2022年5月6日

一睡も出来ずに夜が明けた。

明け方になるにつれ鳥たちの鳴き声が聞こえ始める。いつもは気にならないその声がいつになくうるさく感じた。

頭がぼーっとしているのに眠ることは出来なかった。

涙は出なかった。

頭では分かっていても現実感が存在せず、感情が追いつかなかった。

僕はズタボロの精神とふらふらの身体で近くにあった山を登る。

一瞬でも忘れられる瞬間が欲しかった。

たいして険しくない山だが、登るまでに息が絶え絶えになる。途中休憩もせずにひたすら登り続ける。

綺麗な山の緑も心地よい自然の香りも何も感じなかった。風景はどこかモノクロめいて見えた。

登り切ったあとも感動もなにもない。

ただ不思議と気分は少し落ち着いた。

とはいえ、家に帰ると気持ちはまた元通りになったのだけれど。

それからと言うものの僕は一日中と誰かと電話をしていた。

中学からの親友たち。長らく連絡を取っていなかった高校の友人。専門学校時代から共に活動し続ける仲間たち。

そして、家族。

誰かと繋がっていたかった。

誰かと話していたかった。何度も何度も同じ経緯を違う話し相手に話す。

そうすることで僕はなんとかなると思った。

話すたびに感情が揺さぶられ、泣きじゃくる。

それでも12時間話し続ければ、どんな人間でも冷静になる。

自分自身でもほんとうに好きだったのかわからなくなった。

初めての彼女になってくれたから好きだと勘違いしていのだろう。初めての一人暮らしで寂しかったから一緒に遊べる相手が欲しかったのだ。その相手がたまたま異性であったから恋人同士になったのかもしれない。

そう思うことで僕は乗り越えることができると思っていた。

僕はその日の夜、40時間ぶりに眠りにつくことができた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る