第43話 激突! 特務辺境遊撃部隊第二艦隊 VS 第一艦隊・撲滅艦隊
白と黒の悪魔、メイドによるコロニー公社襲撃事件の最中、平和でまったりしていた帝国軍駐屯地だったが、そんなのんびりは許さん、とばかりに雷鳴のようなアラームが鳴り響いた。
「伝令っ! 共和国クライス・ロナ方面より国境イルワン宙域にて、共和国軍の大艦隊が展開!」
シュバイツが失踪し、ゼフィーナ達はふざけた辞表を出し、上級士官が自分しかいない状況で、ひたすら必死に事務仕事に打ち込んでいたスーサイ・ベルウォーカーは、その報告に頭を抱えた。
「発作か?」
共和国はアホの子なので、バカの一つ覚えで負け戦を仕掛けてくる。それを帝国軍人は発作と呼んでいるのだが、今回もそうだろうと確認をすれば、伝令官の顔色が悪い。
「今までに無い規模の大艦隊です!」
「おーもーっ!」
繰り返すが、第一艦隊丸々居ない。第三艦隊人員が丸々居ない。つまり、対応しなければならないのは、スーサイただ一人である。
「第二艦隊緊急スクランブル。第三艦隊の船に乗せれるだけ人員を乗せて、準備出来次第順次出撃」
「はっ!」
スーサイは知らない。シュバイツにより、第三艦隊の武器弾薬が、かなりの数パクられており、現在カッスカスな事を。とんずらする時、ついでだからとエネルギー結晶を相当数持っていかれている事を。
スーサイ・ベルウォーカー独身、百七十九歳(現代風なら二十九歳相当)の受難伝説は、まさにここから始まったのだった。
○ ● ○
「随分とまあ、突っ込んだ事」
恒星宙域全体をほぼフォローできるレーダーには、集合体恐怖症の人が見たら、さぞや気持ち悪いレベルで赤い点滅マークが広がっている。
「まあ、わたし達第三艦隊不在で、シュバイツは逃げ出し、スーサイの第二艦隊だけですから、練度や船、兵器などの性能差を加味しても、これだけの数集めれば勝てますよ」
「アルペジオはーそれだけ魅力的なコロニーですからー」
「伊達にトレード、交易を冠していないって事かね」
「ですですー」
レーダーの性能をいじって精度を上げる。すると、大艦隊から離れた位置に探していた反応を見つけた。
「船の信号変えて無いな」
「使ってるだけですの?」
探していたのはアパッチの反応だ。しかし見つけた反応は、デフォルトの状態を示す信号。この状態だと動かせてるレベルだと思うんだが……
「いや、旦那様達はちょっと常識無いからね?! レガリアなんて、そうポンポン見つけられないし、解析も分析も研究も出来ない、本当の遺物なんだからね?! それを使える前提で物事推し量るなんて、相手が泣くレベルよ?!」
「ファラお姉様。せめて知識がおかしいと」
「世間知りませんからー」
「おうこら、随分と言いたい放題じゃまいか、マイワイフども」
でもそうか、てっきりあの馬鹿が使ってるから、その辺の知識は漏洩してるかと思ったんだが。考えてみたら、あのあんぽんたんに生産関係の知識ないわ。そりゃ無理か。
「まあ良いや。アビィ、準備はよろしい?」
『はーい、準備万端ですのん。プロフェッサーに手を加えてもらったファルコンも元気ですわん』
「ですわん!」
シェルファの足元で、ひたすら自分の尻尾を追いかけていた、バイオドック、いや見た目まんまコーギーなんだけどね? が甲高い少年のような声で返事する。一応、自分が犬である自覚はあるらしくて、語尾にわんが付く。それが嫁にはバカ受けで、それはもうもっふもふと可愛がられている。
「マヒロはどうだい?」
「チェックリストのチェックは完璧です。突発的なイレギュラー関係も予測して対策を用意してあります」
マヒロも仲間外れはいかんよね? という事で、アンドロイドなんだけど人間っぽい、人間っぽいんだけどアンドロイドという感じにした少女タイプのボディを用意した。やはり嫁の受けが良く、気がつけば誰かが頭を撫でている。今は腕の中でルルがブー垂れているが。全く、勝手に危ない事に首を突っ込むんだから。
「よし。シェルファとファラは先に、ポンポツとマヒロ、それとルルにファルコンも船へ。ゼフィーナとリズは最終調整と。俺はちょっとディフェンダーシステムを調節してから船に行く」
「「「「はい!(あーい!)」」」」
さあ、ショータイムだ。
○ ● ○
見慣れたシルエットの戦艦。それがモニターでアップに映し出されているのを、スーサイは引き吊った表情で見ていた。
