第9話「選択」
「ははは……」
口から無意識に笑いが
ステータスの振り直し──それは僕が渇望して止まない、理想的な
あれ程憎んでいたスキル【収納】に対し、僕は初めて感謝する。
「……よし」
ひとしきり歓喜に身を任せていた僕だったが、ふと冷静さを取り戻す。
迷宮を抜け出した時は中天に懸かっていた月は大きく傾き、地平線からは陽の光が漏れ出ている。
このままここに留まっていれば、聖剣広場が大騒ぎになる事は想像に難くない。
僕はひとまず《伝説の剣》を【収納】し、地面に落ちた銀貨を掻き集める。
「……ぐっ」
一歩踏み出す毎に僕の体は悲鳴を上げる。
余りに血を流しすぎたせいか視界の大部分が黒く侵食されていた。
最早気力と
(あそこまで……行ければ……)
聖剣広場の目と鼻の先。
冒険者ギルド──通称【ギルド】であれば、不測の事態に備えて救急の回復術師が常勤している。
僕は最後の力を振り絞ってギルドまで辿り着くと、その場で倒れ込み意識を失った。
◆
「ソロで3日も不眠不休で迷宮に潜るなんて……死にたいんですか貴方は?」
「……すみません」
ギルド──治癒院。
ギルドに勤める回復術師に無謀としか言えない行動をこっ酷く叱られた僕は、平謝りに謝る。
「次同じ無茶をしたら命の保障はないですよ?」
「はい……二度としません」
常日頃から冒険者の無事を祈り、安価で冒険者の治癒を請け負う回復術師には頭が上がらない。
僕は最後まで頭を下げ続け、ギルドの治癒院を後にする。
「さて……これからどうしよう……」
《伝説の剣》の収納に成功してから3日が経過した。
腕の良い回復術師に治癒された事もあり、僕の傷はすっかり完治していた。
ギルドに併設されている酒場に訪れた僕は、席に腰掛けると情報収集とばかりに聞き耳を立てる。
「……で結局、《伝説の剣》は誰が抜いたんだ?」
「それが良く分かんねえんだよな。英雄候補として名高いクラン【覇天】のシルヴァって噂は流れちゃいるんだが」
「へえ、俺は【黎明】のシモンって聞いたけどな」
「いやいや、【朱雀】のガレウスだろ」
「あーもう誰なんだよ! お願いだから名乗り出てくれ!」
誰かが《伝説の剣》を抜いたというニュースは既に迷宮都市内で大きな話題となっていた。
冒険者の間では
ひとまず剣を抜いたのが僕である事がバレている様子はなく、ホッと胸を撫で下ろす。
「さて……これからどうするか」
久しぶりの食事なだけあってエール瓶と共に運ばれたオークの香草焼きにがっつく僕は、今後の行動指針について思案を巡らす。
治癒院での治療代に奮発した昼食代のせいで残りの所持金は銀貨一枚。
【朱雀】を追い出された今、宿を借りるとしたら銀貨一枚では数日しか持たない。
お金稼ぎ──それが僕にとって緊急の課題である事は間違いない。
そして冒険者の僕がお金を稼ぐ手段といったら、ギルドで張り出される依頼を受ける事。
早いところ行動に移らなければ一文なしで野宿生活は避けられないのだが──
「《初期化》……どうしよう」
《伝説の剣》の持ち主が僕だとバレて無さそうな事が判明した以上、僕の脳内を占めているのは剣の《特殊効果》だった。
今まで無駄に振った【収納】への《技点》を望むステータスに振り直せる。
新しい
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《注意》
Lv.1になります
ステータスがLv.1の状態に戻ります
・
・
・
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「Lv.1か……」
剣の《特殊効果》発動に伴う注意事項を思い出した僕は、少し憂鬱な気分になる。
僕の現在のLvは21。レベルで言えば駆け出しはとうに卒業し、二級冒険者として一部で有名になり始めてもおかしくはない。
ただ、実際はといえば【朱雀】の《主軍》メンバーだったにも関わらず、僕の名を知る人は皆無と言って良い。
そう考えている冒険者は少なくない。
「ごちそうさまでした」
昼食を食べ終えた僕は、情報収集を切り上げ席を立ち上がる。
向かう先は多数の冒険者がひしめく、依頼が貼り付けられた掲示板。
《主軍》に所属していた頃はギルドを通さずとも、【朱雀】自体に日夜依頼が舞い込んでいた。
ただ、ギルドを追放されソロになったからには当然自分で依頼を探さなくてはならない──が、
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《依頼内容》
先着依頼
迷宮3〜5階層
森林層に自生する薄明草の採取
《条件》
Lv.5〜
《報酬》
銀貨5枚
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「Lv.5以上……まあそうだよね」
基本的にギルド内で受けられる依頼にはLv.による条件が存在する。
依頼を受けるにはギルド内にある鑑定石に魔力を流し、自身のLv.を明らかにする必要がある。
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《依頼内容》
共通依頼
迷宮都市地下水路に巣食う大鼠の討伐
《条件》
なし
《報酬》
一匹あたり銅貨1枚
討伐証明は大鼠の魔石を参照
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だからと言ってLv.1で受けられる依頼の報酬は、一泊分の宿代になるかどうかも怪しい。
その方が明らかに合理的だとは分かっているのだが──
「──うん。取り敢えず《初期化》してから考えよう」
僕は《初期化》の魅力に
例え野宿をする羽目になろうとも関係ない。
それに最悪、冒険者同士で新たにパーティーを組めさえすれば、Lv.条件はパーティーメンバーの平均Lv.が参照される。
果たしてLv.1の僕と組んでくれる人がいるかどうかは不明だが──
「……うん。何とかなる」
僕は楽観を決め込んだ。
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