第9話 困った時には大体これですね


 SIOにおけるクランとは同好の集まりという側面を持っている。だがそれ以上に重要な事がある。


 フルダイブゲームの中でずっと覇権ゲームで居続けたSIOがフルダイブゲームの王様足り得る理由が存在した。


 ゲームをやっている人間なら共感できると思うが、神プレイというのは誰しも憧れる要素だと思う。自己満足であろうと見せるプレイであろうと、うわぁ今の俺すげぇ、というのはモチベーションをグッと持ち上げる要素だ。


 目前で、実況動画で、超絶な腕前のプレイヤースキルを見た時、やってみたい、出来るようになりたい、と思うゲームプレイヤーは多いはずだ。


 もしも、時間が必要ですがようになれますよ、と確約されたらどう思うだろう? 凄く燃えないだろうか?


 SIOがずっとフルダイブゲームで不動の地位を守り抜いてきたのは、そこだ。


 SIOにはタスクシステムというシミュレータ機能が存在する。これが凄まじく凄いシステムだったのだ。


 例えば『スケーター』という技術がある。これは対象物を中心に据えた状態で、艦首を対象へぴったり狙った状態、ヘッドオンしたまま左右どちらかへ円周上に一定距離で移動する技術だ。


 勿論これを努力して見つけたプレイヤーがおり、本来ならばこの技術はそのプレイヤーだけの技術である。真似をする人は現れるだろうが、そこは腕の問題で出来る出来ないが分かれるはずだ。


 しかし、タスクシステムはその技術を解析して誰でも取得できる形の習得方法を作ってしまうのだ。


 つまり、どんなにどんくさい人間でも習得時間に差は出るが、タスクシステムを使用すれば神プレイヤースキルを習得できてしまうのだ。


 各クランがそれぞれ、近接戦特化だとか中間射撃戦特化だとか宣言するのは、そのタスクシステムがあるからだ。

 つまりうちのクランに所属すると、特化した神プレイヤースキルを習得できますよ? という宣言でもある訳だ。


 だが、これをまるっきりぶっちぎりで無視するチートバグ野郎が存在する。我がクランの非常識男デミウスだ。


 デミウスは一度見た神プレイヤースキルを、感覚と何となくで使いこなした上で、上位互換的な技へ応用し昇華するという、その界隈の上位プレイヤーに蛇蝎のごとく嫌われる化け物のごとき能力を持っていた。


 デミウスが完コピするだけならデミウス一人が強くなるだけなので問題にはならなかったのだが、問題は、我がクランにちょっと洒落にならないお人がおりまして……


 サティス・ヴァラというおっとりした可愛らしいお姉さんがいたのだが、このお姉さん、ちょっと解析する能力がおかしくて、デミウスの事を解析しまくり、結果、そうだねSIO全てに存在する神プレイースキルをタスク化しちゃったのだ。


 さて、ここ『ロックロック』には我がクラン『遊戯人の宴』の全てがあるわけだ。つまり、SIOに存在したありとあらゆるプレイヤースキルがここにあるという事でもある。


 そして更に、ここには一番使いたい装置が存在している。それは時間加速装置。ステーションのエネルギー出力の大きさに左右されるが、最大で一日を十年ほど加速させることができる。


 ただ問題もあって、時間加速は普通に老化するという問題があるのだ。


 そこで必須となるのが、生体強化と生体調整、もしくは身体のサイボーグ化だ。これがあれば老化の問題も無視する事ができる。


 サイボーグ化はデメリットが多すぎて論外だが、生体強化と生体調整は身体を作り替える関係上、とんでもない激痛と戦うというデメリット以外存在しないからこれ一択となる。


「アーツマリ、生体強化ト生体調整ヲマズ実施スルノダゼ?」

『確かに、長期加速装置をご利用いただくのなら必要ですわん。それで、第三種くらいですのん?』

「第五種だ」

「オーゥ、ダゼ」

『正気ですのん?』


 生体強化と生体調整には段階が存在し、プレイスタート時に第一種強化調整状態で、一般人よりちょっとだけ肉体的精神的に強いという状態。第二種で国の兵士レベル。第三種で精鋭兵士レベル。第四種が近衛とかそういうエリート層のレベル。で、第五種がもう超戦士レベルだ。


 で二人が絶句したのは、人間が耐えられるレベルの調整強化が第三種まで、と明言というか設定で書かれていたからだろう。


「大丈夫だ。ルミ姉さんと共同で研究していた強化調整方法がある。確か、ここのデータアーカイブにあったはずだが……あ、これだ。これを使う」

『……なるほどですわん。これなら受けた人間への負担も極小ですみますのん』

「正気ジャナインダゼ」

「必要だからな、これだけは絶対ね」


 そう必要な事なんだ。

 純粋な戦闘職が必要なら、俺がなれば良いじゃん、という精神。だってSIO戦闘職の全てがここには揃ってるから。


「コレダカラ少年飛翔世代ハ」

「修行って素敵じゃん?」

『いつまでも男の子は男の子ですわん』


 ポンポツと思わず視線が合う。きっと思っている事は同じだろう、『お前はどっちの立場なんだ?』と。


『あらん? 不愉快な気配がしますのん』

「そんな機能搭載してんのかよ?!」


 妙に迫力ある流し目を受けて、背中に冷気が走る。


「じ、じゃあ、早速頼むわ。調整室に向かう。ポンポツはタスクの準備を頼む。仮想敵は最上級レベルのデミウスだ」

「正気カ? ダゼ」

「正気だ。あのレベルじゃないと一国家と喧嘩なんてできないだろ?」

「オーゥ、考エテルヨウデ脳筋ダゼ」


 さーって、楽しくなってきたぞ!

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