2.


 「……は?! 別れたあ?!」


 素っ頓狂な声が三人だけの空間に響き渡る。一人はもぐもぐと白米を口に含み、一人は私の大声に耳を塞いだせいで箸を落としていた。

 ごくり。

 からん。

 大声に対して、うるさい、と一喝を入れるような二人の音ではっとした。こういう時こそ冷静に聞かないといけない。

 また口に白米を運び、まるで小動物のように頬をふくらませる話の中心人物、日和ひよりに目を向ける。細くて小さくて、少し触れば壊れてしまいそうなほど脆い心の持ち主であり、私が毎日頭を悩ませる原因。だった。


 「……鳴?どうかした?」


 見つめ続けていたら、彼女は照れながら問う。顔を真っ赤にしている様はどんな男でも惚れるのではいだろうか、と思う。事実、私が男なら確実に好きになってる。


 「何も無いよ、ひーちゃん。ただ、別れるなんて信じられないなって思ってさ」


 内心にドロドロと渦巻く黒い影を隠すように、優しく笑った。すると、彼女は困ったように眉を下げる。


「ずっと迷ってたんだけどね、うん。喧嘩別れした訳でもないけど、私からのは消えちゃった」

「……そっか」

「セキとおんなじ反応だね。鳴も」


 そう言われた瞬間、先ほど箸を落としていた男――石城セキジョウを見る。箸を洗いに行くのが面倒という理由で、短いピックでおかずを串刺しにしている。目線はこちらに向けないまま、「……んだよ」と素っ気ない態度で話す様には、もう慣れている。

 だがしかし、こんな奴と一緒にされるのは心外だ。「なんでもねえわ」とだけ返し時計を見る。昼休みが始まってもう十分も経つが、あいつが来ない。まあ、別れたと言うなら気まずくて来れないと言うのもわかるのだが。


 「あ、生徒会の会議があるの忘れてたや。行ってくるね」


 かちゃ、と音を鳴らしながら日和はお弁当を片付けてしまう。「行ってらっしゃい」と片手をひらひらと振り、ぱたぱたと走っていく可愛らしい背中を見送る。


 隣のやつは相変わらずなにも話さない。話したければ話せ、とでも言いたいのだろうか。付き合いが長いためか考えていることが手に取るように分かる。綺麗な横顔に思わず溜息が出る。少しピリついた空気を流し、私は口を開いた。



 「ひーちゃんに何吹き込んだわけ、詩音しおん



 ピクリ、と肩を動かした彼は何を言うのだろうか。鋭い視線が交錯する。

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