第11話 激突 ヘタレの秀才対道化の天才


 時間を加速して三日目、つまり内部では三十年目、すっかりロン毛になったタツローが歯を食い縛り、教導モードじゃない、実戦形式で戦っていた。


 取得すべきスキルは全て完璧ではないが、そこそこの精度で出来るようにはなっている。ただ実戦経験がまるで足りてないので、んじゃ今度はフルコンタクトでねとなり、つまりはなんでもあり状態の実戦訓練が始まってしまったのだ。


 新人類狙撃と呼ばれる相手の行動を予測し、その進行方向へいわゆる置きレーザーやミサイルを用意するスキルをデミウスに使われ、本来なら中距離戦でやるパリィというスキルでレーザーを弾き、数射ちというミサイルをピンポイントで叩き落とすスキルでミサイルを排除していく。


「なかなかやるにぃ。これならどうにゃい」

「ぐぅぅ、まだまだあぁ!」


 追いかけてたデミウスがくるりと半回転し、後ろ向きに飛びながらのヘッドオンを使い、変則的なスケーター使用状態を維持しつつタツローを攻撃する。それをタツローは霞受けですり抜けるように回避し、サーカスと呼ばれるアクロバティックなひねり込みで相手の背後へ回り込む技術で対抗してみせる。


「ふっふーん。なるほどなるほど」

「っ?!」


 デミウスの口調が変化した瞬間、背筋に走った冷たい予感に逆らわず、テクニックやスキルをかなぐり捨てた回避で大きく逃げる。先程までいた場所を大量のミサイルが通り抜ける様子に顔が引き吊るのを感じた。


「ほーん、これもか……ふ、ふふふふふふ、まさかまさかまさか、タツローがここまでのポテンシャルを持っていたなんて、当人が知ったら怒り狂うんじゃないかにゃ? まあ、しっかりおれっちが楽しんじゃうけどにゃ」

「お褒めいだたき光栄だね」

「最上級の獲物じゃないか!」

「っっ?!」


 完全に雰囲気が変わった。


 デミウスが道化を演じている間は、何だかんだで手を抜いている状態なのだ。それでもとんでもない技量を持ってるのだけど。問題は、道化を止めた時だ。


 デミウスの本気を引き出した。それはタツローが望んでいた事ではあるが、対峙すると少しどころじゃない後悔に襲われる。


 デミウスの本気を引き出せたプレイヤーは三人。勇者いそっぷ、獣王ガオガオ、海賊女王ひまなつ、三人が三人共SIOを代表するようなプレイヤーであり、数々の神スキルを産み出した人々だ。自分はそこに並べたとは思う。


 だが、この圧力は半端じゃない。感じるGが十倍以上増加したような錯覚すら覚える。これがトップオブトップ、ゲーム最強の強者の殺気かと、冷や汗が止まらない。


「遊ぼうじゃないか」

「ぐっ、うっそだろっ!」


 スキルでも技術でもない、それは完全に能力による一方的な暴力。レーザーというのは威力が上がれば上がるほど、熱暴走という問題がつきまとう。軽レーザーだとそこまで問題にならないが、中・重レーザーだとそこは大きな問題となる。


 デミウスは重レーザーを連射した状態で、合間合間に妙な操作を加え、絶妙な調整で熱暴走を起こさない工夫を施し、絶対に出来ない攻撃を繰り出してくる。


 タツローは必死にスキルと技術を駆使し、絶望的な状況でも折れず曲がらず歯を食い縛り、どうにか突破口をと耐え続けた。


「させないよ?」

「ちっくしょぉぅ!」


 耐え抜いた先で準備していたエネルギー注入タイプの高威力ミサイルをぶっぱしようと企んでいたが、ぬるりと急接近してきてバニッシュメントでシールドを割られる。


 こなくそと反射的にリフレクトで相手のシールドを割り、クイックという急旋回でデミウス船の急所、エンジン部分へレーザーの狙いをつけたが、そこへ抹茶を打ち込まれ弾き飛ばされてしまう。


「未来予知でも持ってるのかよ?!」

「さて、戦場を渡り歩いた数じゃないかな? なかなか素晴らしい。うん、これは予想以上だ。凄く良い、とても良い、ああ、もっと遊んでいたい!」

「っ?! ぐあぅっ!」


 瞬間的に急接近され、物凄い衝撃を受けたと思ったら全てが終わっていた。


「くっそぉ、勝てる気がしねえぇ」


 あまりの消耗具合にぐったりしたまま虚空を見るしか出来ない。


 真っ暗なシミュレーションコックピットに、先程までの戦闘映像が流れる。どうやらアビゲイルとポンポツが気を利かせて再生してくれているようだが、どこをどう見てもデミウスが何をやらかしているのか理解できない。それだけ実力差が隔絶しているようだ。


「……ふ、ふふふふ」


 精気を失っていた黒い瞳に光が戻り、突然笑い出した。


「俺がデミウスを本気にさせた。生産職の俺が……ふふふ、ははははははは、やったぜこんちくしょう!」


 タツローは高淡白高エネルギーのエナジーバーを口に突っ込み、必須栄養素が全て入っている濃縮栄養ドリンクで流し込むように飲み込んだ。


「次こそ勝つ!」


 再び操縦桿を握ると、シミュレータが起動し、再戦の火蓋が切って落とされる。


 ○  ●  ○


「ヌー、マジデ少年飛翔デマイカ、ダゼ」


 モニターをチェックしていたポンポツが呻くような口調で呟く。その様子にアビゲイルは上品に微笑んだ。おネイさんだが、上品ではある。迫力は凄いが。


「マイロードのデータ更新します」

「ウィ、精査シタノコッチニモ回シテクレダゼ」

「了解しましたポンポツ」


 タツローがデミウスとガチで戦い出して、実に三桁近いデータ更新が行われ、その度タツローの戦闘能力向上数値がハネ上がっていく状況に、アビゲイルは素直に感心していた。


 少なくともゲーム時代に見知っていたプロフェッサーとは別人だ。


 相手の顔色をうかがい、嫌われない立ち回りをし、自分を偽って何重にも予防線を用意し、他人との距離感を必死で守っていたヘタレた人物とは同一に見えない。


『男って素敵ねん』


 うっとりしたアビゲイルの呟きに、ポンポツとマヒロは沈黙で返す。これには関わらないことが一番大切、というのはここ三日で嫌というほど勉強させられたから。


「トットト帰ッテコイダゼ」

「同感ですポンポツ」


 妙にテッカテカなエフェクトを表示しながら、うねうねと奇妙な動きをするアビゲイルに、ポンポツとマヒロは救世主のお早いお帰りを待つのであった。

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