第26話 この対応は正しいのだろうか?(困惑)

 ギルドから出て、一番最初に出たのはため息だった。


 いや、色々あったねぇ。あのおっさんにはムカついたが、組織の長がまともだったし、これからもそこそこ利用していこうかしら。ほとんど公的身分証明書利用しか考えていなかったが、ランクを上げればそれなりに信頼も得られるようだし。


「とと様?」

「ん? どうした?」

「なくなったー」


 ルルが口を開けて食べていた飴がなくなったと訴えてくる。これはあれだな。


「もっと寄越せと?」

「あい」

「なるほど」


 端末で周囲の店舗を検索し、その手のお菓子を扱ってそうな店をピックアップ、その店へ向かうことにした。


 向かった店は、人の好さそうなお婆ちゃんが店主をしていた。色々聞くとどうやら結構な老舗だとか。小型の製造工場を持っていて、甘味業界では結構名の知れたブランドであるらしい。


 試しに一つ食べてみると、合成された食べ物とは思えないクオリティかつ、甘さというより美味さが際立って感じたので、大量に購入してしまった。


「おいひいの~♪」


 どうやらお嬢様もお気に召したようだ。ちょっとだけさっきの事を引きずっていたのも、美味しい飴ちゃんで持ち直したようだ。良かった良かった、うん。


「さて、行くかね」

「軍ノ駐屯地ナンダゼ?」

「おう。報酬もらわんとな」


 出来れば助けた女性たちの相談とかしたいが、少佐たちも問題ありそうだしな。難しいだろうなぁ。


 ご機嫌な様子のルルを間に挟み、俺とポンポツで手を繋いだ状態で歩く。軍の駐屯地はこの区画でも少し外れというか郊外というか、軍関係と言う事もあって一般人があまり関われないような場所に設置してある。


 ちらほらとハウスユニットが途切れ始め、ポツポツと植木の数が増え始めた頃、目的地である軍の駐屯地の建物が見えてきた。


 質実剛健という四文字熟語を体言化したような、ザ武骨といった感じの建物に思わず苦笑が浮かぶ。


「とと様、あっこ?」

「そうだよ。あそこに用事があるんだ」

「うぃ~」

「ウィ」

「うういぃ~」

「ウウイィ」


 なんか妙にほのぼのする事をルルとポンポツがやり始めたが、まあいい。少しだけ引っ張る手に力を入れ、ちょっと引きずるような形で歩き出せば、それすらも楽しいのか、かなり喜んで俺の腕を引っ張り出す。


 そんな事をしながら入り口近くまでやってきたのだが、守衛業務をしている兵士に微妙な表情で見られている事に気づいて、愛想笑いを浮かべながら、ハイテンションなルルを抱っこして建物に入る。


 確かに、子連れでしかも遊びながら来るような場所じゃねぇわ。失敗失敗。


「おお、おんなじがたくさん」

「そうだな、同じだな」


 当たり前だが、軍服の規格は統一された物なので、内部で働いている人々は同じ規格の服装をしている。それが珍しいのか、ルルは目をキラキラさせて軍人たちを見ていた。


 見られる側の軍人は、何でここに子供が? といった感じだったが、ニッコニコで無邪気に手を振る幼女にやられたらしく、妙にデレっとした表情で手を振り返したりしてくれた。


 まあ、子供と動物には勝てないよな。世界が違えど可愛いは絶対正義なのは確定だろうしねえ。


 しばらく建物内部を進んでいくと、ちょっと奥まった場所に受付というか、何かデパートとかにある案内所みたいな所を発見したので、そこへ向かう。


「ちょっとよろしい?」

「はい、どうかされましたか?」


 カウンター越しに声をかければ、ゴリゴリマッチョな兄ちゃんが、多分本人的にはにこやか対応してるんだろうが、顔全体に力が入りすぎて逆に不自然な顔で聞いてくる。


「これギルドカードね。護衛依頼の報酬を受け取りに来た」

「ああ、ちょっとお待ちいただけますか?」

「はあ、何かあるんで?」

「いえ、あなた様がいらっしゃりましたら、是非に直接お礼を申し上げたいと」

「少佐が?」

「はい。今コールしましたので、そちらでお待ち下さい」


 律儀な事で。俺は近くに置いてあるベンチに座り、ルルはポンポツと何やら手遊びを始めたので、まあそれで飽きないならと、様子を眺めながら時間を潰す。


「タツローさ、殿」


 通路奥から、妙に緊張感を漂わせた美女が、ほんわかした美女を引き連れて現れた。


「どうも」


 軽く頭を下げると、何やらギョッとした表情をする。何だ? 凄い変な感じなんだが。彼女、もっと堂々としてたよな?


