第31話 タツローです。周囲に強い女性しかいません。

 皆さん、お元気ですか。俺っすか? あはははは、バリバリっすよ。


 シェルファが目覚めてから一週間、大型戦艦を四隻、戦艦を八隻、重巡洋艦十七隻、巡洋艦二五隻、ミサイル艦三四隻、駆逐艦五六隻の整備と点検とアップデートをですね、やっておりまして、平均睡眠時間が三時間と、はははは、勤労っていいっすねー。


「ヤリ過ギダゼ」

「ええ、はい、そのようですの。これはわたくしの責任ですの。さあ、タツロー様今すぐわたくしと寝室へ! ですの!」

「てめーのご褒美じゃねえか」

「座布団全部持ッテッテー、ダゼ」


 とりあえず駄メイドの要望はクリアーした。それと初心者講習の通知が来て、それも時間指定してあるから、おっさんインパクトも回避と。


 それはさておき、なんか知んないが駄メイドが焚き付けたらしく、シェルファが凄い頑張って訓練して、何とマヒロやアビィが認めるオペレーション技術を身に付けてしまったのだ。あの二人が手放しで絶賛って、どんな訓練したんだろう……おーこわ。


 かなりの能力だし、そのままゼフィーナのところへ厄介にでもなるのかな? と思っていたのだが、本人は俺の下で働きたいという。何で? と思うよ、うん。


 いやまあ、確かに優秀なオペレーターっていうのは、結構貴重だ。一緒に戦ってくれるというなら、それはそれでありがたい。


 ルルも大好きなねーねが一緒とあって喜んでいる。いいんじゃないのかな? 彼女も頑張っているしね。


 というわけで、正規オペレーターとして登録しなければならないので、シェルファとついでにルルとポンポツを連れてギルドに行く。駄メイドは留守番である。当然だが。


「んじゃ行くか。ルルちゃんや、途中でお婆ちゃんの飴ちゃん買ってくか?」

「あーい! いっぱーい!」

「はいはい、一杯ね」


 ジャンピング抱っこしてきたルルを受けて止めて、クランハウスからドッキングベイへ抜けるトラフィックへ乗り込む。


 クランハウスからの方が近いんだけど、シェルファがドッキングベイ、つーか船の方にいてね。自分のオペレーションシートの調整とか、オペレーター用のツールだとか、ルルが座る場所だとかの調整をしているんだ。迎えにいかんとならんでしょ。


「とと様」

「あんだい?」

「あの人いるー?」

「いなーい」

「そっかーあしんだねー」

「あんしんな」


 そんな会話をしながらドッキングベイにたどり着き、麗しきおでん艦を見上げる。


「あ、時間ですか?」


 帝国でも結構珍しい金髪にこっちも珍しい真っ白い肌の、大宇宙の神秘を感じずにはいられない立派な膨らみを持つ美少女がひょっこり顔を出す。


 こちらで用意した、荒事でも余裕で大丈夫な衣服を着てもらっているんだが、全身ピッチリしたボディースーツに各種プロテクターを装着して、その上からヒラヒラした民族衣装めいた物を着てるんだが……破壊力がね、こう、すげーんだわ。具体的には胸の強調が凄くて、二カップくらい増えてるんじゃなかろうかってレベルだ。


「お疲れさん。ギルドへ行くけど、大丈夫かい?」


 たぶんバレてるだろうけど、お胸様なんて見てないヨーという顔で、なるべく爽やかに片手なんかを挙げながら返事を返す。


「はい、後は微調整ですから、出撃時でも調整はできます」


 すっかりたくましくなってからに。一週間みっちり時間加速装置の中で訓練しまくったのは伊達じゃねえってか?


