十二

「どう言うことですか。大正解って」

 なぜ飯山が大正解って言うのだろうか。今度は俺が面食らった顔してしまった。そんな俺に対して佐竹が話しかけてきた。

「砂川くん、実はね、今日も呼び出したのはその話をするつもりだったの。今日ね、砂川くんがくる前に飯山さんとあの常連さんの話をしてたの。それで、あの男の人は飯山さんのいとこさんなんだって。それで、砂川くんの言う通り、調香師の仕事をしてるんだって」

「飯山さんのいとこ?」

「そう、私のいとこなの。店長には話してたんだけどね。みんなにも言うべきだったわ。ごめんね。彼がやっていることだけど、大体悟くんが言ってくれた通りだよ。」

 そういうと、飯山は詳しい話を教えてくれた。

 飯山のいとこ――名前は吉村というらしい――は化粧品メーカーに調香師として勤務している。彼は昔から鼻が効くため、それを仕事に活かしたいと考えていたのだ。調香師には当然は鋭い嗅覚や嗅いだ香りを記憶する能力も必要になる。そのため常日頃から匂いを嗅ぐ訓練をしたいと思っていた。そんな時、飯山と親戚の法事で会い、その話をした。そこで飯山から、バイト先のカフェでコーヒーの匂いを確認する練習をすることを提案したらしい。それは七月二日のことだ。そうして彼は仕事が早く終わった時、うちの店に行きコーヒーの匂いを嗅ぐ練習をするようになったのだ。

「なんだ、そういうことだったのか」

 つい心の声が漏れ出てしまった。

「ごめんね。一昨日も二人で話ししてたんでしょ。そこまで気にすることだとは思ってなかったの。」

 飯山が申し訳なさそうに言ってきた。

「いや、全然大丈夫ですよ」

「私も気にしてないですよ。むしろ楽しかったです。何だか探偵みたいで。私、ミステリ好きなので」

 佐竹はにっこりと笑いながらそう言った。


 話も一段落ついたため、店を出てロータリーに向かって歩いた。飯山と佐竹は話をしながら俺の前を歩いていた。そしてロータリーに着くと、解散になった。飯山は帰り際に本当にごめんね、と言って電車に乗るためにM駅へ行った。佐竹もバス乗り場の方を向いたが、振り返って笑顔を浮かべてこう言った。

「とりあえず一件落着だね。それにしても砂川くん、本当に探偵さんみたいだね。なんだかかっこよかったよ。じゃ、また次のシフトで」

 彼女はバイバイ、と手を振ってからバス乗り場へ向かって行った。


 帰る途中、ふと須藤の「佐竹のことをどう思っているのか」という質問を思い出した。その質問に対して俺は別に何も思っていないと答えていた。だが、俺はその答えが間違っていることに気づいた。俺は何か佐竹に対して特別な感情を抱いている。そんな気がした。

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