六
例の常連客は慣れた足取りで店内を歩き、空いている方のテーブルに座った。鞄を隣の椅子に置いて、中からノートとハンカチを取り出していた。佐竹が常連客の元へ行き水を出した。そして注文を取ると、こちらに意味ありげな視線を送ってきた。
「やっぱりコーヒーが二杯だよ。それもいつも通りシングルオリジンコーヒー。そんなにコーヒーが好きなのかな。それにあのハンカチはなんだろうね」
「なんだろうね。まあとりあえず、コーヒー入れるね」
俺はそういってコーヒーを淹れる準備を始めた。先にカップを2つ用意して、温めるためにお湯を入れる。戸棚から二種類の豆を取り出す。今日注文したのはブラジルのエスプレッソレディーとコロンビアのサンドライコロナだ。それぞれの豆をコーヒーミルで挽く。ドリッパーとサーバーを二つずつ用意し、それぞれにペーパーフィルターをつける。フィルターの中にコーヒーを入れて全体にお湯をゆっくりと少量かける。蒸らしと言う工程らしい。こうすることでコーヒーが美味しくなると店長から聞いた。そして小さいひらがなの「の」を描くようにゆっくりとお湯を注ぐ。コーヒーの香りが漂う。コーヒーの匂いなどどれも一緒だと思っていたが、コーヒーをたくさん淹れるようになって違いがわかってきたような気がしてきた。そうして二種類のコーヒーを用意すると、佐竹が常連の元まで運んでくれた。後片付けをしている時にふと常連の男性の方を見てみると、カップを持ち上げると、鼻の方へ寄せ香りを嗅いでいた。そして一口コーヒーを飲むとノートに何かを書き始めた。一体何のメモを取っているのだろうか。カウンターに戻ってきていた佐竹は訝しげに眺めていた。
時計は十七時四十分を指していた。もうすぐ閉店の時間だ。俺たちは閉店の準備を始めた。そんな店員の動きを察知したのか、テーブルに座っていた二人の客も帰り支度を始めていた。会計を済ませ、俺は扉ににカーテンをかけ、営業終了のふだをかけた。
閉店作業が終わり、店長に報告をした。すると店長から、佐竹が帰るの待っててほしいと言っていた、と伝えられた。何か用事があるのだろうか。店長にわかりました、といった後店の扉を開けて、駐輪場へ向かった。
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