第11話「《初期化》」
三週間後には【朱雀】を脱退したルルと僕で、《予備軍》時代ぶりにパーティーが結成される。
「懐かしいなぁ……」
僕はまだ右も左も分からなかった《予備軍》時代を懐古する。
あの頃のルルは【光魔法】のスキルを主軸に攻魔術師と回復術師の役割を果たしていた。
《副軍》に加わってからは中層の未踏破地域──暗所を照らし続ける
正直【朱雀】の横槍が入らなければ《伝説の剣》の話しかり、ルルと話したい事はまだ沢山あった。
それでもルルの無事が確認できただけで、僕は満足だった。
僕は足取り軽く、事前に目星を付けていた一軒の宿へと訪れる。
「……何泊されるおつもりで?」
「ひとまず三泊でお願いします」
いつまでも理想的な条件の宿を追い続けても仕方がない。
安全性を諦めた僕は、ギルド近くにある一軒の宿をひとまずの居住地点と定めた。
「銅貨9枚。前払いで頼みますよ」
手ぶらで宿屋に訪れた僕が怪しく見えたのか、宿主は
「銀貨でお願いします」
「……はいよ。お釣りの銅貨一枚ね」
宿主は、お釣りに加えて部屋の番号が刻まれた鍵を僕に手渡すと、そのまま奥に引っ込む。
部屋が一階にある事を確認した僕は、薄暗い廊下へと足を向けた。
「大丈夫……だよね?」
安宿の一室。戸締まりと床の強度を確かめた僕は、慎重に《伝説の剣》を召喚する。
「……良かった」
流石に一階の部屋だけあって床が抜けるという惨事は防ぐ事が出来た。
僕は威風堂々たる風格の黒剣をまじまじと見つめる。
三週間後にルルとパーティーを組む事になった以上、《初期化》後はLv.制限のない依頼を受けて当座の資金を稼ぐ。
ルルと別れてから宿を取るまでにそう決断した僕は、恐る恐る《伝説の剣》に手を伸ばす。
指先がヒヤリとした剣身に触れる。
僕の胸は、期待感に早鐘を打っていた。
「ふぅ……」
僕は大きく息を吐き、慎重に魔力を流し込んだ。
=================
《プレイヤー:アレン・フォージャー》を初期化しますか?
▷はい
いいえ
《注意》
Lv.1になります。
ステータスがLv.1の状態に戻ります。
《所有技》が全てlevel.1になります。
経験値が0にリセットされます。
既に振った《技点》が全て《保有技点》に変換され、プレイヤーの初期化後に加算されます。
=================
僕の脳内に、あの夜以来となる一つの画面が表示される。
僕は再度注意書きを読み返し、把握漏れや記憶違いがない事を確認し──
「──行くか……!」
期待と不安を胸に、僕は意を決して【▷はい】を選択した。
【《プレイヤー:アレン・フォージャー》の初期化に成功しました】
=================
【名前:アレン・フォージャー】Lv.21→Lv.1
武術:E(6/70)→F+(0/50)
魔法:F− (0/51)
防御:F(23/56)→G+(0/28)
敏捷:F+(0/65)→F(0/52)
器用:G+(0/30)
反応:F+ (0/60)
幸運:G+(0/36)
経験値:12/1917→0/50
保有技点:146→2367
《所有技》
【収納】
┃
┣〔体積〕level.8→1(0/20)
┃
┣〔重量〕level.MAX→1(0/20)
┃
┗〔時間〕level.5→1(0/50)
=================
僕のステータスはLv.1──冒険者を目指して故郷を飛び出した駆け出し時代へと巻き戻る。
《武術》も、《防御》も、《敏捷》も、【収納】のlevelさえもリセットされた。ただ──
「……ははは」
僕は口角が上がっていくのを抑えられない。
殆どのステータスがリセットされる中で、《保有技点》だけが2367と見た事もない数に増えて──いや、変換されていた。
「よし……よし!」
僕は宿の中でひとしきり喜びを爆発させると、木製のベッドへ仰向けに倒れ込む。
「……さてと」
早速有り余る《保有技点》の振り先を──理想的な
「……そういえば《伝説の剣》の効果って何回も使えるのかな?」
特殊効果──《初期化》。
ステータスを振り直せる事があまりにも衝撃的で、今に至るまで疑問が及ばなかった。
僕はもう一度床に横たわる《伝説の剣》に触れ、魔力を流し込む。
=================
《プレイヤー:アレン・フォージャー》を初期化しますか?
