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まず元々として、教会の運営費には2パターンある。1つ目は国からの支援金、これは帝都より各地方の領主へと渡され、そこから教会へと分配される。もう一つは、聖都への寄付を分配したものもしくは周辺住民からの寄付だ。
ではなぜ国は教会に支援金を払うのかというと、孤児院としての機能があるからだ。国の管理しきれない孤児達の受け皿になってもらう代わりに、支援金を渡す、こんな感じだ。
その国からの支援金をこの地方の領主は着服していたらしい。
少しづつ支援金減らしていき、5年程かけて徐々に教会の首を絞める。そうして教会が運営できなくなり行き場を失った孤児達を捕まえ、奴隷として他国へと売りさらに富を得るという事をしていたのだ。
そうしてリズとセシリーのいるこの孤児院にも限界がきた。周りの住民の助けや、聖都に連絡し色々と切り詰めて対策をしていたがもう半年と持たないだろうというところまできていたらしい。
それでも長く耐えていたためか、痺れを切らせた奴隷商人達は教会を解散させるより早く、子供を引き渡せば資金を渡す、という日時を指定した連絡がきた。
その指定日まで散々リズは悩み、思いついたことは一つだけ。自分を身代わりにして子供達を守るということだけだ。
その指定された日時、皆寝静まった時間に現れた奴隷商人達に、シスターである自分の身なら高く売れる、だから自分を連れて行って欲しい、その代わりこの子達には手を出さないで欲しい、そう告げようと教会の扉を開けようとした時、外側から扉が開いた。
それよりも先、ずっと教会の前で待っていたセシリーが先に身代わりになっていた。
彼女は感情の機微にすごく敏感だ、だからリズが日々悩んでることや決意に気が付いていたのだ。だからリズの不安が無くなり決意の感情が強くなった日、その日が決行日だとわかっていたのだろう。
「わたし未来予知ができるの、だからあなたたちが来るの知ってたんだ。本当かどうか?うーんその扉の奥にいるシスターに聞けばわかると思うよ」
扉の奥にシスターがいる、その発言の確認のために扉を開けたのだ。
リズは少し困惑したが、視線の先にセシリーを見つけた時。この教会のために身代わりになろうとしている事だけは理解できたらしい。
その先はほとんど覚えてないらしい。必死に縋りついた記憶、受けた暴力、そして
「リズお姉ちゃん、わたしは大丈夫だから。ここの子達にはわたしよりリズお姉ちゃんの方が必要だから……じゃあね」
というセシリーの言葉。
「その後気づいた時には診療所のベッドの上だったから、あとのことはセシリーちゃんとクリス様に聞いただけなんだけど。クリス様の準備してた騎士様に助けて貰ってたみたい。その時にはもうセシリーちゃんはルビー家に行くことを決めてたみたいね」
奴隷商人との癒着についてはわたしも知っていたが、被害者本人から聞くのとはやはり違う。
詳細の報告を見ただけだが、最初に町の住民から教会の様子がおかしいから確認してほしいという嘆願書が直接帝都へと届いたらしい。それを見たお父様が、教会が次々と撤退してる現状と結びつけ解決したと聞いたが……お父様よく関連付けれましたね……。
けど一番重要な事を聞けていない。
「それではリズさんも、セシリーがルビー家に来ることを決めたきっかけはわからないって事なんですか?」
「そうなるかしらねー。でもクリス様に助けられたからその恩を返す為にって理由だけじゃないと思うわ。セシリーちゃん、大きくなったらこの教会のシスターになってリズお姉ちゃんを手伝うの!ってずっといってたから」
彼女はああ見えて芯の強い人だ。自分で決めたことを簡単には曲げない。それは11歳の誕生日の時に実感してる。
抜けてるところも多いですし、いっつも怒られてシュンとしてるのでそう思わなかったりするが。
お父様と長いこと会話したと聞いたので、やっぱりその時に何かあったんでしょうか。
うーん、もしかしてお父様が彼女の特別な技術が使える!って考えて、断れないように脅しでもしたのだろうか……。
「でも適当に決めるような子じゃないわ……って言いたいけど、運命とかも言い出しかねないのよね、あの子……」
その感想に関してはわたしも同じだ。
子供達と遊んだり、教会の仕事の手伝いをさせて貰ったり色々とやっているうちにもう日が落ちる時間になっていた。
