第5話 怯えろぉ!竦めぇ!最新鋭の性能を活かせぬまま、死んで行けぇっ!(腰ガクガク)
SIOの世界で戦闘艦と呼ばれる船には三つの種類、タイプ的な分類が存在する。
器用貧乏たるバランサー、スピード重視のスピーダー、ジェネレーターガン積みのライザーの三つである。
一般的に、バランサーは決定打に欠けるが万能タイプらしく豊富な武装でどんな状況でも対応ができる。スピーダーはその加速を利用した超近距離での『殴り愛宇宙』を主軸にした近距離戦闘特化。ライザーは積み込んだジェネレーターのイカれたエネルギー供給量を全面に押し出したパワー勝負。とそれぞれにそれぞれの戦い方があるわけだ。
先程から最新鋭だと騒ぎ立てている敵側の船だが、メーカー型番【DPSSV-718】レイナバルシリーズの第七世代後期型シャナイバルⅣ。イースル・ロルというシップメーカーが製造していたスピーダータイプの船だ。
戦闘艦の分類はちゃんとした意味がある。タイプによって戦い方が違うのはもちろんであるが、構成する装備もタイプごとで変えるべきであるし、そのタイプを活かすジェネレーターを積まなければならない。
うん、何が言いたいかと言うとだね。スピーダーが中間から遠距離でミサイル主体の射撃戦をするなど、お前馬鹿じゃねぇの? という状況に俺ガイル。
「あんさ、あいつらって一応訓練受けてるっぽいんだよね?」
「恐ラク、受ケテナイ微レ存、ダゼ」
「いやどっちだよ!」
「編隊見ルト、訓練受ケテルッポインダゼ? ヤッテル事ガトーシロナダケデ、ダゼ?」
「おーもー」
こちとら慣れない戦闘で、腕は震えるし、両足はプルプル小鹿状態だし、何か忘れてたけど微妙に頭痛いし、だってのに何なんだよこいつら?!
「デミウス師匠ノ言葉。考エル前ニ殴レ、ダゼ?」
「お前の師匠ってデミウスかよ?!」
「心ノナ、ダゼ」
どっから取り出したのか、タバコサイズのプラスチックのアレを取り出し、プファーと今度はミントの香りがする煙を吐き出す。
「妙に気分がスッキリするのがムカつく!」
「気ニスンナハゲンゼ? ダゼ?」
「お前が原因だ!」
だが、デミウスの格言にも一理ある。ならやるべき事は反撃だ!
「サブサブを基幹ユニットへ、出力三十五」
「触媒ハ? ダゼ」
「ルビィチィム結晶体」
「了解。重レーザーヲ選択、ダゼ」
デミウス専用戦闘艦【TⅡR-FFCSPⅢ245KKブレジングイーグル】には俺でしか開発できなかった技術が多数搭載されている。
まぁ、その開発した技術の全てがデミウスのワガママから誕生した物であるのが笑えない。
その開発したものの一つが、レーザーの触媒を選択式にした、という物だ。
レーザーにもタイプがある。
水鉄砲に代表される軽レーザー。弱くも強くもない中間的な威力の中レーザー。物凄く強力で威力が最も高い重レーザー。この三つである。
軽レーザーは牽制から防御的な使用に適し、近距離の格闘戦なら中レーザーが、中間距離での射撃戦では重レーザーと言った感じに使い方を分ける。
だが、これを一つの船に全部載せるのは現実的じゃない。そもそも戦闘艦のタイプという縛りもある。
デミウスはこれがとてつもなく面倒くさかった。流石の大迷惑野郎も自分の船の準備は自分で行っていたので、構成関係はヤツ自身の手でやらなければならない。
だからこそというか、やっぱりというかデミウス君は簡単に言ったのだった。『タァーツローちゅわん♪ おねがーいにぃ、全部載っけてクレメンス』と。
ふざけるなこのタコ、気持ち悪いわ! と突き放すも、ネットリと絡んでくることを止めることはなく。そうして俺が根負けして開発したのが、選択式リボルバー触媒ユニットだ。
リボルバーのシリンダーのような物に、更にシリンダーを突っ込み、大きなシリンダーで軽、中、重レーザーの選択を、小さなシリンダーの中に良く使う、使い分けが必要なそれぞれの触媒を入れて使用するという仕組みだ。簡単でしょ? 構造教えたら、お前の頭がおかしいと責められたのが解せなかったけれどね。
『怯えて竦め!』
「お前がな」
いまだ中間距離でのミサイル攻撃をしている敵船を、モニター越しに睨み付けると稼働式の兵装がロックオンした合図としてレティクル(シューティングゲームで出てくる[+]これ)が出現する。これもデミウスの面倒くさいワガママの産物だったりする。高速戦闘しているとこれのあるなしで違うとか。
ガンガン飛んでくるミサイルを回避しつつ、操縦桿のトリガーを引き絞る。触媒が反応するキチキチという音を立て、赤色発光するレーザーが一直線に飛翔、相手のシールドが煎餅のように簡単に割れてそのままコックピットごとえぐり取った。
『馬鹿な! 一撃だと?!』
『シールドが役に立たない! 散解! 散解! 固まったら的にされるぞ!』
敵たちが泡を食ったようにバラバラに逃げ出す。
「アリャ素プラダゼ?」
「……ぐぅ、うっぷ、そうだな」
開きっぱなしの回線から微かに聞こえた悲鳴に、胃が逆流する感じがして、必死に唾を飲み込みつつポンポツに返事をする。
「フィー、顔ガ悪イゾ? ダゼ」
「顔色な」
ミントの香りを吹き掛けられ、少し気分が軽くなった。畜生、スマートなフォローしやがってブリキのクセに……
素プラとは、プラモデルの素組みから由来している。つまり、買った時のままのドノーマル状態をそう呼ぶ。
素プラの何が問題か。いや問題は無いのだけれど、メーカーのカタログスペックにはまるで届いていない状態ではあるから、メーカーからお買い上げ時にオプションを強くお勧めされる。
当たり前だが、カタログに載っているのは自社製品が最大のスペックを発揮した状態のパラメーターで、メーカー公式のオプションを全て載っけたときの状態であるわけだ。車とは違うのだよ車とは。
こちらの攻撃の威力にビビったのか、それまではそれなりに統率がとれていた敵側だったが、完全な烏合の衆と成り果てていた。
攻撃すればするほど精神的な苦痛を感じるは感じるが、やらなければこっちがやられる状況で話し合いを、なんて花畑な頭はしていない。トリガーを引く指がガクガクするが、それでも攻撃する手は止めなかった。
『やめ――ギャアアァァ!』
『こっち来るなぁ! マリアー!』
『化け物め化け物め化け物め! 教皇様バンザーイ!』
『助けて助けて助けて――うわあぁぁぁぁ!』
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
終わった。途中から無我夢中で記憶がない。気分が悪い、もう何か色々吐き出しそうだ。
「後ハコッチデヤットク。医療ポットノ予約シトイタ、行ッテコイダゼ」
「助かる」
「ウィ、オ疲レチャーン、ダゼ」
ブリキ様の心遣いに素直に感謝して、ベルトを震える両手でやっとこさ外し、怪しい足取りでコックピットから立ち去った。
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