第21話「潜行」
「いやいや、何この鋼材!? こんな重い鋼材この世に存在して良いの!? それとこれどういう製鋼法……っていやいや、そもそも何をどうやって鍛造してるの!?」
「いや、僕に聞かれても分からないけど……」
迷宮一階層──
一般的には安全地帯だとは知られていない、支洞の終点。
いつも以上に周囲の様子を気に掛けながら《伝説の剣》を召喚した僕は、目を爛々と輝かせるヘザーから質問攻めにあっていた。
「いやーまさか《伝説の剣》を抜いたのが本当にアレンだったとは……」
「……まあ、厳密に言えば【収納】しただけなんだけど」
「いやいや、それでも凄いって。英雄の素質ありって剣に認められたって事でしょ!?」
「そうだったら嬉しいけどね」
裏表のない笑顔で賞賛の言葉を掛けてくれるヘザーに、僕は少し気恥ずかしさを覚える。
「ちなみに《伝説の剣》ってなにか特殊な効果あった?」
「そういえばまだヘザーには伝えてなかったっけ。じゃあ……試しに剣に魔力を流してみて」
初めて召喚した時の僕以上に《伝説の剣》に目を奪われていたヘザー。
僕が促すと、ヘザーは恐る恐ると言った様子で黒剣の
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《プレイヤー:ヘザー・ファニング》が初期化の実行を求めています。許可しますか?
▷はい
いいえ
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僕の脳内に突如として一つの画面が表示される。
既に何度も見た《初期化》の選択画面──とは少し違う。
「ねえねえ、アレン。何も起きないよ?」
「……ちょっと待って」
僕以外が特殊効果を発動しようとするとこうなるのか──僕は《伝説の剣》の収納に成功したあの夜を思いだす。
【条件を満たしました】と言う表示の後、僕は特殊効果の発動に成功した。
単なる推測だが、【条件】を満たさない限り自力で特殊効果を発動する事は出来ないのだろう。
僕はヘザーの《初期化》実行を許可する。
「ん? ごめんアレン、《注意》の意味がよく分かってないんだけど、どういう事?」
恐らくヘザーの脳内には初期化の選択画面が表示されているのであろう。
僕は《伝説の剣》の特殊効果を噛み砕いて説明する。
「え、ステータスの振り直し!? そんな事できるの!?」
「うん。僕もそれに気付いた時は驚いた」
「え、ちょっと待って! ヘザーが《器用》に極振りした《技点》も振り分けられるって事!?」
「そういう事だね……という訳で5階層に向けて、探索型にビルドを組み直して欲しい」
ヘザーにそう言い含めながら、並行して自分自身の《初期化》も行う。
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【名前:アレン・フォージャー】Lv.1
武術:F+(0/50)
魔法:F− (0/51)
防御:G+(0/28)
敏捷:F (0/52)
器用:G+(0/30)
反応:F+ (0/60)
幸運:G+(0/36)
経験値:0/50
保有技点:3143
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大鼠討伐を経て、僕の《保有技点》は2367から3143まで上昇した。
たった1日──しかも大鼠討伐でここまで《技点》が上昇するとは流石の僕も予想だにしなかった。
【《プレイヤー:アレン・フォージャー》の初期化に成功しました】
・
・
・
・
【【スキル:収納】──[重量]level.9→MAXに上昇しました。現在の《保有技点》は2243です】
取り敢えず《伝説の剣》を収納する為にも【スキル:収納】のlevel.は上げざるを得ない。
そして残った2243の《技点》を振る前に、ヘザーとお互いのステータスを共有する。
「どうヘザー? 上手くいった?」
「うん! 今までコツコツ上げてきた《器用》が戻ったのなんか変な感じだけど……」
ヘザーはステータスの変化に違和感を覚えるのか、自分の手を
「初期化した後の《保有技点》どのくらいある?」
「んーっとね。1400くらいかな」
ヘザーは初期化した後のステータスを僕に伝える。
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【名前:ヘザー・ファニング】Lv.10→Lv.1
武術:G+(0/32)
魔法:G+(0/32)
防御:F−(0/39)
敏捷:F (0/44)
器用:A (0/171)→E−(0/54)
反応:F+(0/60)
幸運:F+ (0/50)
経験値:102/297→0/48
保有技点:8→1412
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ヘザーがLv.upに必要な経験値量は、僕と比べて少ない。
