第25話 裸になる(終盤)

お待たせしました。改めて梃入れもかねて、タイトルとあらすじを若干変更しました。

また、合わせて直近の『裸になる』も三話構成にして、前話も少しだけ修正しています。

今話と繋がりが変わっているので、お時間があるなら前話の後半からお読みいただけると助かります。



―――――



「集めてきたぜ、姉御。ドウセの野郎はまだ捕まったままで、それにリンムとかいうおっさんとオーラ水郷長にも一人ずつ尾けたままにしてあるが――これで全員だ」


 ムラヤダ水郷の湖畔の飲み屋には盗賊団が集合していた。


 総員で三十人ほど。当然のことながら、これはいったい何事かと、傭兵たちのリーダーが前に進み出てくる。


「急いで来いという話だったが、いったい何があったのだね?」

対象・・がこの郷に現れました」

「まさか! ここに? イナカーンの街に向かったのではなかったのか?」

「私もそう思っていました。実際に、警護の者たちがイナカーンに行ったのは間違いありません」

「では、わざわざ欺瞞工作をしたということかね? 何の為に? それに、現在の対象の警護はどうなっている?」


 というところで、盗賊の一人が「ちょっと待ってくれ」と声を上げた。


「なあ、姉さん。対象ってのは何だ? それに警護ってどういう意味なんだ?」


 その声をきっかけにして、盗賊たちは「そうだ、そうだ」と騒ぎ出した。昨日の昼過ぎに襲い掛かったのが単なる商隊でなかったのは、現場で戦っていた者ほど痛感していた。


 頭領のゲスデス・キンカスキーが以前に語った通り、この場にいるのは頭と胴体が離れてもおかしくない思いをした者たちばかりだ。これまで姉御の指示には唯々諾々と従ってきたし、それで成功してきたから不満はなかったが――


 今回ばかりはどうにもきな臭かった。盗賊たちだけにそういう嗅覚はやたらと鋭い。


 が。


「テメエら! うるせえ! 姉御が話さなかったってことは、あえてそうする必要があったってことだ! いいから黙って聞け! 文句がある奴は全員、俺に言え! 何ならかかってこいや!」


 ゲスデス・キンカスキーの一喝でその場はしんとなった。


 もちろん、ゲスデスとて納得しているわけではなかった。対象というのは第七聖女のティナ・セプタオラクルに間違いないはずだ――


 となると、警護というのも、王国の四大騎士団か、もしくは法国の神殿騎士団であって、ゲスデスたちがまともにやって敵う相手では到底なかった。


 そもそも、ゲスデスは貧民窟スラム出身ということもあって王侯貴族は大嫌いだが、貧民への炊き出しや孤児院の運営などをしてくれている教会には恩義を感じていた。その頂点にいる聖女となると、ちょっとした憧れアイドルみたいなものだ。


「ふん! ちくしょうめが!」


 だから、ゲスデスはまるで自分に言い聞かせるように仲間たちを痛罵して、さらに頭を横にぶるんぶるんと振った。


 ちんけな盗賊を止め、人殺しも辞さない悪党になった以上、とっくの昔に覚悟は決めていたことだ。聖女だろうが、仲間だろうが、何なら姉御だろうが――事と次第によっては切り捨てる。それぐらいの気概がなければ、この裏社会では生きていけない。


「で、姉御よ。指示をくれ。俺たちはどうすればいい?」


 幾分か引き締まったゲスデスの表情を見て、姉御なる人物は「ほう」と息をついた。


 最悪、ここで盗賊たちを全員始末しようかとも考えていたわけだが、せっかく手塩にかけて育ててきた者たちなので、せいぜい最期まで襤褸雑巾のように使い切ってやろうと思い直したのだ――


「ゲスデス。貴方はリンム・ゼロガードに尾いてください」

「あの冴えないおっさんのことか?」

「くれぐれも油断しないように。貴方の悪いところは――」

「わあーった。いちいち言わなくてもいいって、姉御。油断なんかしねえよ」

「ふむん。それでは、他の者は半数が私の指示下に。また、残りの半数はこの郷をいったん出て、高原にて待機。ひと一人分が入った麻袋を持ち出しますので、馬車などを用意して、いつでも逃げられる準備を整えてください」


 姉御なる人物がてきぱきと指示を出していくと、盗賊たちは全員、飲み屋を出て行った。


 残されたのは、姉御なる人物と十人ほどの傭兵たちだけだ。


 その傭兵のリーダーも途中からは柱に背をもたらせて、じっと腕を組んでいた。おそらく姉御なる人物の指示でいつでも盗賊たちを殺せるように待機していたのだろう。


「大丈夫なのかね? あの連中は?」

「そりゃあ、貴方たちに比べたら問題ばかりの子たちですよ」

「情でも移ったか?」

「はは。冗談にしては面白くないですね」


 刹那、姉御なる人物がちらりと傭兵のリーダーに鋭い視線をやった。


 それだけで傭兵のリーダーはぶるりと体を震わせた。大蛇にでも睨まれたような気分だった。百戦錬磨を自負してきたつもりだが――やはり上には上がいるものだ。


「それで……我々はどうすればいい?」

「貴方にはオーラ水郷長に尾いてもらいたいところです。他に適任がいませんからね。もちろん、タイミングはお任せします。他の方々については……私があえて指示を出す必要がありますか?」

「いや、ない」

「でしょう? それでは、帝国の誇る猟兵団・・・――王国の四大騎士団を上回ると謳われる実力を存分に発揮してくださいね」


 姉御なる人物はそう言って、掌をひらひらとさせて飲み屋から出て行った。


 傭兵のリーダー、いや、帝国の猟兵団長シイト・テンイーガーはその後ろ姿を見送って、「ちい」と舌打ちした。団員たちも長に倣って、不遜な顔つきになった。


「ふん。女狐めが。帝王直属の親衛部隊だからといって図に乗りやがって……」


 こうして聖女ティナのもとに胡乱な者たちが着々と集まろうとしていたのだった。



―――――



もうすっかりクリスマスですね。そんなわけで、次話にておっさんたちの着替えシーンをやります!(あと、もしかしたらティナもお風呂に入るよ) よろしくお願いいたします!(血涙)

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