おわりに
エピローグ
その後、氷結令嬢と紅茶の魔女は10人の子供に恵まれた。
子供と言ってもアリサとセシリーのどちらかがお腹を痛めて産んだ子、というわけでは無い。
アリサの才能を受け継いだ、10人の子供達だ。
アリサには他人の不正を暴く特別な目を持っていたが、その正体は人並み外れた洞察力であった。
その洞察力を人の才を見抜くのに使ったのだ。
才を見抜いた人間は、貴族の末っ子、商家の子供、教会に引き取られた子供、スラム街で盗みを働くしか生きる術を知らなかった子供と多岐にわたる。
そしてそれぞれが特別な才を持ち外交官、騎士、教師などいろいろなところで活躍しており。その成果は親であるアリサを超えるほどである。
特化した才を持つものが集まって1人に凝縮したのがセシリーなので、彼女の方が特別であるが。
アリサの功績は10人の類い稀なる才の子を輩出したことだけではない。
彼女は15歳より本格的に父クリスと同じ監査の仕事に努めた。
娘セシリーの洞察力、父クリスの行動力を合わせ我が国に蔓延る不正、横領の元を絶っていき。
庶民へと行き渡る富の流れを正常な形へと整えていった。これにより重税に苦しんでいた者達にも余裕ができ経済の活性化へとつながる。
経済の活性化についてはサファイア家現当主ギルバート•サファイアとも協力し、抜け目なく進めていった。
余談ではあるが、現当主ギルバートはサファイア家の三男であった。しかしその特出した成果によって現当主の座へと登り詰めた。その姿は実力主義を推し進める我が国の広告塔となり、腐ることの多かった貴族の下の子らの希望にもなっている。
貴族達の不正をなくし富の流れを正常にした事ともう一つ成し遂げたことがある。
それは教育機関の設立だ。
6歳から12歳までの子供達に教育を受ける権利を与えた。
貴族の間では、そこに通わせるような子供など庶民にはいないだろうと思われていたが、王都にできた一つ目の学校には通わせたいとされる親で溢れかえっていた。
それはなぜか。その学校の教育責任者というのが100年に一度の才女アリサを教育したディートハルトであったからだ。
アリサの活躍はすでに国内、いや全世界へと広まっており。貴族の不正を暴き断罪するその姿は庶民から見れば英雄のようだったのだ。その英雄を育てたディートハルトの教育が受けられる、誰も飛び付かないわけがなかった。
入学した者は、教育機関の管理を任されているのがアリサの母代わりとも言える人間、クラーラが行なっていると知り、二重で驚くことにもなるのだが。
そして最初の成功例を得たアリサの動きは早く、その成果を持って聖都へと向かった。
それは教会に学校の機能を併設できるよう頼みに行ったのだ。
教会は村単位で見ても絶対に1つはある、それを利用させてもらおうと思ったのだ。
これは我が国の教育できる場所が広がるだけでなく、聖都側にも利益がある。
純粋に信徒と寄付が増えるのだ。
教会が我々に場所を貸してくださっているとなれば、心に余裕があるならば寄付もするし信仰もするだろう。
場所を貸し与えるだけの利益としては莫大である、そのため聖都は特に何もなく許可を出した。
そのおかげが徐々に教育を受けられるところは増え、国民の識字率、四則演算ができる人間は右肩上がりで上がっている。
そして教育を受けその才を見出した者は騎士学校や研究室などへと進みその才を発揮する。
問題はまだまだ残っているが、国内の実力主義は進み、それぞれの分野の発展へと進んでいく。
そんなアリサではあるが、30歳となった時、国政に関わる事をやめると宣言した。
これからはわたしの10人の子供達が全て引き継いでくれるでしょうという言葉と共に。
王は絶対に引き止めるべきだと言い、彼女を御前へと呼びつけた。
なぜなら彼女が他国へ引き抜かれるのではないか、そう思ったからである。
彼女の存在は偉大だ、15年という短い期間の間に我が国の形を良い方向に大きく変えてしまった。その頭脳が他国へと移る、それは我が国だけの特権が失われてしまう。
そんな人間が30歳という若さで退くと言い出したのだ。引き抜きを疑うのも仕方がない。
そうして王は説得を続けた。だがアリサは絶対に首を縦に振らなかった。
平行線のまま話は進み、他国に取られるくらいならと拘束しろとすら言い出しそうな空気の中。
『わたしには、14歳の時、愛を誓った者がいます。』
とアリサは静かに語り出したのだ。
『その人には迷惑ばかりかけてきました、いえ今でも迷惑をかけています。
そんなわたしのせいで思春期の子供達が行う甘い恋……そうですね……例えば、街を手を繋いで2人で歩いたり、定食屋でご飯を一緒に食べたり、ロマンチックなところでキスをしたり。そんなものを一度も味合わせてあげることができませんでした。
だからこれからの人生はその人のために捧げたいのです』
『遅すぎるくらい2人とも歳をとってしまいましたが』と言ってのける彼女の顔は、氷結令嬢としての顔ではなく、子供っぽい笑みを浮かべる少女のようだったそうだ。
その顔を見た王は何も言い返すことができず。許可をした。
それから何年か経つが彼女の居場所は未だにわからない。
街を女性と手を繋いで、はしゃぎながら歩いてるのを見た。定食屋でマナーがしっかりとしていて周りと違うオーラを放ちながら食事をしているのを見た。観光地で夕焼けをバックに女性とキスをしているのを見た。教会で子供達と遊んでるのを見た。などなど目撃の情報は上がってくるが、どこで何をしているかは定かではない。
しかし、1つ言えるのは。
今日も氷結乙女は紅茶の魔女の魔法に魅了されている。ということだ。
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