第10話 目指す頂きは遥かに遠く、往くべき道は鋭き荊


 時間加速装置の内部を監視するモニターに、タツローとデミウスの戦いの様子が映し出されていた。


 今は戦闘艦によるスキル習得をしているので、やっている事は完全にアニメか漫画だ。


 SIOには必須基本スキルと呼ばれる技術や立ち回りがあり、それは一般にも公開されていて、純戦闘職と呼ばれるクラスのプレイヤーはほぼ全て体得、習得していた。


 本来のタスクはスキル習得を第一とするため、相手役はゲームのCPU的な動きしかしない簡易なデータを使用するのだが、タツローはあろう事かデミウスのほぼ完全なるクローンAIを指定している。そう、ほとんど一方的にやり込められているのだ。


「ドMニシカ見エン、ダゼ」

『ほぼ基礎の部分で詰まってますのん。でも、折れませんねん?』

「ソリャア、第五種処理シタラ研究データ使用デ第十種相当ノ調整強化デキタンダ、ソレダケ色々頑強ニナッテンダゼ?」


 生体強化調整では二人の研究は凄いことになっており、その研究データを使用した処理は、予定していた第五種を遥かに越えた前代未聞の第十種相当までやれてしまったのだった。


 処理を受けた当人は、体験者から『覚悟しろ、死ぬほど痛いぞ』とガチトーンで言われた過去があるので覚悟していたのだが、思ったほどの痛みもなく、妙にあっさりできてしまったので喜んでいたが。


『にゃはははははははあ! タツロー楽しいにゃあ! にゃあははははははははあ! もっともっともっと楽しませろにぃ!』


 クローンAIだけあり、すっごく出来が良い。流石に解析女帝サティラ・ヴァラ謹製のAIだ。


『くそっ! 同じ船で同じスペックで、どうしてここまで差が出やがる!』

『使う者と使われるモノとの違いだにゃ? ほれほれ気張れにぃ! ガンガン行くぜあ』


「ソレデモ喰ライツクカダゼ」

『流石に指導タイプAIですわん。相手に気付かれないレベルでちゃんと指導してますのん。壮絶にスパルタ式ですわん』

「船ノ緩急ダケデ技術ノ肝ヲ指示ッテドウカシテンダゼ」


 そう、完全に模擬戦の様相を呈しているが、これは間違いなく訓練なのだ。どんだけスパルタだろうと教導はされている。実際、タツローが操る初期型の戦闘艦の動きは見間違うほど良くなっている、少なくとも使われているレベルではない。


『ここでこうだっ!』

『おほーっ! バニッシュメント決められたにぃ。でもに、こういう返しがあるにゃ!』

『ふざけるな! リフレクトは基礎必須スキルじゃねぇ!』

『にょほほほ、真剣勝負の命のやり取り中でも同じ事抜かすのかにぃ?』

『ちっ!』


 敵の船に超接近し、瞬間的に船の突出した部位、大体の場合は船後方の尾翼の先端とかで行うのだが、そこのシールドを一時的に超高質化し、その部分で相手のシールドをぶっ叩くというのがバニッシュメント。それをやられた瞬間に破られたシールドエネルギーを瞬間的に相手側へ叩きつける技術をリフレクトという。


「色々イカレテルノダゼ」

『デミウス様ですからですのん。しかもしっかりスキルは教導できてしまっているのが変態的ですのん』

「オマイウダガ、人ニ教エラレテルノガ驚キダゼ」

『あ"?』


 必須基礎スキル、特に殴り合いと言われる超近接戦闘の技術を繰り返し繰り返し叩き込まれるタツロー。絵面的には一方的ないじめなのだが、叩かれれば叩かれる度にタツローの技術が向上してるので、しっかり教導はされている。


 タツローは理論派のガッチガチな理数系。本来なら天才タイプで感覚派のデミウスとは水と油のはずなのだが、何故だかデミウスとの相性は最上位で良好。それはデミウスが本当の意味でタツローを馬鹿にしないし否定しない事に要因がある。


『ほれほれぃ、タツローきゅんのもっと良いとこ見てみたいにぃ? ほれほれぃ』

『こうか!?』

『上等上等! にゃあはははははははは! やっぱりタツローはいいにぃ! お前は最高だにゃあ』


「アレデドウシテ出来ルヨウニナルンダゼ?」

『男と男の世界、素敵ですのん』

「(そそくさ)」

『どちらに行かれるのん? 仲良くしましょうねん』

「助ケテ! マスターダゼ!」


 何だかんだでタツローはデミウスを疑わない。どんなに道化めいた行動を取られようとそれには意味があると信用する。だから、デミウスが見せる道筋に、何一つ疑いを持たないし不満を持たない。だから伸びるのだろう。


『ほっほー! いいにぃいいにぃ! すっごくいいにぃ! もっともっと行くにぃ! ほれほれこれはどうかにゃあ!』

『くぅっ! ここでこう!』

『おほーっ! 霞受け! 出来たにゃ出来たにゃ! 流石だにぃ! これでどうかにゃ?』

『それを軽くやるな!』


 霞受けは敵の攻撃の射線を予想し、シールド効率を意図的に片寄らせ、シールドにまだらに歪な分厚い部分を数ヵ所用意し、そこへ射線を合わせてかすらせるように受け流す技術だ。必須とされているが、わりと出来る人は少ない超絶技術だったりする。



 必須近接スキル、バニッシュメントをはじめとした基礎六種、中級スキルと言われている一五種、上級スキルと定義されている八種、これが出きれば変態確定といわれた最上位スキル三種を何とか習得するのに一日、つまり内部時間で十年を要した。


 その後も中距離戦闘、遠距離戦闘、チーム戦、集団戦、ほぼ戦争の大規模艦隊戦と訓練は進んでいく。


 勿論、時間加速中であろうと食事や休憩は必要で、合間合間にそれらを挟みながら、タツローは着実にタスクをこなしていく。


『くっそ、馬鹿でかい山に、とんでもなく遠いゴールだ』


 それでもタツローの表情は、夏休みの少年のように輝いていた。

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