真夏の刺すような日差しの中、俺は自転車でアルバイトに向かっている。午後の燃える様な暑さから逃れるようにペダルを踏み込む。自転車を漕ぎ続けてるとゆったりとした坂道に差し掛かった。この坂道を下っていくと、H電鉄のM駅が見えてくる。M駅は俺の住むM市の中心になる駅だ。中心になる駅、とはいっても、ホームが二面二線のこじんまりとした駅だ。駅の周りこそ居酒屋や飲食店があり賑わっているが、少し離れると静かな住宅街になっている。M駅の近くにある通りにバイト先のカフェがある。この通りは東通りと呼ばれており、最近新しい店がよくできている。この前も有名なお菓子屋の系列店ができたらしく、時折行列ができている。近隣の住宅街に住まう主婦をターゲットにしているのだろうか、この通りにはカフェや晩御飯のおかずになる惣菜店などが多い気がする。


 俺が住んでいるM市は所謂ベッドタウンだ。電車に三十分も乗れば、日本でも有数の大都市であるO市に着く。すぐに大都市へ出られる位置にありながら、自然に囲まれたこの町はゆったりとした時間が流れている。道を歩けば野良猫がうろつき、時々山からサルやらイノシシやらが降りてくる。そんな自然豊かというより田舎といった方が良い町だ。都会のコンクリートジャングルで日々働くビジネスマン達からすれば休日はこのような場所で過ごしたくなるものだろうか。


 そんなことを考えていると駅の北側にあるロータリーに着いた。このロータリーにはバス乗り場がある。自転車のスピードを緩めて左折し、東通りに入る。この通りは歩行者専用となる為、自転車から降りた。歩いていると、一階を内装工事している雑居ビルがあった。また新しい店ができるのだろうか。通りの中頃に差し掛かると、左手に三階建の雑居ビルが見えてきた。一階にある駐輪場に自転車を置き、階段で二階に上がる。するといくつかの飲食店がある。そのうちの一つ、向かって右から二番目の店がバイト先のカフェだ。俺がバイトをしているカフェ――Cafe Graceは三人掛けのカウンターと四人掛けテーブルが三つあるほどの小さなカフェだ。店内はオーナーがニューヨーク住んでいた時に通っていたカフェをイメージしているらしい。壁はレンガばりになっており、モノクロのアートパネルが掛けられている。カバーがついたペンダントライトと黒色のシーリングファンが洒落た雰囲気を醸し出している。店内は、入り口の扉を入って左側にレジとカウンターがあり、その奥にテーブルが三つ並んでいる。テーブルやイスはオーナーこだわりの品らしい。照明が暗めにしてあるため、落ち着いてコーヒーや軽食を楽しめる空間になっている。

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