更に聞いた話によると、ヘザーがLv.up毎に貰える《技点》は150前後らしい。
僕が貰える《技点》は120前後とかなり低めなので、実は密かにヘザーの事を
「ひとまず迷宮5階層までなら、《防御:E》……いや、念を入れて《防御:E+》まで振れば万が一にも事故はないと思う」
僕は迷宮5階層までに出現する魔物を思い浮かべ、そう判断する。
最終的にお互い最低限の《技点》を《防御》に振り、進行速度を優先してヘザーには残りの《技点》を《敏捷》に振ってもらった。
「ほえー何だか体が軽くなった気がする……って痛て!」
ヘザーは意味もなく
「ビルドを組み替えた後は体を慣らす為に慎重に動いた方が良いよ……って言おうとしたんだけど」
「いったぁ……」
僕はお互いの足並みを揃える為に《敏捷》の値をヘザーと合わせ、余った《技点》は《武術》に振った。
それでもまだ残る端数は適当に《幸運》にでも振る事にした。
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【名前:アレン・フォージャー】Lv.1
武術:F+(0/50)→A−(0/180)
魔法:F− (0/51)
防御:G+(0/28)→E+(0/112)
敏捷:F (0/52)→B−(0/195)
器用:G+(0/30)
反応:F+ (0/60)
幸運:G+(0/36)→F−(0/54)
経験値:0/50
保有技点:3143→12
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【名前:ヘザー・ファニング】Lv.1
武術:G+(0/32)
魔法:G+(0/32)
防御:F−(0/39)→E+(0/104)
敏捷:F (0/44)→B−(0/165)
器用:E−(0/54)
反応:F+(0/60)
幸運:F+ (0/50)
経験値:0/48
保有技点:1412→8
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◆
ステータスを振り直した僕達は、迷宮5階層に向けて潜行した。
僕が
数日前は苦戦していたゴブリンやスライムといった低位の魔物は既に敵ではなかった。
僕はヘザーから貰った短刀と《武術:A−》の力を存分に活かし、道行く先の魔物を斬り伏せる。
「それにしても……この短刀凄いね」
「でしょ?」
ヘザーが僕の為に用意してくれた短刀──魔体鉱石から錬成された短刀には、少し変わった効果があった。
「魔力を流すと攻撃力アップ……だっけ?」
「うん! 厳密に言えば攻撃力と会心率にかなりの
使用する魔力は馬鹿にならないので、ここ一番という時にしか発動出来ない。
しかしそれ抜きにしても効果発動時の殲滅力は空恐ろしい物がある。
「ガァアア!」
4階層──湿地層。
呑気に談笑しながら進行していた僕達の元に、1匹のレッサーウルフが奇襲を仕掛けた。
「くっ……!」
反応が遅れた──湿原に紛れて獲物を狙っていたレッサーウルフは、僕目掛けて一直線に飛び掛かかる。
《反応》に《技点》を割かなかった事を後悔しながら、僕はその身を
「グルルルル!」
初撃を透かされたレッサーウルフは、着地するや否やその場を反転。再度僕目掛けて突貫を試みる。
僕は逆手に持った短刀を上段から袈裟斬りに振るい──
「──ガルルルルァ!」
「ガキン」というまるで剣と剣とが打つかり合うような音が響く。
頭部目掛けて真一文字に振るった短刀を、紙一重の所でレッサーウルフが噛み止める。
ただ、《武術:A−》の前では力比べにすらならない。
「ガウァ!?」
突進の勢いそのまま短刀に噛み付いたレッサーウルフを、純粋な
僕は噛み付いたレッサーウルフごと短刀を地面に振り下ろした。
「ギャウ」
地面に叩きつけられるレッサーウルフ。
意識を失ったレッサーウルフの頭部は、短刀の一振りによって両断された。
【Lv.1→2に上昇しました。《技点:117》を獲得しました。現在の《保有技点》は141です】
「いやぁ強いねアレン……ヘザー何もする事なかったけど」
ヘザーはポカンとした様子で魔石を収納する僕を見つめる。
魔物の襲撃に対して即座に戦闘体制に入るヘザーだが、全ての戦闘がクロスボウを構える前に終わっていた。
レッサーウルフの奇襲にはヒヤヒヤしたものの、正面からぶつかればその差は歴然である。
僕は明確に強くなっているという実感に頬を緩ませ、慢心はいけないと即座に顔を引き締める。
「あ、ヘザーあそこの坂を下れば5階層だよ」
「え、もう?」
迷宮に侵入してから3時間。
最短経路を直進した僕達は、迷宮5階層──目的の水棲種が待つ密林層へと足を踏み入れた。
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