第33話 ギルドランク五と十五の戦い。

「狭くない?」

「だじょぶー」

「私もだじょぶーです」

「ウィー」

「いや、お前はいらんだろ?」

「マスター、ツレネェダゼ」

「一欠片も思ってねぇだろ?」

「ヒューヒュー、ダゼ」


 シミュレータ装置に、わりとギッチギチに詰まった状態の俺たち。本音を言えば、一人で大丈夫なのだが、ルルが絶対ヤダとだだをこね、オペレーターですからとシェルファがシレッと入ってきて、んじゃまとばかりにポンポツまで乱入してきたと。あっついわ!


 何を言っても出てってはくれんだろうから、もういいけどね。やれやれ。


 呆れてても仕方なし、準備をせねば。早速、オペレーターさんに頼る事にした。


「シェルファ、発進シークエンス」

「了解しました。発進シークエンス開始します」


 シェルファの涼やかな声を聞きながら、各種設定やら配分やらに手を入れていく。それも全てシェルファが良い感じの数値をあらかじめ用意してくれるので、ちょっとした微調整だけで済む。かなり有り難い。


 ここらへんって自動化できなくないんだけど、結構戦闘とかに影響が出る部分でもあるから、マニュアル操作に勝てないんだよなぁ。自動化しようとしてパイロットにキレられた事あったし。


 あ、そうだ。折角だし相手のデータ、一応収集しておくか。何かに使えるかもしれないしね。


「ポンポツ、後でデータ解析に使うから、ファラてんてーの機動データの収集頼む」

「ガッテン承知ノ介ダゼ」

「しょーちのーけす!」


 シェルファのコンソールを操作する的確な音と、その動作を確認するように口頭での確認。ルルのすっとんだ言葉使いによる調子外れな歌声、ポンポツの妙に一体感のある合いの手……うるさいんだけど、なんか楽しい気分になるから良しとするか。言ったところで止まらんだろうし。


 俺は俺で、こっちに集中しないと。


「ジェネレータ始動」

「エネルギーゲイン、出力安定してます」

「兵装チェック」

「ソドムの兵装、オンライン、ロック解除しました」


 さて、準備完了と。オペレーターの能力ってすげぇな、こんなに違うのかい。二分か三分くらい短縮したぞ。すばらーです。


『両者、準備完了ですね。それではカウントを開始します』


 受付嬢の声がして、モニターにデカデカと数値が表示される。カウントはテンからね。


 数字が減っていくのを見ながら、相手の船をぼんやり見やる。標準的なペンシルタイプの宇宙船。白銀色の、明らかなスピーダータイプの戦闘艦。知らない子ですな。


 シミュレータじゃ相手の船をスキャンなんて出来ないから、あれも解析対象にしておくか。そこそこのギルドメンバーが所有する宇宙船のデータって事で。


 カウントゼロになる瞬間、操縦桿を握り直し、フットペダルを緩く踏み込む。ゼロのタイミングで更にフットペダルを軽く踏めば、船体がぬるりと滑るように動き出す。


 ちょっちねー、乗ってる船が骨董品だからね。それなりに改造してるとは言っても、製造年代の古さはどうしようもならない。いきなり全力で動かすのは良くないんだわ。


 んで、俺らみたいに緩やかなスタートとは対照的に、ファラてんてーの白銀船は、弓矢や鉄砲玉のようにかっ飛んで来てるけどな。


「ふむ」

「船が壊れちゃいそうですね」

「ベテランなんだろ? さすがにシミュレータ外では無茶はしないんじゃないか?」

「地ジャネ? 行動ッテ咄嗟ニ出ルンダゼ」

「でるんじゃー!」


 のんびり構えていると、一直線に突っ込んできた。いや、少しは様子とか見ようよ。


「地だな」

「地ダゼ」

「地ですね」

「じー!」


 何回船をぶっ壊したんだろうか? 凄い操縦が直角すぎる。しかも、ジェネレータを全力でブン回しているようだし。


 相手の心配をしてる場合じゃないな。

 