▷はい
いいえ
《注意》
・
・
・
=================
一度発動した後も、魔力さえあれば何度も《特殊効果》を使う事ができる。
複数回にわたる検証でその事を確認した僕は、思わぬ副次効果に頬を緩める。
これならば状況に応じて
仮に《技点》を振り間違えても、振り直す事ができる。
その事実に肩の力が抜けた僕は、試しとばかりに全ての《保有技点》を《武術》に振る事にした。
【現在の《保有技点》は2367です。武術に《技点》を割り振りますか? ▷はい いいえ】
【武術:F+→E−に上昇しました。現在の《保有技点》は2317です】
【現在の《保有技点》は2317です。武術に《技点》を割り振りますか? ▷はい いいえ】
【武術:E−→Eに上昇しました。現在の《保有技点》は2257です】
【現在の《保有技点》は2257です。武術に技点を割り振りますか? ▷はい いいえ】
【武術:E→E+に上昇しました。現在の《保有技点》は2187です】
・
・
・
・
・
【現在の《保有技点》は567です。武術に《技点》を割り振りますか? ▷はい いいえ】
【武術:A+→S−に上昇しました。現在の《保有技点》は367です】
【現在の《保有技点》は367です。武術に《技点》を割り振りますか? ▷はい いいえ】
【武術:S−→Sに上昇しました。現在の《保有技点》は57です】
=================
【名前:アレン・フォージャー】Lv.1
武術:F+(0/50)→S(0/220)
魔法:F− (0/51)
防御:G+(0/28)
敏捷:F (0/52)
器用:G+(0/30)
反応:F+ (0/60)
幸運:G+(0/36)
経験値:0/50
保有技点:57
=================
「ははは……」
《武術:S》──規格外のステータスに僕はもう笑うしかない。
現状、僕が知る限りでも《武術》がS帯に到達しているのは【覇天】のシルヴァに【朱雀】のガレウスくらいだ。
《武術》だけの一点特化。
《技点》の振り先に迷う駆け出し冒険者なら誰しもが一度は考え、実行した者から死んでいく極振り
ロマンと無謀を履き違えた極振り冒険者は迷宮によって淘汰され、今や大きく数を減らした。
しかし──しかしながら。
《武術》だけならガレウスと比肩し得るという事実に、僕の血が騒ぎ始める。
「試しにこの
流石に迷宮一階層で有れば、《武術》極振りでも即死に繋がる事は少ない。
実際に《主軍》として迷宮に潜っていた僕は、【収納】極振りに近い状態だったにも
今すぐにでも新しい
「あ……」
【《警告》──規定重量を超過しました。これ以上収納する事は出来ません】
【収納】のlevel.がリセットされている事を完全に忘れていた事に消沈した。
「振り直すしかないか……」
流石に《伝説の剣》を宿に置いたまま出歩く訳にはいかない。
《初期化》の為にと再び《伝説の剣》に手を伸ばした僕は、ふと首を傾げる。
「あれ……?」
それはちょっとした違和感だった。
ベッドと並行になる様に召喚した《伝説の剣》。
「動いてる……?」
僕は剣の向きが召喚時と比べて少しズレている事に気付いた。
異次元の質量を持つ《伝説の剣》。
持ち上げる事はもとよりズラす事すら不可能な筈だが──
「──もしかして」
一つの仮説に思い至った僕は、《伝説の剣》を持つ手に力を入れる。
「……え!?」
《武術》をSまで上げた事により、僕の腕力は飛躍的に向上していた。
あまりの重さに耐えきれず手から滑り落ちた《伝説の剣》が鈍い音を立てる。
「……」
僕は目を閉じ、その場で思索に耽る。
《武術:S》でようやく僅かに持ち上げる事が可能になった《伝説の剣》。
僕がこの剣を武器として扱える様になるには、《武術:S+》──いや、現状まだ一人しか到達した者が居ない《SS帯》のステータスが求められるかもしれない。
それでも──
「──これだ」
僕は自分の進むべき道を、《伝説の剣》に見出す。
《武術:SS》の聖剣使い──僕が目指すべき
この時、僕はまだ気付いていなかった。
《伝説の剣》がもたらす《特殊効果》──その本質に。
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