「それじゃ行きますか。マヒロ、船の監視頼むな」

『イエスマイロード』


 戸締まりをしっかりして、マヒロの監視をガッチリオンに設定して、駅へ向かう。


「新人講習って何をするんでしょう?」


 電車が来るのを待ちながら、シェルファが聞いてきた。


「お行儀が悪いんだとよ」

「えーと?」

「何か、報酬をくれる相手に喧嘩を売るらしいんだわ、ギルドメンバーが」

「……それは頭が悪いってレベルじゃないんじゃ?」

「俺もそう思う。で、お前ら馬鹿やってねーで良い子で働けって講習らしい。受けるとランクとか上がりやすくなるんだと」

「は、はぁ」


 やってきた電車に乗り込み、釈然としない表情のシェルファに俺も釈然としないと肩を竦める。


 そんな馬鹿話をしながら行政区画の駅で降り、駅から大通り広場へと顔を出す。


 前に来た時はルル脱走のアレコレで騒然とした雰囲気だったが、今は結構な人手で溢れている。


 まあ、あの駄メイドが鍛え上げたメイドたちの実地訓練とか称して、片っ端から犯罪者やら犯罪予備軍とかを潰して回った成果、なんだろうなコレ。


 奴の言い分としては、メイドが一人で買い物すら出来ない治安は治安ではない、とか力説したけどな。まあ、周辺住民が暮らしやすくなったという意味では良くやったと誉める部分か。


 しっかしなー。


「治安関係まで食い込まれるとか、帝国終わってるなー」

「あは、あはははは」


 何度目かになるか分からない帝国への失望を呟きながら、まずはルルに飴を買ってやらねばと、以前訪れたお店へ向かう。


「ばーば、あめちゃんくーさい!」

「ください、な。それじゃ匂っちゃうぞ」


 相変わらずニコニコのお婆ちゃんに、適当な量をお願いし、半分を船へ送ってもらい、半分をルルが背負っているポンポツ型のリュックサックへ詰める。


「いつもありがとうねー」

「いえいえ、この子のお気に入りですから。また来ます」

「いつでも歓迎しますよー」


 早速、ぱくりと飴を口に入れたルルをポンポツに引っ張ってもらい、目的地のギルドへと向かう。


 道すがら、ポツリポツリとそれっぽい服装の人間が増えてきて、ギルドへつく頃には結構な数の野郎共がたむろっている姿が見えてきた。いやー、むっさいむっさい。


 なんだろう、箔をつけてるつもりなのか、何かやたら小汚ない格好をした奴が多くて、きっちりした奴らは結構少数派。でも、気配を見るに、小汚ない方がダメダメで、きっちりしてる奴らはそこそこやれるって感じがするんだよなぁ。出直して来たら? と思う。


「おいおい、子連れと女連れだぜ?」

「マジかよ、おっ女は良いじゃねぇか。兄ちゃん、その姉ちゃん、俺にも貸してくれよ」


 何てテンプレな、そして何て愚かな……男達の下卑た笑い声は長くは続かず、激烈な気配がした瞬間一気に沈静化する。


「モグか折るか潰しますよ?」


 男どもが股間を押さえ、情けない甲高い声の悲鳴を出す。うん、凄くたくましく育ってしまって、あの弱々しかった君も素敵だったんだけど……


「ほらほら、行くぞ」

「はあい!」


 俺がポンと肩を叩けば、それはもう幸せそうに返事をする。そんな素早い切り替えが出きる君も素敵だよ、まったく。


 ギルドへ入ると、カウンターには女性しかいない。どうやら本気でギルドの綺麗所を集めたらしい。ネイさんパないわ、有言実行ですかい。


 適当な受付を選び、新人講習へ来た事と、シェルファの正式なオペレーターとしての加入手続き、ギルドへの入会手続きを同時に行う。


「あー、あのおっさんどうした?」


 また出会いたくなくて、どういう扱いになったのか聞くと、受付嬢はそれはもう凄い満面の笑顔で答えてくれた。


「あのろうが……ベテラン職員でしたら、ギルドマスターのせっか……お説教で心を入れ換えたようで、ご自分からしまな……僻地への転勤を望まれまして、もういないんですよ」


 老害とか折檻とか島流しって言わなかった? いやまあ、いなくなったならそれで良いんだけど。


「優秀とか言ってたような?」

「けっ!」


 あー、そうじゃなかったと。まぁ、あそこで止められなかったら、俺が手を出してた可能性もあったし、ギルドマスターの配慮だったのかね?


「当ギルドの職員一同、タツロー・デミウス様には心より感謝をしております。どうか末永くご利用いただきますよう、よろしくお願いします」


 うん、感謝してくれるのはいいんだけども、どうしてこう俺の周囲には強い女性が多いんだろうか?


 どうも釈然としないモノを感じつつ、シェルファの各種登録も完了したので、講習が開かれる会議室へと向かった。


 一体、どんな事をやるんだろうねぇ。凄い心配なんだけど、大丈夫か? これ。

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