「タツロー・デミウスか、殿。改めましてお礼を申し上げたいので、こちらへよろしいでしょうか?」


 ふんわり美女が、それこそ華が咲いたような可憐な笑顔で奥の部屋へ誘導してくる。つか、二人とも何か変な呼び方してね?


 妙な感じに首を傾げつつ、遊んでいるルルを抱っこして、誘導された部屋へ歩く。


「ん?」


 通された部屋は、なんじゃこりゃ? 貴賓室か? 凄い豪華な内装と高そうな調度品が置かれている部屋だった。


「リズミラ」

「はい少佐」


 ドアが閉まったタイミングで少佐がふんわり美女に指示を出す。瞬間、少し空気感が変わった。


「防諜装置?」

「はっ! 肯定であります閣下」

「……はぁい?」


 今なんつったこのふんわりさん。閣下? 俺の事か?


「タツロー様。まずはこちらへ」

「はあ?」


 少佐も何かおかしい。どうなってんだこれ?


 困惑しまくった俺を、二人は用意してあった椅子へと座らせる。そして、座った俺の手前で深々と膝をついて臣下の礼……ってマジで何なのコレ?!


「閣下、説明をいたしましょうか?」


 多分、目を白黒させていた俺がまるで状況を理解していない事に気づいたのか、ふんわり美女が妖艶な微笑みを浮かべて聞いてくる。


 いや、説明は助かるのだが、その表情は一体ナニ?


「あー頼む?」

「は!」


 これ、食われるんじゃなかろうか、と思いながら促せば、彼女の口からとんでもない事実が飛び出してくる。


 帝国は七大公爵が政治を担っている。皇帝はその政治に口出しできないのは周知の事実であるのだが、ただ一つだけ皇帝本人の強い意向で決定された皇帝法と呼ばれる法律が存在している。


 古代文明期の所有者は我と同等の存在なり。所有者が明確なる証拠を提示し宣言すれば、我はその存在を同等の王として認める事とする。


 古代文明期、つまりはゲーム時代の稼働する物品、コロニー、ステーション等々を明確に所有している証拠を皇帝に提示すれば、その所有者は帝国と同等の権力を持つ王として認める、というトンデモ法律だ。


 昨日の夜に少佐へ、帝国の高位将校だけが開封可能な秘匿文書が送られてきたらしい。そこには俺が、このコロニーの正式なる所有者である証拠とデータが提示され、更には多くの古代器、レガリアと呼ばれる超絶技術の塊たる超テクノロジーの所有者である正確な情報まで記載されていたとか。


「こちらが送られてきたデータになります」


 データパレットに目を通せば、おいおいおい、ここでこの名前が出てくるかぁ……ガラティアって、あいつこのコロニーにいたのかよ!


 SIOでの唯一の課金システムである助手購入。高性能なAIを積んだ高性能なNPCを雇用するシステムで、あまりに凄すぎてこれは最早養子縁組だ、という誰とも分からない人物の呟きにより里子システムと呼ばれたそれ。ガラティアは俺が購入したメイドさんタイプの里子だ。


 色々と追加機能を突っ込む事が可能で、俺が知らない間にクラメンたちにより魔改造された超メイドさんティア。困った事に俺至上主義というか原理主義者というか、狂信者というか……いや、すんごく良い子なのは確かなのよ? けど、彼女が関わって問題事がスマートに解決した事は、残念ながら一度もない。


 つまりこれは、彼女お得意の、問題事にはジェット燃料とニトログリセリンとわたくしの愛情でもってお料理いたしますの、ってヤツ……なんだろうなあ。


「皇帝陛下にも同様の文書を送られているらしいので、すぐにでも正式に認められるかと思われます閣下」


 ふんわりさんの言葉に、俺は上等な椅子へ全体重を預けるようにもたれ、大きなため息と共に天を仰いだのだった。

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