第30話 魔族たちは望む
今回は半分ほど世界観などの説明回になります。
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この世界には基本的に三種族が存在する。人族、亜人族に魔族だ。
人族については説明不要だろう。リンム・ゼロガードたちが住む大陸で最も数が多く、幾つかの国家を形成して繁栄している。ただし、寿命が限られることもあって、三種族の中では最も弱い……
次に、亜人族は「人族と野獣などが交配して生まれた」などと揶揄されることがあるものの、総じて人族より遥かに長寿で、その長い生の中で経験値を積むことで素の
リンムたちの住む大陸では獣人が最も多く、イナカーンの街を訪れたハーフリングがその代表格だろうか。他にも、エルフ、ダークエルフ、ドワーフに
逆に、獣人たちは人族の生活によく溶け込んでいて、この大陸には獣人差別もないので、種族間での交流などもあって、今では獣人らしい外見的な特徴が薄れている場合も多い。
さて、最後に魔族だが、これは魔獣や魔物と同様に魔核があって不死性を有している種族だ。肉体や精神がピークのときに外見や内面的な成長をいったん止めて、魔核が潰されない限り再生する。
また、大気中にある
そんな魔族の唯一の楽しみが戦いで、互いにぶつかり合って格付けをして、その頂点として魔王が立つ。何にしても、戦って潰えることは不名誉ではなく、むしろ誉れとみなすのが魔族の本質である。
もっとも、イナカーンの街付近の『初心者の森』に現れ出た魔族はというと――
「最恐最悪の魔王――いや、魔神から
その魔族はにやりと笑みを浮かべた。
現在、リンムたちが住む大陸には奈落が四つ存在する。
ただし、遥か昔に女神クリーンが厳重に封をしていて、また今まではその敬虔な信徒たる法国の聖女たちが守護してきたわけだが……
「大陸西の公国と、南の地のものが放たれたならばもう十分でしょう。これで大陸を蹂躙出来ます」
そう呟いて、魔族は被っていたフードを外した。
一見すると、美しい人族の娘だ。癖のある長い赤髪で、人を焦らすような妖しい目に、肉感的な唇が特徴的で、まるでベッドから起きがけといったふうにどこか乱れ放題――
しかも、その周囲には酒池肉林かと見紛うほどに、多種多様な人族や野獣の臓物などが散乱していた。
そのうちの半身しかない大熊に無造作に取り付けられた二つの人の頭がうなり声を上げる。
「リ、ン、ム……リン、ムウウウ……」
「殺せっス……もう止めて、くれっス。頼むっス……」
もっとも、ドサリと。
そんな嘆きをかき消すかのように、魔族の女性の背後で音がした。人を入れた麻袋が置かれたのだ。
「お待ちしていました。リィリック・フィフライアー」
「そこまで待たせたつもりはなかったんですけどね。むしろ、計画は前倒しばかりで大変でしたよ」
「たしかに、当初はイナカーンの街を強襲すると聞いていましたから、まだ狼煙が上がらないのかとやきもきさせられましたよ。結局、街を襲いはしなかったのですか?」
「ええ。それ以前に第七聖女とはたまたま出会えてね。そこでちゃちゃっと攫ってきたというわけです」
リィリック・フィフライアーは麻袋を軽く足蹴にした。袋の中から「うう」と鈍い声がする。
その反応に満足して、魔族の女性は「ふむん」といったん息をつくと、血塗れの片手を顎へとやってから首をやや傾げてみせた。
「では、貴女の
「全くもってその通りですよ。だから、これからちょっとばかし行ってくるつもり――」
というところで、森の茂みから声がかかった。
「帝王へのご報告が先だ。第七聖女確保の報を伝えるのは、そもそも貴女が最優先すべき事項のはずだ」
猟兵団長のシイト・テンイーガーが配下を伴って進み出てきた。
魔族が二人もいて、さらには血溜まりの湖とでも言うべき惨状が広がっているというのに全く物怖じしていない。
だから、リィリックは舌打ちしつつも、「はいはい」と開き直って掌をひらひらと振った。
「じゃあ、後事は託したわよ。猟兵団長殿。由緒正しき
「ふん。誰に言っているのだ?」
「いつまで経っても親衛隊に上がれない団長止まりの坊やさんに」
「ちい!」
猟兵団長のシイトが短慮で双剣を振るったときにはリィリックの姿は消えていた。
「お止めなさい。見苦しい」
「……失礼いたしました。帝王直属親衛隊次席のサラ様」
多分にシイトは親衛隊次席という箇所に皮肉を込めたつもりだったが、魔族の女性――サラは気にせずに、麻袋の口を開けた。
「さて、ご対面ですね。第七聖女さん。奈落の封を解いてくれた後は……せいぜい合成獣として有効活用させてもらいますよ」
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ここまでお読みいただきありがとうございました。次話からは『妖精の森』編で第一部が終幕となります。
また、本日は新しい連載長編『オタクはすでに死んでいる。』も投稿開始しています。もしよろしければ、そちらも併せて読んでいただけましたら幸甚でございます。どうかよろしくお願いいたします。
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