005


「さて、もうわかっておるとは思うがお主らは既に死んでおる。本来なら死んだ後は輪廻の流れに沿って、生まれ変わるかそのまま無に帰ってもらうところなんじゃが、実はお主らにやって貰いたい事があるのじゃ」



 正体不明の神様っぽいのが、先ほどまでの流れが何も無かったのかように何やら語り始めた。


 相変わらず、どんな風貌をしているのかは認識すらする事はできないが。喋り方は結構年寄りくさい感じだ。


 ふむ、やって貰い事ときたよ。テンプレですね、わかります。



「ちなみに僕達は何をすれば良いんですか?」


「なに、簡単な事じゃよ。ちょいと別の世界でまた普通に生きてくれれば良いだけじゃ」



 キター!異世界!異なる世界、Another World、ISEKAI!


 どこかとは違って、心の底から、はい喜んでとお返事できる。もうニッコニコだよ。



「やっと終わったのにまだ続けなくちゃいけないの? そんな面倒くさいの私はお断りよ」



 僕が二つ返事で答えようとしていたら、隣から物凄く可愛い声で物凄く残念な答えが飛び出した。何かの聴き間違いかと思った。だって異世界だよ? 陰キャとオタクと社畜の憧れ、異世界!


 けれど、不動さんはそんな憧れの異世界には全く興味はないみたいでただただ面倒くさそうにしている。心なしか、死んだ魚のような目をしている気もしてきた。



「そっちの少年とは違いお主には拒否権はない、野良犬に噛まれたとでも思って諦めるのじゃ」


「何よそれ……」



 うん? そっちの少年とは違う?


 

「僕は拒否しても良いんですか?」


「何じゃ? お主も拒否したいのか? お主は本来ならここには来るはずじゃ無かったのじゃが、なぜかそこのお嬢ちゃんにくっついてきただけのおまけじゃ。なのでお主はどちらでもいいぞ」



 おまけ? あれ? おかしいな目から汗が止まらないや……



「で、お主はどうするんじゃ?」


「聞いてみただけです。おまけで良いのでお願いします」



 不動さんが、信じられないものを見るかのような目を僕に向けているのを感じる。おまけでも良いだって異世界に行くチャンスなんだから! 



「う、うむ。それではこれからの説明を少ししてやろう」



 神様っぽいのが言うには、これから行く世界は神様の部下が管理しているところで、よく聞く剣と魔法のファンタジーな世界らしい。その世界で何をするのかといえば、言葉の通りただ好きに生きていけば良いらしい。多分、そこで生きていくだけで神様っぽいのに都合のいいことでもあるのだろう。


 他にも色々と説明を受けた。その間、不動さんは断る事も面倒くさくなったのか黙って説明を聞いていた。



「最後に、我からひとつ能力を授けてやろう」



 能力キター! ワクワクが止まらないぜ! 



「ちなみに、どんな能力なんですか?」


「お主らに授けるのは、才能の種じゃ。向こうに行った後それぞれお主らに合った能力が開花する。じゃから、今の時点ではどんな能力かはまだわからぬ。向こうに行ってから確認すると良い」



 ふむふむ、どんな能力が出るかは向こうに行ってからのお楽しみって事か。あれ? 才能の種って事は、もし仮に才能が全くないです。無能おつってなったら果たして能力はちゃんと開花するのだろうか? あれ? これってフラグ?


 念のため神様っぽいに、確認しようとしたところ不動さんに声をかけられた。その時の不動さんは、面倒くさそうなそぶりは全くなく申し訳なさそうな顔をしてい為、不動さんを優先する事にした。



「ちょっと良いかな? 君が寝ている間にあのおじいさんから色々話を聞いたんだけど。君が死んじゃったのは、私を助けようとして巻き込まれちゃったって事で良いんだよね?」


「えっと、うん、そうだね。ごめんね間に合わなかった」


「君はお人好しなんだね、私なんか放っておけば良かったのに。もしまた同じような事が合ったとしても私を助けようなんてしなくて良いから」



 そう言うと不動さんは満足したのか、僕に背を向けた。声はめちゃくちゃ可愛いのに性格は全然可愛くない。そんなふうに思っていた時、不意打ちのように彼女からもう一言付け足された。



「でも……ありがとう、気持ちは嬉しかったよ」



 正直キュンとした。そのおかげでこの時の僕は、神様っぽい人に確認する事も忘れ、ただニヤニヤするだけの気持ちの悪い人になっていた。



「さて、それではそろそろ行って貰うとするかのう。楽しくのんびり生きていくんじゃぞ」

 

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