第5話「クラン追放」
【朱雀】本館──会議堂。
クランマスターのガレウスを筆頭に、《主軍》《副軍》のメンバー全員が一堂に会している。
月に一度、【クラン】の指針を定める定例会議は、
「──という訳で最後の
《経理長》のドルゲスはドロップアイテムの処置に関してそう結論付けると、壇上から降り、ガレウスに何やら耳打ちをする。
ガレウスは
「【朱雀】長期遠征の成果報告並びに収支報告はこれで終わりだ。次は《軍》の編成について、異動──いや“左遷”報告がある」
左遷──つまりは降軍の報告。
一人を除いた《主軍》の面々が泰然と構える中、僕は《魔法袋》の効果を聞いた時から、既に動揺が隠せなかった。
「アレン……」
半円状の会議堂──横に座っていたルルが僕の手をギュッと握る。
これから告げられるであろう内容に、ルルも胸騒ぎを覚えている様だった。
僕は祈る様な気持ちでガレウスの一挙一動を見守る。
「今回の《魔法袋》獲得により、《主軍》において
《副軍》の一部メンバーから安堵の吐息が漏れる。
対照的に僕は死刑宣告をされた囚人の様な、絶望的な面持ちを浮かべる。
降軍ですらない、【クラン】からの追放。
「そんな……」
僕は掠れた声を漏らす。
【朱雀】に入ってから三年間。運にも恵まれたが半年の《予備軍》経験を経て、異例の《主軍》への昇進。
パーティー内では常に
走馬灯の様に【朱雀】での辛い思い出が
(これで
そう思えたらどれだけ楽だったろうか。
アレンが抱いた感情は──屈辱感と圧倒的な喪失感だった。
「《主軍》の空き枠には、《副軍第一軍軍長》──ドルゲス・ベンジャー。お前が入れ」
「はは。ありがたき幸せ」
ドルゲスは心底感激した様に体を震わせる。
肥えた体躯を半分に折り曲げ、ガレウスに対して謝意を示した。
「……」
とうの僕はそれから一言も発する事が出来ず、その場に座り込む。
ガレウスを含む《主軍》の面々、そしてドルゲスから、容赦ない嘲笑、侮蔑の視線が向けられていた。
(もう……いいや)
この状況に耐え切れなくなった僕が会議堂からの退出を試みようとした、その時──
「──お、恐れながらガレウス様。こ、今回の決定に関して異議を申し立てます」
僕の横に並んでいた、銀の長髪に澄んだ湖面を想起させる蒼眼の少女。
ルルはその
「──あ?」
「アレンの追放処置に関して、再考を求めます」
「も、申し訳ございませんガレウス様。今すぐこいつを黙らせます」
自らが《軍長》を務めるパーティーメンバーの思いがけない
ルルの元まで、その肥満体を揺らして一直線に向かうドルゲス。
「おい
「すみません《軍長》。どうしてもここだけは折れる事が出来ません」
「愚か者!!」
怒り心頭に発したドルゲスは無理やりルルの頭部を鷲掴むと、勢いそのまま地面に押し倒す。
「ルル!」
「……来ないで」
ルルを守るべく衝動的に立ち上がった僕は、その一言に動きを止める。
アレンの立場がこれ以上悪くなってはいけない。
ルルの目にはアレンを巻き込むまいとする断固とした意志が宿っていた。
「この度は非礼の数々、誠に申し訳ございません。ひとえに《軍長》の私の不徳の致すところです」
ドルゲスはルルの頭を無理やり下げさせると同時に自らも頭を下げる。
ドルゲスにルルを庇う気持ちなど一切存在しなかった。
ガレウスの逆鱗に触れない。その事だけを目的としたドルゲスの謝罪は、結果的に取り返しのつかない墓穴を掘った。
「お前の不徳の致すところ──言ったな?」
「は、はい」
ドルゲスはしきりに流れ落ちる冷や汗を片手の甲で拭う。
その顔色は既に赤を通り越して青ざめていた。
「《主軍》の空き枠にドルゲスを登用すると言ったが、訂正だ。
思い掛けない事態にただ呆然とした様子のドルゲスに対し、会議堂が
もしかすれば自分にも《主軍》昇格のチャンスが──その場にいる多くの戦闘員が想像を膨らませていた。
「他に何か伝達事項のある奴はいるか? いないなら定例会議はこれで
半円状の会議堂を見回し、発言を求める人が居ないと判断したガレウスが壇上を降りる。
「──待ってください!」
なんとかドルゲスの手から逃れ、ルルはガレウスの前へと立ち塞がる。
「どうか、アレンの……アレン・フォージャーの追放だけはお許しを……!」
「こいつを黙らせろ」
ガレウスはそう一言、その場を立ち去る。一考する素振りすら見せなかった。
ガレウスの冷酷な命令に対し、会議堂に集う多くの戦闘員がルルを取り押さえる。
皆が《主軍》昇格を目指し、自らの有用性を示すべく躍起になっていた。
「あーあ、つまんない。ガレウスも少しくらい話聞いてあげればいいのに」
「残念ながらガレウスにとってアレンの追放は既に決定事項。元から他人に意見を左右される様な
行儀悪く足を投げ出して事態を見物していた狩人のルワンに対して、回復術師のシエラが返答する。
「でもまあ、これで荷物持ちしか脳がない無能を弾き出せた訳だし。今年中に下層まで行けるかもしれないね」
「どうでしょうね。ただ、少なくとも飛躍の年になる事は間違いないでしょう」
吹きさらしの窓の外を見ると、既に日は落ち月光が会議堂に差し込んでいた。
「【朱雀】の行く末に幸あらん事を」
シエラは、一人そう呟くと口元に微笑を
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