「さてはて、戦闘準備」

「了解。マヒロさんは?」

「さすがにオーバーキル過ぎる。それにシェルファ一人でも、かなりやり過ぎだしな」

「はい、評価ありがとうございます」


 突っ込んできたファラてんてーをヒラリとかわし、ジェネレータの出力を戦闘レベルまで上げていく。


 何度も何度も突っ込んでくる相手を、最小限の動きでかわし、射ってくるレーザーはシールド歪曲で霞受けし、ただひたすらに待つ。


「出力戦闘レベルです」


 シェルファの涼やかな声で、我慢の時間は終わりを告げる。


 さて、やりますか。


「ルル、ちょっと大人しくしててな」

「あい! どきわく!」


 俺の両太ももをギュッと掴むルルを確認。チラリとオペレーター席を見れば、シェルファがしっかりこちらを監視している。よしよし、いいね。


「マスター、来ルンダゼ」

「あいよー。バニッシュ、ひねり、レーザー」

「調整します」

「頼む」


 こっちのオーダーにシェルファが、軽やかにコンソールを叩く。その操作だけで、船体を守るシールドの比率が船尾翼へ移る。


「素晴らしい」


 相手が突っ込んで来た瞬間に、船尾翼をちょん当て、ブースターを八割ぐらいで噴き、その場でくるっと宙返りしてピタリと相手のケツにつく。


「シェルファ、いいわ。すげぇ、いいわ」

「恐縮です」


 そのままジェネレータ部位へレーザーを射ち込み、訓練終了のアラームが鳴り響いた。



 ○  ●  ○


 Side:ファラ


「何これ……」


 シミュレートアウトと表示されたモニターに、あたしの呟きは虚しく響く。


 ギルドメンバーに女性は珍しくはない。ギルドには様々な部門があるし、むしろ特定の部門なんかは女性の方が喜ばれる。けれど、戦闘部門は別。宙賊を、犯罪者を相手にする関係上、女性の比率はとても低い。


 あたしはずっとソロで戦ってきた。戦って戦って戦い抜いて、ソロの人間では初めてランク五まで登り詰めた。


 だから興味を持った。あたしすら恐怖を感じる威圧を向けた彼を、どのような修羅場を潜り抜けてきたのか、どんな戦い方をするのか。


 楽しみにしていたけれど、ギルドマスターに連れ出された。つまり、少なくとも彼が最後の講習に参加するのはまずい、とマスターが判断したという事。


 ますます興味を持ったあたしから、彼に戦いを望んだ。あたしが負けるなんて、欠片ほども考えないで。


 最初は旧型の宇宙船に失笑した。あんな船で戦えるのか、あたしはこれは見込み違いだと勝手に思い込んだ。お笑い草ね、全くあたしは見る目がない。


 あたしが必死に身に付けた、今の船で実現する事に成功した一撃離脱の機動。彼にはまるで通用しない。ひらりひらりと避けられて、かすったりしたはずなのに、レーザーはすり抜けたように消えてしまう。


 信じられなかった。何が起こっているのか分からない。それでも今まで、この技術だけで成り上がったあたしは、すがり付くように同じ行動を繰り返し……何が起こったのか、一切分からないまま、気がついた時には撃墜判定を受けていた。


『あーファラさん。最後何をされたか確認する?』

「ギルドマスター、彼は何者なんですか?」

『さあ? ギルドは、特に戦闘部門では犯罪者以外の、ギルドメンバーの過去への詮索は禁忌だから』


 それはそうだ。あたしもそれに助けられているんだし、そんなあたしがそれを破るなんて……謝罪を口にしながら、確認するから是非にとお願いすれば、モニターに撃墜された時の様子と、何が行われたのか分析結果が表示された。


「嘘、でしょ……」


 シールドを意図的に操作して、一部分を硬質化、その部分で相手のシールドを殴って、一気にシールドをダウン。そのままブースターを上手く噴かして、バク転でもするみたいに半回転し、通り抜けたあたしの船の真後ろへ回り込み、そのままロックオンしてレーザーで綺麗にジェネレータユニットを抜かれて試合終了。


 言葉にするのは凄く簡単だ。でも分析結果からも分かる。これは人間技ではない。


 意図せず、シールドとシールドがぶつかってダウンする、っていうのは事故として起こる事は知ってる。それを技術として、しっかりした方向性を持って使う、そんな馬鹿な。


「マスター、彼らの足止めをお願いします」

『因縁つけるのはダメよ?』

「そんな事はしませんよ。そうですね……」


 あたしは知らず笑っている自分に気づき、グッと全身へ力を漲らせる。


「折角、遥かなる高みにいる教材がそこにあるんです。駄目元で教えてくれないか、食事を奢りながら聞いてみます」


 これからも戦う為に、あたしがあたしである為にも!

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