ディフェンサーシステムタイプβ」

「はい、オーダー承ります。ディフェンサーシステムタイプβ用意。そのまま発進どうぞ」

「サンキュー」


 コックピットユニットであるコアが、それ専用に改造されたカタパルトから打ち出され、用意されていた装備を途中で装着しながら宇宙へと射出される。


「メビウス、これより撤退行動中の艦隊へ向けて攻撃を仕掛ける」

「はい、お気をつけて」

「サンキュー」


 たった一人の大隊隊長を任命されているマルトは、そのまま船を加速させて撤退行動をしている艦隊へと飛ぶ。しかし、そうはさせじと駆逐艦や戦闘艦、レーザー艦が邪魔をするような動きで進路を塞ぐ。


「こちらランサー隊。メビウス、援護する」

「ソード隊も続く。メビウス、そのまま突っ切れ」

「サンキュー」


 すっかり一端の戦闘艦乗りになったボーイズ少年兵は、見事な連携をして駆逐艦と戦闘艦を排除していく。その様子を尻目に、マルトはフッドペダルをベタ踏みまで踏み込んだ。


「ディフェンサー起動!」


 マルトの船から、一般的な盾のような形状の物体が次々吐き出される。それらはまるで隊列を組むかのように、規則正しくマルトの船を守る形で自立行動する。


 ディフェンサーシステム。つまりは新人類の皆さんが使うアレである。ニューなタイプな資質が必要、というモノではないが、結構な空間認識能力と計算力、認識力、判断力が必要で、タツロー含め今現在の仲間内でこれを完全に使いこなせるのは、なんとマルト少年ただ一人である。


「自分の家は、自分の手で守ってみせる!」


 共和国軍の悪夢は終わらない。夢に野望に溢れていた聖戦は、絶望と敗北と屈辱にまみれた泥沼へと変化していった。

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