第27話 雇いませんか? 今なら精鋭部隊丸々付いてお得ですよ?
これはまぁ、あれだね。うん、絶対見てるだろ、あいつ。
「ガラティア、聞いてんだろ?」
『あなた様の忠実なるメイド、ガラティアでございますの』
多分いるんだろうなぁと思って声をかければ、防諜装置が働いてるのにしっかりストーカーしている駄目メイドの声が聞こえてくる。こいつは無駄に高性能だから、本気で隔離処置なり異空間装置でも使わない限り、どこまでもこちらを追いかけてくるのは身に沁みて理解している。
「どういうこった、これ」
『まず、タツロー様の認識が甘いですの』
「あん?」
『あの二十番目の末っ子が作った帝国が、ここまで保った事、それ自体が奇跡なのですの。いえ、七大公爵の能力がチートであったという証左なのでしょうが、それも現状限界を迎えようとしていますの。そこは理解されていますの?』
「……ちょっと待て、二十番目の末っ子って、ディロ・テフアさんの里子のトゥエンティ?」
『堂々とトゥエイと名乗ってるじゃないですの。トゥエイはディロ様が付けたあの子の愛称ですの』
「……」
あったま痛くなってきた。帝国の皇帝ってあの筋肉バカか。
少し冷静になろうと、膝上のルルの頭を撫でる。
「うゆ? とと様?」
「ああ、気にしないで、ほれ飴ちゃん」
「やふー、あー」
「ほい」
「むいーおいちーの」
「よしよし」
よし! 可愛い! 少し復活した。
えーっと、帝国の限界つーと。つまり現在のあれこれの事だな。
「限界って支配領域の拡大に、管理する側の能力不足及び腐敗か?」
『それと貴族という存在に対する過大評価ですの。常に暴君のごとき暴れ馬を間近に見続けている中枢貴族と違い、皇帝という存在を間近に感じられない差は大きすぎますの』
「あーそういう差か。てかまだ暴れてるのかよ」
『母親が恋しいんですの』
「はあぁぁぁぁぁっ、変化無しか」
ディロ・テフア。戦闘も生産も興味が無く、ゲームは完全にバカンスと割りきってログインしていた変わり者。
いや、現実世界では見れない宇宙の大パノラマや、数々の未開拓惑星で見られる大自然、そういった圧倒される光景だけを楽しむプレイヤー層というのは結構いた。ディロさんも当初はそんなプレイヤーだったのだが、里子システムが実装されると激変してしまう。
彼女は数々の個性溢れる美形男子NPCを自分の息子と呼ぶようになり、そのようにクラメンたちに魔改造させて楽しむようになった。
問題は子離れ親離れが出来ない溺愛家族であった事だ。
つまり、課金上限二十人のNPCが全員マザコンだったという地獄。しかも、全員が全員戦闘能力特化の脳筋タイプである。
一番性質が悪いのは、トゥエンティが機械生命体、つまりガノイドやらアンドロイドと呼ばれる存在で、ナノマシン調整槽さえあれば永遠を生きられるという事実だろうか。永遠に生き続けるマザコン。しかも母親を意地でも探し続けると……なんてこったい。
「あの閣下、横から失礼します」
「はい? つか閣下やめい」
「いえ、陛下と並び立つ方だと認識してますのでご勘弁を。それよりも皇帝陛下とは?」
「あー、うんざりするほど顔見知りだ」
「……と言う事は、陛下と同じ?」
「いや、俺は普通の人間だ。機械生命体ではない。そこいらはややこしいし、実際俺もどうなっているか理解できてないから説明は出来ないぞ」
「はっ! 失礼しました」
いやもう、何で俺が目上になってんだこれ。それだけ皇帝の言葉が重いって事かね。
とりあえず娘ちゃんを撫でておこう。
「うにゅ?」
「うん、可愛い」
「にゅふふふふ~」
くねくねして喜ぶルルを見ながら、少し頭の中で考えてみる。見通しが悪いとは?
