第4話 ポンコツのポンポツ(高性能)


 こう、背中のゼンマイを回すブリキのオモチャがある。あの、目玉が飛び出した感じで、こう口がいーという感じのロボットのオモチャ。そいつが目の前にいる。


「……」

「フー」

 なんかいーな口に白い棒状の何かをくわえ、やたらと手慣れた感じの仕草でオイルライターをカチャコンと開けてシュボシと火を点ける。

 いや、炎の照り返しが妙な陰影を作って無駄に格好良く見えるのがすげぇムカつく。


「すんすん、あれラベンダー?」

「宇宙船ノ中デヤニナンゾ吸ウカ、ダゼ?」

 いやま、精密機械がある場所でタバコ吸われたら流石にぶん殴るけど、そういう配慮はしてくれるんだ。

「ソレヨカ、イイノカダゼ?」

「何がよ」

「アレ?」

 ブリキ様のマジックハンドのような手が指した方向から、何やら炎を撒き散らして飛ぶ筒状の――

「襲撃されてたじゃん?! 俺!」


 そうだった、何か急に襲われたんだ。

 でも、今回は動く。意地でも生きてやる!

「……デミウス、信じるぞ」

 所詮は夢の中の出来事、とは切り捨てない。夢の中であっても、いや夢だからこそ掴んで離すべきじゃない。それにクラメンとの約束は、それだけは絶対に守る。破ってなんてなるものか!


「AI! 緊急強化プログラム、レディ!」

「プログラムゴー」

 ミサイルがシールドにぶつかる瞬間、シールドの強度を五秒程度強固にするシステムを立ち上げる。

 ミサイルの爆発を完全に防いだのを確認し、パイロットシートへ。同じ事を起こさないようにガッチリ身体にベルトを装着した。


「ヨッコラ」

 そんな声をあげて、ブリキ様が空中二回転半ひねりしながらサブパイロットシートに備え付けてあるサポートロイドスペース――

「貴様サポートロイドか?!」

「ソレ以外ノ何ダト、ダゼ?」

「ただのネタっぽいポンコツかと思ってたわ」

「……」

「いったい!?」

 この野郎、無言で口にくわえてた白い筒を投げやがった。当たった感じ、プラスチックかこれ? 何のためにこんなの、ガジェットとして備えてるんだ?


「オウ、来テンゾ、ヘタレ野郎、ダゼ?」

「口が悪い! お前なんかポンポツって名前でいいわ!」

「サポートロイド、個体名ポンポツ了解」

「ウォーイ! ヒデェ!」

 ぎゃいぎゃい言い合いながら操縦桿を握りしめる。

「メイン四0、サブ七0、サブサブ七五!」

「ウィ、出力調整、メインサブサブサブ了解。制御、ポンポツエンゲージ」

「ポンポツ内データボックスからサポートアシストプログラム確認、制御わたしとエンゲージ。コンバットパターン、モデルデミウスインストール開始」

「は? 何それ!? 知らない!」

「制作者ルミ・ステア、TOTOとあります」

「嫌な予感しかしねぇ……」

 とにかく動け。話しはそれからだ。


 フットペダルを少しだけ踏み込めば、身体全体を押し潰すGを感じた。流石、純戦闘艦だ。加速度が工作船や採掘船の比じゃない。確かに戦闘を生業としていたパイロットたちがパイロットシートに金をかけまくり高性能なのを探すわけだ。このシートじゃないと結構きっついわ。


「ククククク、コイツラ素人ジャネェ? 回線秘匿セズ駄々漏レダゼ。ホイット」

 敵からのレーザーを回避していると、ポンポツが何かを操作すると、モニターのスピーカーからやかましい怒鳴り声が。


『何でこっちのミサイルで落とせない!?』

『何だこの速度は?! こっちは最新鋭なんだぞ! 軍用品なんだぞ! どうなってんだ?!』

『帝国の秘匿兵器か?』

『噂の皇帝直属の近衛騎士というヤツか?』

『隊長! 共和国からそのような情報はありましたでしょうか?!』

『ええい、相手が何であろうとここを見られてしまっては落とすしか無いのだ』


 何だかとても勝手に盛り上がっている。しかも、通信の周波数を見れば本当に通常回線帯の物を使ってるし。

「馬鹿だな」

「阿呆ダゼ」

「プログラムインストール完了。アシスト、レディ?」

「ああいやちょい待とうか。嫌な予感――いやいや、そこまでは必要ないだろう。制御だけアシスト頼む」

「了解いたしました」

「ヘタレダゼ?」

「うっせ! てか必要ないだろうよ」

「ンダナァ、ダゼ」


 通信を聞いていての予感というか予想。彼らのもたらす情報、俺の持つSIOでの情報を加味すれば、それは予想というより多分真実になる。


「相手の何かやたらと誇ってるミサイルって」

「抹茶ダゼ?」

「だな」


 抹茶とは、通常炸裂型ミサイルの俗称である。

 由来は、ゲームサービス初期にこのミサイルを研究していたナリハラというゲーム実況者が生放送中、これ抹茶だよ! 凄い抹茶してるって! マジ抹茶! と鮮やかな緑色の粉末火薬を見て連呼した事が原因となり、晴れて抹茶と呼ばれるようになった。

 そしてSIO最弱の兵器としての蔑称としても定着してしまった。一時期『たかだか抹茶ではなぁ!』ごっこが流行った。


 そう最弱なのである。


「使ってるレーザーもこれって」

「水鉄砲ダゼ?」

「だよなあぁ」


 水鉄砲とは、三種類に分類されるレーザーで軽レーザーに分類される。その中で最弱の物だ。

 レーザーはその威力を高めるために触媒となる結晶を使用する。水鉄砲と呼ばれるレーザーにはアクアタリス結晶体という水色の触媒を使用する関係上、そのレーザー光は水色となる。はい、見た目も水っぽいのだ。

 このレーザーは凄く熱暴走率が低く、連射しても熱暴走で基幹ユニットにダメージが行く事もないという特性を最大限利用するため、主武装というよりは防衛用の迎撃武装という使われ方がされる物だ。

 決して主武装として、主力兵器として使う武器ではないのだ。間違ってもそれだけはない。


「もし相手が逃げた場合、こっちの手を明かすのはまずい」

「ヘタレハヘタレナリニ考エテルンダゼ?」

「口悪いな、少しは敬え」

「ヘーイヘーイ」

「はぁ、まぁいいけどね」

 さて、戦闘なんてした事ないけど、約束は違えない。

 がんばるから、少し、本当に少しだけ背中を押してくれ、ダチたち!

 

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