第12話「《鍛治師》ヘザー」
【現在の《保有技点》は1647です。【スキル:収納】──[重量]に《技点》を割り振りますか? ▷はい いいえ】
【【スキル:収納】──[重量]level.9→MAXに上昇しました。現在の《保有技点》は1467です】
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【現在の《保有技点》は207です。武術に《技点》を割り振りますか? ▷はい いいえ】
【武術:B→B+に上昇しました。現在の《保有技点》は37です】
「これでよし……と」
《伝説の剣》を収納する為、僕は【収納】──[重量]のlevel.をひとまず最大にする。
そして残った《技点》を先程同様、全て《武術》に注ぎ込む。
=================
【名前:アレン・フォージャー】Lv.1
武術:F+(0/50)→B+(0/180)
魔法:F− (0/51)
防御:G+(0/28)
敏捷:F (0/52)
器用:G+(0/30)
反応:F+ (0/60)
幸運:G+(0/36)
経験値:0/50
保有技点:37
《所有技》
【収納】
┃
┣〔体積〕level.1(0/20)
┃
┣〔重量〕level.1→MAX(180/180)
┃
┗〔時間〕level.1(0/50)
=================
《武術:B+》──流石に《武術:S》に比べれば見劣りするが、《武術》だけを見れば一級冒険者と呼んで差し支えがない。
早速依頼を受けに行こう──窓の外にチラリと目を向けた僕は、既に陽が落ちかけている事に気付く。
「流石に今日は諦めるか……」
所持金は既に底を突きかけている。
夕飯抜きによる空腹を誤魔化す為、僕は早めに床に就いた。
早朝──陽が昇ると同時に、僕は起き上がる。
「よし……行くか!」
手早く身支度を整えた僕は、意気揚々と部屋の戸を開け──
「──あ」
急激なステータスの変化に対応しきれていなかった僕は、勢いそのまま部屋の開き戸を破壊した。
「申し訳ございません! 今は持ち合わせが無いのですが、必ず弁償致します!」
「……」
廊下に転がる歪んだ木製の扉に、ひしゃげた鉄の
必死に謝る僕に対して、宿主は恐怖に引きつった顔を向ける。
返せる時に返せば良いですよ──宿主の好意に甘えた僕は宿を抜け、ギルドへと足を向ける。
ひとまずギルドで手頃な依頼を受けてみるつもりだった。
「──ゴブリン討伐みたいな依頼残ってるといいなぁ」
迷宮低階層で達成可能な依頼であれば好都合──駆け足気味にギルドへと向かう僕だったが、ふと大きな問題に気付く。
「あれ……もしかして武器が無い……?」
僕は現在【収納】している物を脳内で検索する。
銅貨一枚に《伝説の剣》。いや、確かに《伝説の剣》は持っているのだが、現状戦闘用に使える武器が無い。
「短剣どこ行ったんだろ……」
長期遠征で
迷宮都市で数える程しかいない友人の一人──《鍛治師》のヘザーが
「どこかで落としたのかな……」
僕は必死に短剣の
「おーアレンじゃん!」
清々しい程に陽気な声が僕を後ろから呼び止める。
迷宮都市で僕をアレンと呼ぶ者はそう多くない。
僕はその場を振り返る。
「やあ、ヘザー」
「やーやー奇遇だねアレン」
太陽を透かした様な赤橙色の髪。口元から覗かせる八重歯。小さい体躯に似合わぬ豊満な双丘。
【クラン:鉄火】所属──ヘザー・ファニングは僕に無邪気な笑顔を向ける。
「アレンってさ、【朱雀】追放されたって聞いたけどホント?」
そこを聞くのか──痛い所を突かれた僕は、不承不承ながらも首を縦に振る。
「じゃあ今ソロって事?」
「まあ……そうだね」
「じゃあさ、明日以降不定期だけどヘザーとパーティー組んでくれない?」
「え?」
ヘザーからのまさかの誘いに、僕は当惑する。
《鍛治師》──ヘザー・ファニング。
腕利きの鍛治師が集う【クラン:鉄火】に所属しながら、鍛治をするよりも迷宮に潜る事の方が多い変わり者。
当人いわく、
「──地道に修行重ねて鍛治の腕上げるより、《器用》上げた方が効率良くない?」
との事で、魔物との戦闘で獲得した《技点》を全て《器用》に割り振る数少ない極降り冒険者。
正直いつ死んでもおかしくない──僕はそう思っている。
実際【鉄火】のメンバーはヘザーの迷宮行きを毎度必死に止めているとの事だ。本人は全く聞く耳を持たないそうだが……
僕はヘザーからの誘いを受けるべきか考え──
