3
艶やかで真っ直ぐな黒髪。対するように白い肌は、しかし病的とまではいかず適度に血色が良く、健康そうだ。切長だが黒目がちな面差しに、慎ましやかな鼻と薄い唇。文句なく和風美人。
思わず見惚れて固まってしまった樹琳に、目の前の美女は口の端を吊り上げるようにして笑った。
「何か?」
「あっ、いや、ごめん、何でも…」
声をかけられて漸く我にかえり、慌てて名札を確認する。
【安倍】
「安倍、さん…?」
「うん。そうだ。よろしく」
「俺、守木樹琳て言います。よろしくお願いします」
「守木、きりん…?変わった名前だな」
「親が2人ともキリン好きで」
予想外の美女の登場、しかもその美女と会話が弾みそうな流れに、思わず心の中でガッツポーズをする。
「変な名前だけど俺は気に入ってるし、俺ら世代ってキラキラネーム多いから、他に比べればあんま気になんないって言うか…」
「きりん…。どんな漢字を書くんだ?片仮名なのか?」
「いや、樹木の樹に、王様の王に林でリン」
「樹琳……」
そう呟くと、阿部さんはゆっくりと背もたれに背を預け、静かに視線を落としたきり、そのまま考え込んでしまった。
軽く折った細い指先を顎に添えて思案に耽る姿は、如何にも[深窓の令嬢]という感じだ。
樹琳がその姿に見惚れていると、右隣から大きな咳払いが聞こえてくる。その音量にびくりと驚いて視線を遣ると、目を閉じ腕組をしたまま、空手部主将(仮)が先程より険悪なオーラを放っていた。
えっ、俺今牽制された?えっ、もしかして阿部さんはコイツの彼女なの?
樹琳が戸惑いに硬直していると、間の抜けた調子で予鈴が鳴った。
もし彼女だったら、俺この人に殺されるフラグ立てちゃったかなぁ…。
色鬼 @konjou
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