第14話「大鼠討伐I」

 迷宮都市の地下には水路が張り巡らされている。

 主に豪雨の排水が目的であり、一度ひとたび雨が降れば、雨は迷宮都市上に散乱するゴミと共に地下水路へと流れ込む。

 故に頻繁に雨が降る迷宮都市は、一見綺麗に保たれているのだが──


「……酷い」


 地下水路に足を踏み入れた僕は、あまりの悪臭に思わず鼻をつまんだ。


 汚物や食べ残し──様々なゴミが下水と共に流れている。

 下水はこの後別段処理される事もなく、更に地下深くへと流れていく。

 そして最終的には最深部に広がる水はけの良い土壌地帯に辿り着き、時間をかけて浸透する。


 まさしく臭い物にふたをする様なやり方だが、現状迷宮都市はそのやり方で成り立っていた。


「……」


 地下水路最深部に広がる光景を想像した僕は、思わず身震いする。

 土壌に吸収されなかったゴミが辺り一面に広がる地獄絵図。

 一年を通して気温変化が少なく、食べ残しがそこら中に広がる地下水路──大鼠にとって恰好の繁殖場所だろう。


 僕は水路脇、定期点検の為に残された小道を道なりに進んでいく。


「いるよね……」


 複数の大鼠の鳴き声が地下水路内で反響する。

 僕は恐る恐る、ギルドから借り受けた長剣を構える。


 三級冒険者に向けた武具防具の貸し出し制度に感謝しながら、僕は大鼠の元へと一足飛びに駆け付け──


「キュー!」

「キュキュキュー!」

「……あ!」


 僕の足音を聞いた大鼠は、一目散に逃げて行く。


「待て!」


 必死にその後を追う僕だが、地の利においても純粋な速度においても大鼠に分があった。

 開いて行く大鼠との距離に、僕は足を止める。


「はぁ……」


 このままじゃいけない。

 僕はひとまずその場に腰をえ、作戦を練る。


 大鼠──迷宮都市地下を主な生息域とする低級の魔物。

 基本的に魔物討伐はLv.制限が掛けられるが、例外的に大鼠討伐にはLv.制限が掛からない。


 その理由として、魔物は基本的に一度ひとたび冒険者を見れば襲い掛かるのに対し、大鼠は

 空腹時を除き、大鼠は冒険者を見るや否や生存本能にのっとりその場から逃げて行く。


 故に駆け出しでも危険性は少なく、Lv.制限が掛からない。


=================


【名前:アレン・フォージャー】Lv.1


 武術:B+(0/180)

 魔法:F− (0/51)

 防御:G+(0/28)

 敏捷:F (0/52)

 器用:G+(0/30)

 反応:F+ (0/60)

 幸運:G+(0/36)

 経験値:0/50

 保有技点:37


=================


「うーん……」


 僕は自身のステータスを脳内に思い浮かべながら葛藤する。

 基本的に一体あたり銅貨一枚が獲得可能な大鼠討伐。

 攻撃性が低い事もあり、比較的駆け出し冒険者に好まれる依頼だが、《敏捷》が低い状態では討伐の難度は跳ね上がる。

 そしてある程度まで《敏捷》が育った頃には、一体銅貨一枚という報酬の低さから依頼を受ける事自体が無くなる。


 つまるところ──大鼠の駆除依頼は、緊急性の割に人気が無い。


 僕は迷宮都市を訪れた当時の事を振り返る。

 迷宮都市を未曾有の大豪雨が襲ったあの日──浸透が追い付かなかった地下水が逆流し、迷宮都市上に溢れ出した。

 そしてそれと同時に地下に引きこもっていた大鼠も地上に大量出没し、迷宮都市は大混乱に陥った。


「あの時は大変だったな……」


 冒険者総出で大鼠掃討に挑んだ事を思い出した僕は、遠い目で天井を仰ぐ。


 それからと言うもの、地下に巣食う大鼠を間引く為、一定期間毎に報酬を大きく増やした【共通依頼】が貼り出される──との事をギルド嬢から教わった。


「どうしよう……」


 僕は小道に座り込み、自身の冒険者像ビルドに関して再考する。


 大鼠討伐で重要な点は、《敏捷》と隠密性である。

 しかしながら隠密性に関して、鼻が利く大鼠相手にバレずに近付くのは至難の業である。


 ならば《敏捷》を上げて、逃げる大鼠を仕留めるしか無い。

 大鼠に関して言えば、《武術》は無振りでも問題なく倒せる筈──ならばで問題ない。


 僕は近くに誰もいない事を念入りに確認すると、地下水路の小道に《伝説の剣》を召喚する。



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《プレイヤー:アレン・フォージャー》を初期化しますか? 


▷はい 

 いいえ


=================



【《プレイヤー:アレン・フォージャー》の初期化に成功しました】

 ・

 ・

 ・

 ・

【【スキル:収納】──[重量]level.9→MAXに上昇しました。現在の《保有技点》は1467です】


【現在の《保有技点》は1467です。敏捷に《技点》を割り振りますか? ▷はい いいえ】

【敏捷:F→F+に上昇しました。現在の《保有技点》は1415です】


【現在の《保有技点》は1415です。敏捷に《技点》を割り振りますか? ▷はい いいえ】

【敏捷:F+→Eに上昇しました。現在の《保有技点》は1350です】

 ・

 ・

 ・

 ・

【現在の《保有技点》は362です。敏捷に《技点》を割り振りますか? ▷はい いいえ】

【敏捷:C+→B−に上昇しました。現在の《保有技点》は180です】



=================


【名前:アレン・フォージャー】Lv.1


 武術: F+(0/50)

 魔法:F− (0/51)

 防御:G+(0/28)

 敏捷:F (0/52)→B−(0/195)

 器用:G+(0/30)

 反応:F+ (0/60)

 幸運:G+(0/36)

 経験値:0/50

 保有技点:180


=================


 《敏捷:B−》──《武術》が極振りでB+まで伸びた事を考えれば、成長効率は《敏捷》の方が少し劣る。

 しかしながら《敏捷:B−》といえば二級冒険者の中でも最上位。一級冒険者にも引けを取らない。


「よーし!」


 僕は《伝説の剣》を収納すると、小手調べとばかりに両手を小道に付け、利き足に力を込める。


 先程僕が仕留め損なった大鼠かどうかは不明だが、遠くから再び大鼠の鳴き声が聞こえる。


(よーい……ドン)


 小さな声でそう呟いた僕は、大鼠の方角向けて爆発的なスタートを切った。


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