six feet under1

 元海賊でアレックスの名付け親でもあるマーティンが亡くなった。

 身体が弱り船を降りたマーティンにアレックスは屋敷での同居を提案したが、マーティンはそれを断ると、今までの蓄えを使い隠し港のそばの河岸に小さなしかし居心地のいい小屋を建てて、居を構えた。

 毎日のんびりと釣りをし、釣った魚を料理して食べ、夜はフクロウの声の聞こえるテラスに置いたロッキングチェアに座って、気に入りの酒と煙草を楽しみながら星空を眺めて寛ぐ。

 アレックスの不安をよそに悠々自適の隠居生活を送っていたマーティンだったが、寄る年波には勝てず、緩やかに眠るようにその命のともしびを消したのが昨晩のことだ。


 隠し港にほど近い、海亀島で最も景色のいい丘陵の上でアレックスはひたすらに黙々と土を掘った。

 早朝でも蒸し暑い空気の中で汗が吹き出し、飛び散った土が肌にざらりとまとわりつく。

 2フィートも掘らないうちに重いシャベルを持ち上げる腕が重くむくんで革手袋の下の皮膚が擦れ、痛みを伴って水を含む。

 顔を歪めて地面にシャベルを突き刺し、土をすくって、その重さによろけながら持ち上げようとしたところで、力強い腕がアレックスを止めた。


「ここからは俺がやる。一回休め」


「いや……でも、自分でやりたいんだ」


「俺はあなたの剣で盾なんだから、俺が掘るのはあなたが掘るのと同じだ。適材適所という言葉は当然知っているよな。アレックス。無理をするな」


 唇を引き結び、頑なに強くシャベルの持ち手を握りしめたアレックスの指をケインは一本づつ剥がしてシャベルを奪い取った。


「ケイン!!」


「このペースだと葬式が来週になるぞ」


 ケインはアレックスが掘った以上をあっという間に掘り広げ、棺桶の入る広さまで広げると、穴の上をさし示した。


「そこに敷布を引いておいたから座って。そうだな、無聊ならば俺が墓掘りをする間、そこでマーティンとあなたの想い出を話してくれないか? 俺はマーティンの息子という体になってるのに、二人とも遠慮して過去のことをなにも話さなかったから、俺はあの人とあなたの過去のことをほとんど知らない。あの人とのことを教えてくれ」


 追い立てられるように浅い穴を出て、敷布の上に座って水を飲む。

 そしてアレックスは膝を抱えて重い口を開いた。


「ナザロフに捕えられた俺は奴隷島の市場で売られ、ラトゥーチェ・フロレンスの主人に性奴として買われた。そしてウィステリアと花の名前をつけられて商品として働き始めた。その頃のマーティンはこの辺りを根城にする大海賊。店にとってもっとも高い金払いのいい客太客の一人で、俺が売られた時がその権勢の絶頂期だった」


※男娼王子完結の番外編エピソードになります。このエピソードを4〜5話投稿させていただき、一旦完結とさせていただきます。NTR王子完結後のエピソードも多少考えてはいるのですが、記念応募しているルビーファンタジーBL大賞が完結が条件かつ、上限文字数に達しそうだからです。

今までお読みいただきありがとうございました。

続編、NTR王子は悪役令嬢と返り咲くも鋭意連載中ですので、もしまだアレックスとランス(ケイン)にご興味ありましたらお読みいただければ幸いに存じます。

完結後にこの文章は削除する予定です。

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