「アリサちゃん、セシリーちゃん夕食も一緒に食べましょ?」と誘われたが今日は食事用意をしてしまっていたので丁重にお断りさせて貰った。
1日でアリサちゃんって呼ばれるようになってしまった……最初のかしこまった雰囲気はどこに行ったのだろうか。
それともう一つ、アンになぜかすごく嫌われてしまった。
ふとした拍子に睨まれるし、なんだか勝負を挑まれたり、仕事の手伝いもわたしの仕事を横取りしようとしたり。
やはり貴族を目の敵にしているのだろうかなんてことを思う。
「あの子昔っから攻撃的なんです。だからアリサ様のこと警戒してるんだと思います」とセシリーは言うが、本当にそうなのかはわからない。
「明日も行かれるんですか!?」
「もちろん行きますよ、もっともっとセシリーの昔話聞かなきゃいけませんからね」
「うぅ、リズお姉ちゃんのバカぁ、なんでもかんでも喋りすぎなんですよ……」とリズさんへの恨言を呟く。
夕暮れの中で宿への帰る途中、わたしたちは今日あったこと、明日の予定だとかを話していた。
切り出すなら今かなと思いわたしは、
「セシリーはどうしてルビー家に奉公に来ようと思ったんですか?」
1番聞きたかったことを聞いた。
「えっと……リズさんに色々聞いたりしました?」
「はい、あの教会であったことは大体」
そうですかと言って、セシリーは足を止めて少し考え込む。
そうしてわたしの目を見て、
「これは運命だ、そう思ったからです」
よくわからないことを言い出した。
よくわからない事ではあるが、わたしとリズが予想したこと全く同じことを言ったので少し吹き出してしまった。
「笑わないでください!真剣にそう思ったんですよ!」
わたしが笑ったのが気に食わなかったのか、頬を膨らませながらそう告げる。
「ごめんなさい」とわたしが謝ると頬の空気を抜き奴隷商人がきたあの日の事を語り始めた。
「教会での事件の後、旦那様とお話しさせて貰ったんです。
わたしが淹れた紅茶をお飲みになられた時、娘にも飲ませてあげたいなって、言ってくださったんです。
そうしてアリサ様のことについて色々聞かせてくださって、えっと、これは去年のお誕生日の時にお話しさせて貰った通りですね。
その時にわたし思ったんです。こんなにも大切にされてる人ってどんな人なんだろうって」
あなた、わたしにプロポーズしてるみたいなんて言ってたのに自分も同じようなこと言ってますよ。
なんてことを茶化して言おうと思いましたが、笑顔のセシリーが眩しくて少し恥ずかしくて目を逸らした。
「その時には旦那様に誘われてたんです、ルビー家でメイドとして働かないか?って。
でも最初は乗り気じゃなかったんですよね、シスターになってリズさんの跡を継ぎたかったですから。
それで夜、ふと旦那様の語るお嬢様のことを思い出したんです。
何度も何度も。物語の白馬の王子様に憧れる少女のように。」
恥ずかしい。これを言っているセシリーの方が恥ずかしいはずなんですが、自信を持って言い切っている。
そんなセシリーに目を背けるのも失礼だ向き合おう、恥ずかしいですが。
「それからは毎日リズさんのお見舞いに来てくださる旦那様にお嬢様の話を聞いて、夜はその姿に焦がれてました。
わたしは感情の機微には敏感ですから、旦那様のお嬢様を大切に思う気持ちも毎日この身に浴びました。
そんな日々が5日くらい続いた時思ったんです。会いたい、だからルビー家に奉公に出ようって。」
それからはとんとん拍子とはいきませんでしたが、リズを説得したり、教会の子達にも別れを告げたり色々して今に至るって感じです。と言い終え、前を向く。
なんだか顔が少し赤くなっているがそれは夕焼けのせいではないはず。あなたも恥ずかしかったんじゃないですか。
そしてわたしは、
「わたしは、あなたの思う白馬の王子様でしたか?」
もうちょっと恥ずかしいがらせようと、こんな質問をしたが。
「はい。わたしの運命の王子様でした。」
なんて恥ずかしげもなく言い返した。
セシリーに負けるわけにはいけないと、わたしは彼女の手を取って。
「わたしも、あなたのことを運命を変えてくれた魔法使いだと思ってますよ。」
と目を見て伝える。セシリーの顔は瞬く間に真っ赤になり逆側を向く。
しかしこんな恥ずかしいことを言ったわたしも我慢できず反対側を向く。
宿までの道のりは、2人とも無言だったけれど。
繋いだ手は宿に着くまで、ずっとそのままだった。
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