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「申し訳ございませんでした!ルビー家の御令嬢とはつゆ知らず、失礼な行いをしてしまい。本当に申し訳ございません!」
「いえ、気にしてませんから普段通りにしてください。それに今日はルビー家としてこちらに訪れたわけではありません、セシリーの友人として接していただけると嬉しいです」
教会の奥、食堂のようなところに案内され開口一番シスターリーゼロッテの謝罪の言葉を受け取っていた。
深々と頭を下げ、謝罪をする彼女を見ると、外で暴走していたのが嘘のようにしっかりした人に見える。さっきまでの光景を見ているので仮面被っているんだろうとわかってしまうが。
「本当に申し訳ございませんでした。大恩のある方の御令嬢にこんなにも失礼をしてしまうとは……」
「何度も言いますが気にしてませんから。セシリーが紅茶を淹れてくれるみたいですし、お忙しくなければ、それまで2人でお話しましょう。彼女の恥ずかしい昔話とか」
大恩という言葉に少し引っかかりを感じたが、立ちっぱなしだったシスターリーゼロッテに席についてもらうように促した。それを受け取った彼女は席に座る。
わたしの言葉尻からセシリーのことを信用していると伝わってくれたのだろうか、少し彼女は嬉しそうな気がした。
「セシリーは良くやってますか?彼女はずっとこの教会で育ったのもあって礼節だとかに疎いですから」
「まぁ正直に言いますと失敗を重ねて色々な人に迷惑をかけてるとは思います」
「はぁ……やっぱりそうですよね。もっと色々教えておくべきだったかなぁ……でも奉公に出ることになったのもいきなりだったから……」
「確かに迷惑をかけてます、でも他人のことを第一に考えられる、尊敬できる人間です。わたしも、何度も何度も彼女の優しさに助けられました。彼女をわたしの専属メイドにしてよかったと、そう心の底から思います」
これはわたしの本心。
彼女がいると周りの人間がわたしを冷めた目で見ようが気にならない。
仕事で誰かを地獄に落とすことになっても、彼女がいればわたしはわたしでいられる。
「ふふっ、そうですか。ですってセシリーちゃん。愛されてるみたいで親代わりとしてすごく嬉しいわー」
そう、リーゼロッテはキッチンの方にいるセシリーへと呼びかける。
わたしも呼びかけにつられてキッチンの方に目を向けると、いつ紅茶を持っていくべきかタイミングを伺い、そしてタイミングを失っているセシリーがいた。
普段はティータイムに関しては完全な彼女も、自分のことを話題の中心にしている所に入るのは少し難しかったのかもしれない。
タイミングを失っているセシリーに気づき、助けの手を差し伸べたのだろう。もしかしたらセシリーの優しさは、親譲りなのかもしれない。
その後押しを受けて、セシリーはわたしとリーゼロッテの分の紅茶を注ぐ。
その紅茶を飲んだ彼女は、
「やっぱり、セシリーちゃんは紅茶の魔法使いね。すごく優しい味がするわ」
そう告げる。
セシリーに紅茶の魔法使いって名前をつけたのは彼女だったということ。そしてセシリーの紅茶はここにいた時から変わらず気持ちのこもったものだったこと。そんなことを知れて嬉しかった。
「それに昔よりもっと優しい味になった気がするわ。すごーく大切な人でもできたのかしらね?」
それに付け加えられた一言に、わたしは誇らしげになった。……ちょっと恥ずかしくもありましたが。
メイドが主人と同じ席に着くなんて絶対にダメです!と言うセシリーを旅行中は友達でしたよね?と説得し3人で話し込んでいると、両開きの扉が少し開いておりそこから視線を感じる。
それにシスターリーゼロッテも気が付いたのかゆっくりと近づき扉を開ける。すると子供が3人転がりながら食堂へと入ってくる。
「こーら!覗きなんて失礼なことしちゃダメでしょ!」
そばかすのある気の強そうな女の子と長い前髪で片目を隠した少し気怠げな女の子、メガネをかけた真面目そうな男の子がバツが悪そうな顔をしている。
「シリルが超絶可愛い美少女の貴族様を見かけたので覗こうぜって言ってましたー、わたし達はそれを止めようとしてただけでーす」
「逆だよ逆!アンがそれを言ったんだろ!それで止めようとしたら僕も連れていかれたんだ!」
「私は無実。たまたま通りかかっただけ」
「シンディーもそんなに美少女ならちょっとぐらい悪戯したいって言ってましたー」
孤児院の子達なのだろうか、3人は責任の押し付け合いの喧嘩を始める。
自分に責任は絶対にないと三者三様の意見を述べ、ドンドン盛り上がっていく出口の無い議論に
「こらー!覗き見してたのは事実でしょ!お客様に失礼なことをしたのは3人ともそう!アリサ様に謝罪しなさい!」
リーゼロッテの雷が落ちた。あまりの迫力に子供達3人は体を硬直させる。
