ブリキの戦士 異世界を直す

水鳥 元義

第1話 妖精の依頼

小さな町の一角の古めかしいおもちゃ店『創世堂』。

そこの店長である俺、古式 創治(こしき そうじ)は、客がもう来ないことを

確認し、店のシャッターを閉めた。

 このおもちゃ店は、今流行しているゲームなどは一切おいておらず、昔懐かしのおもちゃを取り扱っている。

 今の時代となっては物珍しいものも多く、興味本位で訪れる子どもや、昔を懐かしむ大人が訪れる店であったが、お客はがそれほど来るわけではない。


「時の流れは変えられないってね」

閉店後の少し暗い店内で、店の販売物であるスルメの駄菓子をかじりながら、ブリキのおもちゃの整備を始める。


 もともと2年前に、死んだ爺さんから引き継ぐ形で経営しているこの店だが、昔からこの店のおもちゃと共に育った俺としては、店のおもちゃのすべてに精通している。


 今のスマホ一つで手軽に出来るゲームを否定する気はない。今俺が手にしているこのブリキのロボットだって一時代を築いた時期もあった。そもそも俺はまだ24歳で、昔はよかったなんてという年じゃない。


 それでも、やはり昔から愛着あるこのおもちゃ達をもっと見てもらいたいなという気持ちはあるけどな。昔のおもちゃだって、無限の魅力がある。


 まぁいろいろ回りくどいことを言っているが、客がもうちょっと来ないかねと…


  愚痴を言ったところでしょうがないので整備が一通り終わったら寝るとするか、

 と思ったらなにやら奥の物置き場からガタガタと音がする。


泥棒?店の売り上げなんてほぼないぞ?それとも希少価値のあるおもちゃ狙いか?


 自慢じゃないが、売り上げなんてほとんどない。だが、昔からのおもちゃにはプレミアがついてあるものもある。それを狙っての泥棒は十分にありえるなと。


 とりあえず手近にあったけん玉を手に取る。この俺にかかれば、下手な護身グッズより信頼でき武器になる。この店のおもちゃにすべて精通している俺だからこそだ。


 足音を立てないように物音がする方に近づく。不審者がいたら出会い頭に顔面に一発かましてやる。俺の操るけん玉は、音速を超える…わけではないが。


 物音の発生場所にやってきた。不審人物はいない。いや、いるな。


暗い物置き場に、ゆらゆらと光の球が浮かんでいた。その光の中には…。


「こんなおもちゃ、うちで取り扱っていたか?」


光の球の中には、西洋のおとぎ話に出てきそうな羽の生えた小人がいた。妖精というべきだろうか?


 少なくとも、ドローンのようにふわふわ浮く妖精のおもちゃなんて取り扱っていない。主に日本のおもちゃを取り扱ううちの店のイメージじゃないしな。そもそもあれはきっとおもちゃではなく生き物だろうけど。


 予想外というか、想定外の出来事にフリーズしている俺に向けて、その妖精は小さな手を俺に伸ばしてきた。そして。


「直してください…、直してください…」と消え入るような声で語りかけてきた。


なぜそうしたのかわからない。俺はその小さな手に向かって自分の手を伸ばした。


直す…。


形あるものはいつか壊れる。それでも俺は昔からのおもちゃを大切に直して使ってきた。壊れたものを簡単に捨てるのは主義じゃない。直せるものは直す、それが主義だ。


だから、直してくれといわれた以上、それは俺に対する依頼だときっと俺の心が受け取ったのだと思う。たとえ、それがどんなに受け入れづらい状況だとしてもだ。


俺の手と妖精の手が触れあう。


そして、俺は、いや俺の店は町から消えさった。 


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ブリキの戦士 異世界を直す 水鳥 元義 @torichan3

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る