「ごめんヘザー。その誘いに答える前に一つ謝りたい事があるんだ」
「うん?」
「ヘザーが僕の為に打ってくれた短剣を無くしてしまった」
ヘザーは僕の言葉に対して「ほう」と一言返すと、何か思案する様に下顎に手を当てる。
「それは残念だあ。嗚呼……せっかくヘザーが丹精込めて鍛造した短剣を無くしてしまうなんて……」
ヘザーはやけに芝居じみた動きでそう言うと、チラと僕を横目に見る。
「これはヘザーとパーティー組んでくれなければ許せないなぁ……あ、組んでくれれば剣一本くらいならサービスで見繕ってあげるよ」
小悪魔じみた笑顔を浮かべるヘザーに僕は苦笑する。
そんな事しなくても僕がヘザーとパーティーを組む事を断る理由がない。
僕は心の中で深くヘザーに感謝する。
「じゃあ宜しくねヘザー」
「よろしく!」
こうして僕は不定期でヘザーとパーティーを組む事に決まった。
「じゃあ早速明日の朝6時、聖剣前……まあもう聖剣ないから石の祭壇前か、集合で!」
「了解」
僕が了承したのを確認すると、ヘザーは片手を上げその場を走り去っていく。
僕はその小動物を想起させる後ろ姿を見届けながら考える。
結局今日使う武器どうしよう──と。
◇ side:《鍛治師》ヘザー
【クラン:鉄火】──
「──おいこらヘザー」
「ひっ!」
【鉄火】クランマスターにして皆の姉貴分──ミランダに見咎められたヘザーは身を固くする。
「真夜中に抜け出して、朝早くに帰って来ればバレないとでも思ったか?」
「うぅ……ごめんなさい」
「お前なぁ。もう迷宮行くのは止めないから、せめていつ行くか、いつ帰って来るかくらい事前に伝えろ。心配するだろうが」
ガリガリと頭をかきながらそうボヤくミランダに対して、ヘザーはペコペコ頭を下げる。
「ああそうだ。ヘザー、お前に客が来てるぞ」
「はーい」
怒られっぱなしのヘザーだが、鍛治の腕は確かだった。
どの客だろうか──数多い固定客の顔を思い浮かべながら、ヘザーは応接間の戸を開ける。
「お前がヘザー・ファニングか?」
「……そうですけど」
開口一番──横柄な態度で接して来る冒険者に、ヘザーは険のある声で答える。
「私は【クラン:朱雀】所属。《副軍第一軍》──副軍長のベイドだ」
【朱雀】の《副軍第一軍》。
ヘザーは銀髪蒼眼の少女──親友であるルル・ソルレットの顔を思い浮かべる。
今から約三年前──調子に乗って迷宮で死に掛けていた所をアレンとルルによって助けられた思い出が
「この短剣に見覚えはあるか?」
ベイドは一振りの短剣を木製のテーブルに取り出すと、ヘザーの前に滑らせる。
「……!」
ヘザー・ファニング──短剣の持ち手にはそう刻まれている。
(これは……アレンに渡した短剣……)
ヘザーは一目見ただけでアレンの為に打った短剣である事を見抜く。
「聖剣広場にある石の祭壇。その周囲にある草むらからこの短剣は発見された。食いかけの食糧と空の
「……」
「【朱雀】ではこの短剣の持ち主が《伝説の剣》を抜いた人物と見ている」
ベイドのその言葉にヘザーは困惑する。
その推理が正しければ《伝説の剣》はアレンが所持している事になる。
「……へーそうなんですね。ヘザーはおたくのクランマスターさんが所持してるって噂を聞いたんですけど」
「残念ながら、ガレウス様は今は所持されていない」
「今は……?」
ヘザーの疑問にベイドは口の端を歪ませる。
「《伝説の剣》は英雄の素質を持つ者にしか抜けない筈だ。なのにどういう訳かガレウス様ではない下賤の
「は……?」
「これが指し示す事実。それは《伝説の剣》が神格化される価値のないガラクタであったか、それとも手違いがあったかだ」
ベイドは不敵な笑みを浮かべる。
「手違いがあったならば早急に《伝説の剣》をガレウス様の元へと取り戻さなければならない。という訳でこの短剣の持ち主について、知っている事があれば教えろ」
ヘザーは心の中で嘆息する。
「残念ながらヘザーには心当たりが有りませんね。幸運な事にヘザーに付いて下さるお客様は沢山いらっしゃるので、短剣一つ見せられてもあげた相手なんて到底分かりません」
「チッ……」
ベイドは舌打ち一つその場を立ち上がる。
「もし思い出したならば【朱雀】に伝えに来い。黙っていた場合は──覚悟しろよ」
どうして脅迫されなくてはならないのか。
苛立たしげに応接室を出て行くベイドを尻目に、ヘザーはベーと舌を出した。
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