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 確かに、そこまで華々しく高校デビューする予定は無かったよ。でもさ、もうちょっと…神様、これはもうちょっとなんとかならなかったの………?


 張り出されたクラス分けの模造紙に自分の名前を見つけ、教室を探し出して名前の札が置かれた机に着席した樹琳は、周囲への挨拶もそこそこに、早々に机に突っ伏していた。

 「一目見ただけで突っ伏したくなる理由」は、座席付近のクラスメイトにある。


 前列は正面、左右共にまだ来ていないのかどこかへ行ったのか、どんな人が来るのか不明。問題は…


 左隣、完全にヤバい女が座っていた。今流行りの腐女子らしい彼女は、顔を埋めるようにして薄い冊子を読んでいる。その表紙には、男同士が異様な距離で密着し見つめ合った絵が踊っている。正直、関わり合いにはなりたくない…。


 左後ろには、見た目にも分かりやすいガリ勉君。中学の間に成長期が来なかったらしい彼は、小学生かと疑う程に小柄だ。制服はワンサイズ大きく見える。黒い神経質そうなメガネに長い前髪。前の腐女子とは系統の違う難しそうな本を読んでいる。


 右隣はザ・空手部主将。短く刈り上げた髪に、意志の強そうな顔つき。服の上からでもわかる筋肉のついた体躯。座っていて尚、背が高いのが見て取れる。今はむっつり目を閉じて腕組みをしている。気軽に声をかけるにはハードルが高い。


 唯一の目の保養は右後ろにあった。いかにも女子高生らしい女子高生。少しギャルっぽい彼女は、校則を気にしての事だろう少し暗めの茶髪に、ピカピカ光る爪をしている。恐らくネイルというやつだ。今は鏡を見ながらつけまつ毛を弄っている。


 この「お前ら本当に高校生かよ!?」と思わずツッコミたくなるメンツで、1番初めに声を掛けるならば。迷う人なんていない、勿論女子高生である。

 自席に座る時にさり気なく彼女の名札をチェックしていた樹琳は、勇気を出して振り返りながら声を掛ける。


「あ、赤木さん!」


 ヤバい声裏返った。


「ネっ…、ネイル綺麗だね!」


 よし、よく言えた俺!よく頑張った!

目を合わせるには些か勇気が足りず、鏡を持った指に目をやりながら声を掛けた。ネイルをしている女性で、それを褒められて悪い気分になる人はそう居ないだろうと予想しての事だが、我ながら無難な話題チョイスだと思う。

 たっぷりと拍子を置き、チラリとこちらを一瞥してから返ってきた返事は。


「……………はあ?」


 一撃でブロークンマイハート。こちらに対し一切興味の無さそうな、温度を感じない声音。二言目を完全に封じ込められた樹琳は、小声で「ごめんなさい」と口早に謝ると、再び前を向いて突っ伏した。


 俺の高校生活、詰んだかな…。


 初日から何を大袈裟な、と言われるかもしれないが、学生生活で最も重要なタスクは人間関係だ。どんな友人を持つかで、学生生活はガラリと変わる。

 隠キャの友達になれば交友関係はまず広がらないし、いじめに遭う可能性がある。ヤンキーの友達になればパシリにされるか教師から厄介者扱いで、内申点はズタボロ。クラスの人気者の友達になれれば1番平和だ。誰だってこのポジションを狙うだろう。ギャルは率先してそのクラスの「カラー」を決めるから、仲良くなるに越したことは無い…、のに。

 思わず、突っ伏したまま深いため息が漏れた。勿論ギャルには聞こえないように。

 教室内は樹琳の事などお構いなしに騒ついていて、まるでここだけ陸の孤島だ。顔だけを上げて周囲を窺えば、既にある程度友達のグループは出来上がりつつあるようだ。完全に乗り逃した。

 せめて今からでも声をかけて仲間に入れてくれそうな所は…と視線だけで探していると、ふと背後に人の気配がした。


 あれ?真後ろって、誰も座ってなかったよな?椅子を引く音はしなかったけど…。


 驚きに思わず身を起こし振り返る。


「…うん?お早う」

「お、おはよう…」


 美女がいた。


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