3..
「まるで俺が別れさせたみたいな言い方だな、メイ」
睨みつけるように目線だけ動かして、私の方を見る彼はそう吐き捨てると鼻で笑った。お前も望んでいたんだろ、と言うように。
「そんな言い方してない。質問にちゃんと答えて、
先ほどより声を荒げて彼に詰め寄る。詩音はぴくり、と反応して身体ごとこちらを向く。
暫くの沈黙。何か言おうと口をぱくぱくする動作をしていたが、やっと言葉を選べたようで声を発してきた。
「辛いなら別れろ、そう言っただけだ」
私が返事をするのを遮り、彼は少し悲しげに付け足した。
「……お前が
私は閉口するしかなかった。
詩音の発言は何も間違っていない。正しくて、そしてそれが何よりも醜いのだと再認識させられる。上手く言葉を返せなくなり、逃げるように下を向く。彼はそれを逃さなかった。
「卑怯だよなお前も。俺の気持ちなんて知らずに利用して」
椅子から立ち上がり私の真横に近寄る。私は太ももに添えていた手をぎゅっと握りしめる。
日和を裏切っているという自覚も、詩音を傷つけているという自覚も持っていた。でも今まで誰も触れたことはなかった。触れられたらどうしよう、と考えていなかったわけではない。
どくり、どくりと鼓動が早く大きく聞こえてくる。同時に息が上がる。たらりと嫌な汗が流れる。視界がだんだん掠れてくる。
次は何を言われる? どう責め立てられる?
思考は次第に被害者よりに偏っていく。
「……ご、ごめんなさ、……い」
息がしづらい。かひゅ、と空気を吸う音が間に挟まる。先ほどまでの自分とは打って変わってしまった。
そんな自分を憐れむ様に、彼はそっと私を抱きしめた。何をされたのか、分からずぴたりと固まる。
……それも嘘だ。この行動の意味を私は知っている。すぅ、と息を吸い込み呼吸を整える。そして次に紡がれる言葉を一言一句間違えずに予想するのだ。一秒後に答え合わせをし、結果を聞いて一筋の水滴が溢れることまで想像して。
「……お前が好きなんだ、鳴。ずっと、それこそ出会ったときから、自分のものにしたくて」
叶えてあげることができないその願いには、締め付けられた心と共に渇いた笑みがよく似合う。
「……ははっ、冗談きついって」
共犯者 椿原 @Tubaki_0470
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