あー問題はだ。皇帝のお膝元は一応正常に運営をされて、逆に帝国中心部から外れれば外れる程状況が悪化、つまり腐敗する。
これはあれか? 隣人すんげぇがんばっちゃった?
「つまりは、帝国中心部と帝国外周部は既に別の国、みたいな分断をしている?」
『はい』
「その分断工作に、隣人が関わっているか?」
『素晴らしいですの。追加するなら、既に中枢への食い込みも始まっていますの。タツロー様なら彼女たちが狙われた理由も検討が付きますの』
少佐とふんわりさんに視線を向ける。この人たちが狙われた理由な……
「見せしめ?」
『理由はなんですの?』
「模範的なクソ真面目な帝国軍人だから」
『そうですの。彼女たちは本来彼女たちだけの部隊で行動をするはずだったのが、上層部のネジ込みで大事になっていまいましたの』
「……マジかー、つまり『上層部も既に汚染されてますの』いるか」
俺とガラティアの言葉に、少佐とふんわりさんが苦しそうな表情を浮かべる。
「いえ、それだけではありませんよ」
ふんわりさんが自虐的な表情を浮かべて、どうにもよろしくない感じの笑顔で、まるで毒でも吐き出すような感じで教えてくれた。
「貴族の娘だからです」
「帝国は男尊女卑ってか、そんな前時代的な思想してないだろ?」
「そうですね。一般人なら」
「貴族の娘は今でも男尊女卑の封建状態ですので、ある一定の年齢に達したら一族の為、家の為に他家へ嫁ぐのが常識です。無論、そこは家族ですから酷くない家もありますが、多くの貴族は、上級と呼ばれる貴族になればなるほど、今のような考え方が主流です」
二人の表情から、それなりの苦労は見えてくる。だが、俺が見てとれるモノ以上にきっつい現実があったんだろう事も、漠然とだがイメージできる。
「そっちの意味でも見せしめか。面倒くさいなぁ……」
『いえ、貴族の娘うんぬんは末っ子の空気を読まない発言が根源ですので、タツロー様が調教、失礼、躾、おっと、教育的指導でしたね、をすれば改善しますの』
「俺、あいつ嫌いなんだよ」
『存じ上げておりますの。そして相手はタツロー様を心底恐れていますの』
前に、ちょっとドを過ぎたおふざけをやって、俺ら以外のクランにまで迷惑をかけた事があって、さすがにこりゃあ許されんだろうって事で、ジワジワ奴のメモリーを消去しながら説教し、泣き叫ぶでっかいマザコン野郎を迷宮状態にした惑星にぶちこんで三ヶ月程放置した事がある。そっからアレは俺を見ると逃げるようになった。
ちょっと遠くを見ながら現実逃避していると、少佐が申し訳なさそうに聞いてきた。
「あの、よろしいでしょうか?」
「ん?」
逃避を止めて視線を向ければ、キリリとした表情でこちらを見てくる。
「自分達を雇用しませんか?」
「今ならもれなく『エペレ・リザ』全員が付いてきてお得ですよ~」
どこの深夜通信番組だろうか。思わずジト目で見てしまう。
『良いですの』
「ぅおーい!?」
『タツロー様、どっちにしても戦力は必要ですの。それも艦隊運用が可能な部下、絶対にこちらを裏切らない部下が必要ですの』
「どこに戦争を仕掛けるんだよ」
『隣人をどうにかしたとして、その背後には教団と共和国が控えていますの。自動AI制御の艦隊で戦いますの? 取り戻したコロニーやステーションの防衛、管理運営はどうしますの? わたくしどもは全力でご奉仕いたしますの。けれど限界はありますの』
ガラティアの最も核心を突く言葉に、俺は言葉が出てこない。確かに、隣人をどうにかしたとしても、その背後にはもっとデカい奴らが控えている。何でこんな大事になってるんだろうか……
あまりの重大事に、今回ばかりはルルを撫でても気が晴れる事はなかった。
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