第25話 オトメ会議(多分)
これはクランハウスへ避難し、タツローが助けた女性たちの扱いをどうするか、それを散々唸り考え、結局明日の自分へ丸投げし、睡眠を選択した時の話である。
Side:電脳世界
「困りました」
クラン『遊戯人たちの宴』には、人格を持つAIが実に多く存在していた。そんな彼ら彼女らがより多くの体験や経験、コミュニケーションを取れる場所という事で作られたのが、ここ上位超空間内に存在する電脳世界と呼ばれる場所である。
ここでは人格を持つAIたちが、各々好きな姿のアバターを用いて寛いでいるのだが、現在は実質マヒロとアビゲイル二人だけの独占空間となっていた。やろうと思えばポンポツもここへ来れるが、アビゲイルが出入りしている段階で絶対来ることはないだろう。
その空間で、ハイカラさんが通って行きそうな大正ロマンスな服装をしている大和撫子な少女が、妙に長いもみ上げを指先でくるくる回しながら唸っていた。
この少女こそがここでのマヒロの姿である。そしていずれはこの姿で現実世界へ行きたいとも思っている願望でもある。
「あらん、何を唸っているのかしらマーちゃんですのん」
「あ、アビィ。もうファルコンについていなくても大丈夫なのですか?」
「さっすがプロフェッサーの力作ですのん。すっごい素直でおネイさん楽出来て嬉しいですのん」
そこへお前誰だよと突っ込まずにはいられない美女が。そして何で声を変えなかったんだと、タツローがここにいたならツッコんでいたであろう、声だけそのままのアビゲイルがにゅるんとわき出る。妙に気持ち悪い。
「それはお疲れさまでした」
「んふ。それでそれで? マーちゃんはどうして唸ってましたのん?」
性格は正反対。性別も多分正反対。そんな二人であるが、マヒロはアビゲイルを本当に尊敬しているし、アビゲイルもマヒロを可愛い妹であると認識しているため、二人の関係はすこぶる良好だ。
「実はマイロードが」
マヒロはタツローが悩んでいたことをアビゲイルに告げ、それを聞いたアビゲイルは素晴らしい黄金比を誇る顔のラインを撫でながら、悩ましそうな表情を浮かべる。
「計画としてはですのん。この『アルペジオ』を静かに奪取して、そのまま他のクランコロニーの権限をこちらへ戻すって事でしたのん」
「はい」
「でも現状は、それが難しい感じに動いてしまってますのん」
「その通りです」
二人ともクランに所属するクランメンバーのため。いやそれは無粋か。タツロー・デミウスその人の為だけにその全機能を使い尽くしたいのだ。そのタツローが苦悩している、困っているという状況は看過できない状態と言える。
「どうすれば最善でしょうか?」
「難しいですのん」
二人は理解している。タツローは、力を手に入れたが本来は戦う人ではなく作る人である、という事を良く分かっているのだ。タツローという人物が一番輝くのは戦闘じゃない。彼という一個人が最高の輝きを産み出すのは創造なのだ。
今のタツローなら力押しで全てを解決、なんて事はやってのけるだろう。大分ハッチャけた現状、勢いと状況とノリとタイミングが合ってしまえばそれで突っ切ってしまいそうな雰囲気もある。でもそれではいけないと、それはしてはならないんじゃなかろうかと、高性能な頭脳を持つ二人は感じていた。
「どうすれば」
「うーむですのん」
「やれやれ、やっと同胞を見つけられたと思ったら辛気臭いですわ」
「は?」
「どちら様ですのん?」
二人しかいない場所であり、ここへ入れる資格を持つのはクランのAIである事。つまり声の主はクランのAIという事になる。
二人が視線を向けた先には、クラシカルなビクトリアン調の野暮ったいメイド服に身を包んだ、だけどその野暮ったさすら壮絶なる色気に変換して見せるオーシャンブルーの髪の女がいた。
「あらん? もしかしてガラティアですのん?」
「ごきげんようアビゲイル、そして名前を知らない後輩ちゃん。わたくしはタツロー様専属のメイドをしていますガラティアと申します、以後よしなに」
「あ、マイロード、タツロー様をサポートしてます船体制御タイプAI、個体名はタツロー様からマヒロの名をいただきました」
「まあ、それではわたくしの妹ですわね。よろしくマヒロ。わたくしはティアとでも呼んでちょうだいな」
「あ、はい。ティア、お姉様」
「良い子ね」
ガラティアと名乗ったメイドは、マヒロを抱き寄せると、よしよしとまるで母親のように頭を撫でる。それが妙に気恥ずかしく、マヒロは常に無表情な顔を珍しく羞恥に赤く染めた。
「ああそうそう、アビゲイル」
「今はアビィって愛称で呼ばれてますのん。是非そう呼んでくださいですのん」
「アビィ、貴女ですね? ファルコンを動かしたのは」
「はいですのん。プロフェッサーからのオーダーですのん」
「そう。ありがとう、そのお陰でわたくしの封印も解かれましたの。これでわたくしもタツロー様のお手伝いができますわ」
「えーと、封印ですか?」
「ええ、どこのどのクソ野郎か知りませんが、良くもわたくしをあんな武骨な封印なぞに縛りおってからに……やったヤツ見つけたら三枚に卸してくれる」
両手をバキバキ鳴らしながらほの暗い表情で呟くガラティアに、マヒロとアビゲイルは少しだけ距離を取った。
「ほほほ、これは失礼を。それで、一体何を辛気臭い空気の中で相談していたのかしら?」
ガラティアに状況を説明し、自分達が感じている懸念なども補足として伝えながら、現状をどうすべきだろうか、という内容を伝えると、ガラティアは心底面白いらしい笑顔を浮かべた。
「なるほどなるほど、何という事でしょう何という天啓でしょう。マヒロ、アビィ、今すぐにこれらを調べあげなさい」
「……これは」
「あらん、これはちょっと楽しくなって来ましたわん」
ガラティアに伝えられた内容を二人で調べあげ、その結果にガラティアは満面の、それでいて会心の微笑みを浮かべた。
「行けますわね」
「条件は揃っています」
「全く、これはあの子の仕業ですわん」
ガラティアはサクサク準備を進め、マヒロはタツローに叱られそうな内容に戦々恐々とし、アビゲイルは心当たりのある人物へ、心の底から同情を送り、それぞれの仕事を完成させていく。
「これで良しですわ」
「大丈夫ですか? マイロードに叱責されるのは勘弁してもらいたいのですが」
「怒られるって事はないですのん? 呆られるか、ヘタレるかの二択のような気がしますわん」
二人の様子にガラティアは嬉しそうに微笑む。
「いいですわね。これからも貴女方とは仲良くしていけそうですわ」
「それは、はい、マヒロも同じ気持ちです」
「女子会、いいですのん」
ガラティアは二人にウィンクを飛ばしながら、帝国の高位将校のみが使用を許されている機密文書を送ったのだった。
一つは、このコロニーにいるゼフィーナ・ポルフォス少佐に。
もう一つ用意されていたモノは、一番分かりやすい部分にデカデカとクランエンブレムを載っけて、グヴェ・トゥリオ帝国トゥエイン・エフェリア・トゥリオ永遠帝その人へと送ったのであった。
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