他の人に主人と同じ席についているのを見られてはいけないと考えたのか、わたしの後ろへと移動していたセシリーが、
「わたしも昔はよくああやって怒られました、怒らせると怖いんですよねリズさんって」
と呟く。
優しいというかほんわかして何か抜けてるような印象だったが、怒る時には怒れる。
この教会の子はいい子に育ちそうだ。そんなことセシリーを見れば一目瞭然だろうし、子供のわたしが言うのもおかしいでしょうが。
こんこんと説教されている3人、そのうちのそばかす少女……アンだっただろうか、彼女がこちらを見て目を丸くしていた。何か目立つようなものでも付けていただろうかなんて自分の周りを確認したが、彼女はわたしではなく隣のセシリーを見ていたのかと気付いた時
「セシリーお姉ちゃあぁぁぁん!」
と叫びながらセシリーに突撃。一応セシリーは受け止めたみたいだ……ゴフッとか聞いたことのない声を発していましたけど……。
「ア……アン、ゲホッゲホッ!喜んでくれるのは……嬉しいですけど、鳩尾に突撃は……やめな……さい」
……ダメそうだった。
そうしてアンの突撃によって説教はさらに長くなってしまったが、それもつつがなく終わり。
3人からは謝罪を受けた。正直気にはしてないので別に謝罪しなくてもと思うが、わたしはそう思うだけで別の人はそうでは無いのかもしれない。上に立つ人間達は気難しいことが多いのだ、これも子供のわたしが言うことではないが。
そうして謝罪の後、子供達がリーゼロッテのところに戻る途中。
「洗濯物干し終わったから呼びにきたのになんか怒られた……空気読んで外で見てただけなのに」
と気怠げな女の子、シンディーが呟くと。リーゼロッテはハッとした顔になり、
「ごめんなさいねー!リズお姉ちゃんが悪かったわー!!」
とすごい勢いで子供達を抱きしめて頭を撫で始める。そしてシンディーが悪い顔をしながら至福の顔をしている。あの子大物になりそうですね……あとそんなに簡単に騙されて大丈夫ですか親代わりさん……。
そんな一幕もあり、わたしたちは入り口前の庭に移動した。
子供達の作業も終わり遊ぶ時間だったらしくリーゼロッテを呼ぶことは本当だったらしい。やはりあの子大物になりそうですね。
「セシリーお姉ちゃん!今日は一緒に遊んでくれるよね!」
とアンはセシリーの腕を掴む。彼女がこの教会にいたときにすごく仲が良かったのだろう、姉に甘える妹のように見える。羨ましいなんてことはありません。
セシリーはわたしの方をチラチラと見ながらどうすれば良いのか困っている顔をしている。
「えっと、お嬢様……?」
「今日はわたしの従者としてきたわけではないのでしょ?遊んできて良いですよ」
「えっ、あの……」
「ありがとう貴族様!ほらセシリーお姉ちゃん!行こ行こ!!」
そうしてアンはセシリーの手を引き子供の集団のところへ駆け寄っていく。セシリーが不安な顔でこっちを見ていたので安心させるように笑顔で手を振って出入り口で待機していたはずのローランを指差す。指差した先、そこには子供を肩車して笑顔の彼の姿がある。
それを見たセシリーが少し吹き出してわたしに何度か頭を下げ、そのあとは自分の意思で子供達のところへと合流していく。
「ふふ、そんなに嫉妬しなくてもセシリーちゃんはあなたのことが一番好きよ」
「嫉妬なんてしていません」
何をどう思えばそんな発想になるのか。そう文句を言おうと思ってリーゼロッテの顔を見る。
そこには、それ以上言わなくてもわかってます。と言いたげなニコニコとした顔がある。
なにを言っても無駄な顔だと理解したわたしは、別の話題に切り替える。
「リーゼロッテさん」「リズでいいわよ、長くて呼びづらいでしょう?」
「……リズさん。聞きたいことがあるんです、セシリーはなぜルビー家に奉公に来ることになったんですか?」
わたしはこの理由を知るためにここに来たのだ。
我がルビー家は宝石の名を国より賜った由緒ある家だ。そこに孤児であるセシリーがメイドとして勤めることは、あの特殊な技術を差し置いてもありえる事ではない。
だから気になった、これから一生を共にする大切な人のことだから。
「うーん、私もはっきりとした理由も知らないんだけど……。とりあえずあの日の事、最初から教えるわ」
そう言って、真剣な顔になったあと。
「セシリーちゃんはね、奴隷として売られるところだったの」
わたしは言葉を一瞬理解できなかった。
紅茶の魔法使いの能力に目をつけたお父様が、わたしの心を開かせるために買ったって事……?
冷静になれなかったわたしはそんな事を考えてしまう。
「アリサ様がなにを考えてるかちょっとわかるけどそうじゃないのよ。奴隷として売られる『ところ』だったの。あなたのお父様、クリス様が助けてくださったのよ」
それからリズは経緯を語ってくれた。
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