四
須藤から呼び出され近所のショッピングモールへ行ったのはその次の日の午後のことだった。夏休みの宿題をやろうとのことだ。自転車に乗り、急いでショッピングモールに向かった。今日は朝から雨が降ったり止んだりしており、いつもより涼しかった。須藤は一階の駐輪場で待っていた。
「急に誘って悪いな。それで、宿題はどこまで終わった?」
「全くもって終わっていない。何で学校はこんなに馬鹿げた量の宿題を出すんだろうな」
「そうだよな。貴重な夏休みにこんなことさせるなんてやってられないよな。お前にいいことを教えてやる。もうすでに宿題を終わらせた奴がいるんだが、そいつから宿題の問題集を借りてきた。写すぞ」
「それは本当か? ありがたいな。しかしもう宿題を終わらせている奴なんているんだな」
「隣のクラスのやつだよ。お前も顔は知っているはず。まあ、早速やってしまおう」
俺たちはショッピングモールの二階にあるフードコートへ向かうことにした。エスカレーターで二階へ上がると。後ろから声を掛けられた。
「やっぱり砂川くんじゃん。奇遇だね」
「佐竹さん? どうしたの?」
振り返ると佐竹が大きな目を丸くしていた。佐竹は隣にいる須藤にもこんにちは、と挨拶をしていた。彼女はカーキ色のシャツワンピースを着ていた。佐竹の隣には一人の女子がいた。その女子は長い黒髪と切長の瞳をした涼しげな顔立ちをしていた。丈の長い白いノースリーブのカットソーとスキニーパンツを身につけていた。背が高くモデルの様に見えた。見ず知らずの男子と親しげに話をする佐竹のことを不思議そうに眺めていた。彼女の視線に気づいた佐竹は紹介するね、と言って隣にいる女子を手で指し示した。
「この子は学校の友達の榊原澪ちゃん。クラスメイトなの。」
紹介された榊原はにこりと微笑むと軽く頭を下げてよろしくお願いします、と言った。そして佐竹は俺の近くに寄り、榊原に紹介した。
「この人はバイト先の同僚の砂川悟くん。同い年だよ」
初めまして、と榊原は言った。俺は隣にいる須藤のことを榊原に紹介した。須藤はどうも、と呟いた。その声は少し震えていた。佐竹は俺や榊原に矢継ぎ早に話をした。話す内容は、今日このショッピングモールにいる理由や、まさか俺とこんなところで会えるとは思ってなかったことだ。とにかく話題が次々と入れ替わり、着いていくのがやっとだった。すると佐竹はそうだ、と手を叩いた。
「フードコートの方行くんだよね。それならせっかくだし、みんなで行こうよ」
それまでずっと黙っていた須藤があのさ、と声を上げた。
「悪いけど、俺はやめておくよ。夏休みの宿題をする為にここに来たし。悟もそれでいいよな?」
須藤の方を見ると困ったような表情を浮かべていた。落ち着かないようで、貧乏ゆすりをしている。明らかに様子がおかしい。須藤に同意した方が良い気がした。
「俺もそうするよ。宿題が本当にやばいし」
須藤を一瞥すると安堵の表情を浮かべていた。
「そうなの。残念」
佐竹は不服そうな顔をしたが、仕方ないね、と言い、榊原とフードコートにあるミックスジュース店に行こうと話をしていた。須藤の方を見ると何かを考えているようだ。時折「なるほどなあ」と唸るように呟いていた。
フードコートへ向かう佐竹達に挨拶をして別れた。別れ際、榊原が足を止めてこちらを振り向いた。須藤さん、と声をかけた。そしてニコリと笑顔を浮かべるとこう言った。
「今日は大丈夫そうですね」
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