ぼくたちの長かった戦いの日

第二話

「良（よ）かった、山下（やました）はいないみたい」

「山下（やました）は今日（きょう）、野球（やきゅう）の試合（しあい）だったな！」

「そうなんだぁ…」

「さあ泳（およ）ぐぞ～」

　準備運動（じゅんびうんどう）もそこそこに、川（かわ）へ飛（と）び込（こ）む。

　昼前（ひるまえ）なのに、気温（きおん）は三十度（さんじゅうど）近（ちか）い。

　川（かわ）は足（あし）が着（つ）く深（ふか）さで、ひんやりとした水（みず）が気持（きも）ち良（よ）かった。

　ひと泳（およ）ぎすると、太陽（たいよう）が頂点（ちょうてん）を回（まわ）った。

　そろそろお腹（なか）が空（す）く時間（じかん）。

「ご飯（はん）を食（た）べてから、また集（あつ）まろっか」

　ぼくの提案（ていあん）に、木元（きもと）くんが持（も）って来（き）ていたリュックを差（さ）し出（だ）す。

「絶対（ぜったい）にお昼過（ひるす）ぎると思（おも）ったから…ママにお弁当（べんとう）を作（つく）ってもらったんだぁ…」

　さすが木元（きもと）くん！

　先（さき）のことまで考（かんが）えている！

　大（おお）きなタッパーの中身（なかみ）は、おにぎりとタクアン。

　三（みっ）つに分（わ）かれた小（ちい）さい方（ほう）には、レタスが敷（し）き詰（つ）められ、唐揚（からあ）げとミニトマトが並（なら）んでいた。

　ぼくたちは木元（きもと）くんのお母（かあ）さんに感謝（かんしゃ）して、有難（ありがた）くお昼（ひる）を頂（いただ）くことにした。

「おれはトマト嫌（きら）いなんだよ！」

「ちゃんと食（た）べないとダメだよぅ…栄養（えいよう）のバランスって言（い）ってね…」

「米（こめ）と肉（にく）だけ食（く）ってりゃ育（そだ）つ！」

「いやいや…」

「だから、おれのミニトマトと唐揚（からあ）げを交換（こうかん）してくれよ！」

「やだよぅ…」

「坂神（さかがみ）くん、それじゃ山下（やました）と変（か）わらないよ」

「バカ言（い）え、おれは山下（やました）みたいに無理（むり）やり取（と）ったりしないぞ！」

「冗談（じょうだん）だって」

　ぼくたちは笑（わら）いながら、お弁当（べんとう）を完食（かんしょく）した。

「もう一回（いっかい）泳（およ）ぐか！」

「少（すこ）し川辺（かわべ）を探検（たんけん）しない？」

　やっと乾（かわ）いた水着（みずぎ）が濡（ぬ）れてしまうのを避（さ）けたかったぼくは、そう提案（ていあん）した。

「今（いま）なら山下（やました）もいないし…いいかも…」

「そうだよ、こんなチャンスはなかなかないよ？」

「だな！」

「上流（じょうりゅう）の方（ほう）まで行（い）ってみよう」

　そこに何（なに）があるかなんて、その時（とき）のぼくは知（し）りもしなかった。