どこからどう見ても、帝国軍が誇る戦艦リ・ゼッヴァルである。そして、その船体に刻まれたマークは第一艦隊のマーク。つまりは裏切りであるわけだ。
「後方から連絡! 第三艦隊の船、ことごとく整備不良。出撃には時間が必要!」
「……あいつ、だろうなぁ」
マークを見つめる表情に、苦々しさが加わり、スーサイはどっかりキャプテンシートに身体を沈める。
「悪い噂は聞いていたが……そうか、もう落ちるところまで落ちたかシュバイツよ」
何かと貴族である事を鼻に掛け、自分は特別であると信じて疑わない、典型的な辺境貴族であったが、それなりに能力はあったし真面目に努力してるんだろうと思っていたのだが。
「買い被りすぎたか……第二艦隊出る!」
「「「「はっ!」」」」
激突予想地点へ大きな塊となって移動を開始する。
「陣形、コレイゾ」
「「「「はっ!」」」」
帝国の艦隊運営は単純だ。帝国の艦船は基本的にシールド能力が高い。ジェネレーターが大きくなればシールドの強度も上がるので、それを活かした運用をする。
陣形コレイゾは帝国で一番多用されるフォーメーションで、戦艦を守りの要とし、戦艦のジェネレーターやシールド発生機を守るよう、重巡洋艦がカバーする。その巨大な盾を活用し、ミサイル艦や長距離レーザー艦などで攻撃するのがセオリーとなっている。
必勝の陣形を整え、ゆっくりゆっくり距離を詰めていく。やがて雲霞のような大艦隊が見えてきた。
「これ、発作だったらなぁ」
スーサイのぼやきがブリッジクルーの笑いを誘い、良い感じに恐怖と緊張が解けていく。
「さて、我らの後ろには無防備かつ動けないコロニーが控えている。諸君、我々帝国軍人は、親愛なる帝国市民の為に血を流さなければならない。それこそが帝国軍人の使命だからだ。恐れるな、我らは我らの仕事を全うする」
「「「「はっ!」」」」
「ジェネレーターに火をいれろっ!」
部下達の怒号のような返事に、自然と身体に活力が漲る。これは負け戦だろうと分かりきっているが、それでもこの程度の難局何するものぞという気分になるから不思議だ。
「同型戦艦突出!」
「そりゃそうだろうさ。オレだって真っ先にそうするわ」
一斉に襲ってくれば簡単に潰されるだろうに、そうまでして自軍の損耗を抑えたいのか。しかし、それならそれでこっちとしてはやり方がある。スーサイはニヤリと笑う。
「やっぱり、他の船は動けていない、か。訓練はするもんだぞ? シュバイツ」
こちらと同じコレイゾ陣形をやっているはずだが、動きがぎこちなく、せっかくのシールド性能もまばらな感じになってしまっている。
「まずは旗艦を叩く」
「「「「はっ!」」」」
「質量レールカノン準備」
「質量レールカノン準備します」
シールド性能に自信があるのなら、そのシールドをいかにして破るかを研究するものだ。そして帝国はその方法を見つけている。
質量レールカノンがその答え。つまり、シールドへ瞬間的に巨大なエネルギーをぶつけてしまえば、わりと簡単にシールドは割れるという理論から産み出された兵器だ。さらに言えば、シールドを割ってそのまま相手に突っ込んでいってくれる親切仕様。
「エネルギー充電完了。いけます」
「よし、狙いはシュバイツ艦。全レールカノンファイア」
「レールカノン一斉射」
戦艦、重巡洋艦、ミサイル艦、長距離レーザー艦から放たれた高質量の合金が、レールカノンにより射出され、本来なら戦艦と重巡洋艦によって防がれるはずが、簡単にシールドを食い破り、そのまま戦艦へ、遅れてやってくる重巡洋艦へと吸い込まれていく。
「次弾装填」
「次弾装填します」
「後方、共和国の動きに注意。動きがあれば知らせろ」
「イエッサー!」
シュバイツ戦艦から散発的にレーザーやミサイルが飛んで来るが、それらは全て強固なシールドに守られ、レールカノンを使用しようとすればこちらの高質量弾が射ち込まれる。ついぞ何も出来ないまま、シュバイツ率いる先発隊は脱落していく。
「シールド減衰率十%を維持」
「後方、共和国軍の速度上昇!」
「はあ……ここから本番だな。陣形デナルイ」
「僚艦へ伝達! 陣形デナルイへ変更!」
巨大な魚影のように、見事な練度で第二艦隊の陣形が変化し、巨大な
「練度の低い場所から食い破る」
「「「「はっ!」」」」
今後、何度もビジュアルディスクで映像化され、イルゼロの大戦果と呼ばれる戦いが始まったのだった。
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