ぼくたちの長かった戦いの日

第三話

「おい、こっち！」

　石河原（いしがわら）の先（さき）は、道（みち）を塞（ふさ）ぐ切（き）り立（た）った崖（がけ）になっていた。

　迂回路（うかいろ）を手分（てわ）けして探（さが）していると、坂神（さかがみ）くんの大（おお）きな声（こえ）が響（ひび）いた。

　声（こえ）のする方（ほう）へ行（い）ってみると、滝（たき）のように上（うえ）から降（ふ）り注（そそ）ぐ数条（すうじょう）の水（みず）の向（む）こう側（がわ）に、洞窟（どうくつ）がぽっかりと口（くち）を開（あ）けていた。

　もうこれ以上（いじょう）、先（さき）に進（すす）めないんじゃないかって諦（あきら）めかけていた矢先（やさき）である。

「大手柄（おおてがら）だよ、坂神（さかがみ）くん！」

　ぼくが褒（ほ）めると、坂神（さかがみ）くんは少（すこ）し上気（じょうき）した顔（かお）を浮（う）かべる。

「そうだろ！」

「こんなの…よく見付（みつ）けたよね…」

　遅（おく）れてやって来（き）た木元（きもと）くんも賞賛（しょうさん）した。

　洞窟（どうくつ）の入口（いりぐち）には木（き）の板（いた）が立（た）て掛（か）けられていて、その上（うえ）から土（つち）や枯（か）れた草木（くさき）が被（かぶ）せられている。

　遠目（とおめ）には分（わ）からないようにカモフラージュされている。

「これ、絶対（ぜったい）に誰（だれ）も入（はい）れないようにしてあるよね？」

「だな！」

「でも国（くに）や町（まち）がやったものじゃないよ…それならもっとちゃんとしているし…看板（かんばん）もあるはず…」

「じゃあ、これは何（なん）だろう？」

「分（わ）からないよぉ…」

「行（い）ってみようぜ！」

「大丈夫（だいじょうぶ）かなぁ…なんだか怖（こわ）いよ…」

「平気（へいき）だって！」

「入（はい）る入（はい）らないは後（あと）にして、ちょっとだけ覗（のぞ）いてみない？」

「おう！」

「覗（のぞ）くだけだよぉ…」

　率先（そっせん）して木（き）の板（いた）をどかすのは坂神（さかがみ）くんだ。

　ぼくと木元（きもと）くんは、板（いた）の上（うえ）の枯草（かれくさ）や汚泥（おでい）を払（はら）う係（かかり）。

　洞窟（どうくつ）の入（い）り口（ぐち）にあった数枚（すうまい）の板（いた）を動（うご）かす間（あいだ）に、ぼくたちは水浸（みずびた）しになっちゃった。

「あ～あ、せっかく乾（かわ）いてたのに」

「やっぱり泳（およ）ぐのをちゅうちょしてたんだぁ…濡（ぬ）れたくなかったから…」

　木元（きもと）くんの言葉（ことば）に、ぼくはえへへ、と舌（した）を出（だ）した。

「真（ま）っ暗（くら）で何（なに）も見（み）えないね」

「いや、あの奥（おく）の方（ほう）、ほら、光（ひかり）が見（み）えるぞ！」

「きっと…反対側（はんたいがわ）に出（で）られるんだよ…」

「どうしよっか？」

「他（ほか）の迂回路（うかいろ）を探（さが）すか…ここを通（とお）って進（すす）むか…ってこと？」

「行（い）こうぜ！」

「暗（くら）くて…怖（こわ）いよぉ…」

「平気（へいき）だって！」

「他（ほか）の道（みち）を探（さが）しても見付（みつ）からなかったし、行（い）ってみよっか」

　そうしてぼくたちは、暗（くら）い洞窟（どうくつ）の中（なか）へと足（あし）を踏（ふ）み入（い）れた。