§5-4. イチャつきはディナーとともに
昼食を終えて、さてお開きか――と思いきや、決してそんなことはなかった。車に乗り込むや今度は『お買い物に付き合って欲しいんだよねー』と
ある意味お決まりの流れだが何の買い物かを知らされないままに向かった先は、
何のことは無い、お母さまふたりの買い物に付き合えということらしい。
当然だが、困る。
自分の母親がするその手の買い物すら然程付き合ったことのない男子高校生が、何故そのような高度なショッピングに付き合えるのだろう。そう考えたって何の不思議は無い。
そのはずだったのだが、どうやら愛花さんも
事あるごとに「コレなんかどーお?」などと俺に訊き、俺が曖昧な反応を繰り返すだけなのだが「そっかそっかー」と満足そうにしている。
いくつかはお買い上げの商品に格上げされたらしいが、何を基準にしたのやら。俺には全くわからなかった。
それが終わると今度はマナちゃんとまみちゃんの方にお付き合いすることになった。それこそ困る――と思っていたのだがコチラも同じで、判断基準は俺の
参考になるとは思えないんだけども。
ちなみに、だが。
ショッピングの締めは、何と俺の着せ替えだった。
よくわからないままに何種類かのセットを着させられ、その内のいくつかをお母さまたちが購入して、俺の手にはその一式が入った紙袋があった。
――いや、これ、マジでどうしよう。ウチのオカンにはどう
〇
「さあ、入って入ってー」
「おじゃましまーすっ」
「
「えー!!」
元気よく突入しようとしたマナちゃんだったが、前回俺もいっしょに居た時と同じようにまみちゃんに止められる。絵に描いたようなうんざり顔のマナちゃんだったが、あの勢いならばそりゃあ誰だって止めると思う。
とはいえ、前回からそこまで日が経っていないのだから、モノの数もそう簡単には増えないと思うのだが。
とにかく先ほどまで服選びに夢中になっていた俺たちの本日最後の目的地はまみちゃんの家――つまり、例のタワーマンションだった。
服を買ってもらったところで俺の家近くまで送ってもらえる流れだろうと思っていたので、これもまた俺の予想外だった。こんなに早いタイミングで『また来てね』が実行されるとも思っていなかった上、今回は
「スゴいなぁ……」
「何が?」
壮観とも言える光景にぼんやり呟いていたら、まみちゃんにしっかり聞かれていた。
「ああ、いや。ただの独り言」
「……そか。あ、遼成くん、荷物はその辺りに置いてもらえたら」
「邪魔にならないところに置いておくよ?」
「重くない?」
「……それって、男子が女子に言うことじゃないかなぁ」
思わず苦笑い。1年くらい前までは年相応かそれよりもやや強度高めで鍛えていたはずなのだが、そこまで衰えている感がするのだろうか。加減をしながらもう少し鍛え直した方が良かったりするのか。
「……えーっと、その、とりあえず私の部屋に置いておいた方がいいかな、って思って。私のもあるからいっしょに持って行こうかな、って思って」
急にたどたどしい言い方になるまみちゃん。
「だったら俺が持って行くよ。部屋開けてくれればいいかな、って」
「えっ。あ、ああ、そだね。じゃあ、そうしてもらおっかな」
気のせいかとも思ったがそんなことはなかった。様子がちょっとおかしい。いつもならそこまで動揺するようなところは見せないはずなのに。
何か原因が――。
「あっ」
「えっ」
簡単に思い当たる。あるじゃないか、明確な原因が。
「もしかしなくても、今俺デリカシーの欠片も無いこと言った……よね?」
部屋に入れろと言い放てるほどのニンゲンでもないくせに――と軽く罪悪感が湧いてくる。
「や、違う! そういうことじゃないの。元々
「そう? なら、良いんだけど……。本当に、何かあったら言ってね」
ひとまず頷いてはくれたのでこれ以上の
まみちゃんの先導でつい先日も来た道を辿る。まみちゃんの部屋はすぐそこだ。ドアも開いている。
――何で?
思わず顔を見合わせる。
ふたりで同時に察する。
部屋の主が扉を開けた。
「おじゃましてまーすっ」
「……もう」
妙に静かだと思ったよ。
早々にまみちゃんの部屋への突入を果たしていたマナちゃんはベッドの上に鎮座して、やたらと楽しそうな笑顔で少々分厚い本を開いていた。何だろうかと訊くより早く、マナちゃんが答えをくれる。
「ホラ見てリョウくん! これ、あたしたちが一緒に出た映画の台本!」
「あ、気付かれてたー」
「ほんとは前回来たときに見つけてて話題にしよっかな、って思ってたんだけど、絶対盛り上がるはずだから自制したの! エラくない?」
「はいはい、エラいエラい!」
「あぁっ! ヒドいんだぁ! ねえ、リョウくん! マミちゃんってばヒドくない?」
「……よく我慢しました」
「えへへ~」
「
あしらわれてご機嫌斜め気味だったのが急にデレる。忙しい
〇
しかし、マナちゃんの自制は正しかったことが証明された。
撮影秘話からその後の面白エピソードまで、学校の休み時間でもそれなりに聞いてきたかと思っていたがアレは健全な部類のようで、本当の序の口レベルだったらしい。さすがに俺以外の生徒の耳にも入るとある意味キケンな部類の話などは、しっかりとセーブをかけて話さないようにしていたようだ。この辺のリテラシーはしっかりしているふたりだった。
さて、そんな話で盛り上がっている内にいつの間にか
ここまで来ると今日の出来事の内どれが本命のイベントだったのか分からない。マジでどれだ。主食しか無いような食卓だ。カロリー過多が心配になる。俺は大丈夫なのだろうか。どこかで罰とかツケとかが飛んでこなければいいのだが。
「「さぁ、召し上がれー!」」
食卓に着くなりキレイにハモるお母さまふたりの声とともに遠慮無くいただく。
――マジで美味しそう。
ランチが幾分かヘルシーだったからか、今回はけっこうガッツリ系の雰囲気もある。いわゆる『高校生男子も満足できる夕飯』で検索をかけて出てくるような雰囲気満タンのメニューたち。
早速、ラーメンサラダからいただく。
そのままの流れで、大好物のポークジンジャー。
お次は鶏の唐揚げ、そしてご飯。
「……うンまぃ」
「ね?」
「ホント」
「……んぇ?」
一頻り口を付けたところで楽しそうにしているふたりに気が付く。
「さよちゃんから『リョウくんは美味しそうに食べてくれる』って聞いてたからさー。ホントだわーって思って」
またそういう感じで俺の羞恥心を抉ってくるんだから、この人たちは。絶対に容赦してくれないんだ、この人たちは。
未来永劫、このふたりには頭が上がらない気がしてきた。
そんな流れにも慣れてきた頃合いを見計らうように、ママさんたちふたりが次の準備があるのか席を立った。まだまだあるからね、なんてことは食べている最中ずっと言われていたが、どうやらそれも本当らしい。
「よしっ」
感謝しながら箸を進めようとしたタイミング、意を決したような声が左斜め前から聞こえた。
そこに座っているのはマナちゃんだ。
「リョーくんっ」
「……ん?」
満面の笑み。
差し出される箸。
「はい。あーんっ☆」
――時間が止まった、気がした。
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