騎士と猫ちゃん
アレックスの帆船、フェア・オフィーリア号。
誰もが見惚れる美しい大型船でたくさんの乗組員を擁するが、その中に特別な乗組員がいる。
彼らは航海中の鼠取りの為に船で飼われている猫だが、その愛らしさに全ての乗組員に愛されていた。
そしてそれは彼も例外ではなく……。
薄暗い船倉の片隅で男はチッチッチと舌を鳴らしてミセスキャリコを呼び、キッチンから失敬してきた魚のアラを与えると大きな掌で慣れた仕草で猫を撫でた。
「キャリーは相変わらずツヤツヤでふわふわで美人さんだな」
大きな体を丸めてしゃがみ込み、ぐにゃりと床に背を擦り付けて腹を見せた猫をもふりながら話しかけると、キャリコはにゃーと愛らしい声で鳴いた。
「んっ……!!」
あまりの可愛さに口元を抑え、猫の愛らしさを堪能していたところで人の気配を感じ、男は慌てて立ち上がった。
「ケイン、話す声が聞こえたが、こんなところで何を……」
「いや、その、備蓄品の確認に! アレックスこそなんでここに?!」
「お前を探しにきたんだが……ああ、キャリコか」
ケインの足の間からぬるりと顔を出して甘えた声を出しながらまとわりついたキャリコの喉の下を、アレックスはおざなりに撫でた。
「もしかしてさっきの奇声、お前か?」
「ちが……!」
「いやいや、可愛いもんなあ」
アレックスは見透かしたように笑って、なおもまとわりつくキャリコを抱き上げるとその色違いの愛らしい耳の下を掻いて喉の下を優しく撫でてみせた。
ごろごろと喉を鳴らして腕の中でうっとりと目を細める猫を見て、ケインは歯軋りする。
「俺が、毎日厨房から餌になりそうなものをくすねてもここまで身を任せてくれないのに……!」
「俺は動物にも好かれやすいんだ。というか、こんなところでコソコソ餌なんぞやらずに甲板でどうどうと可愛がってやれば良い」
言われてケインはぐっと言いたいことを飲み込んだ。耳が赤くなり、唇がへの字に曲がる。
「……俺が、猫を可愛がっているのは見た目にそぐわないだろ」
「そんな事はない。リヒャルトだって辺り憚らず猫を撫で回していたぞ」
「父上が??」
ケインの思い出の中の父は強く堅苦しくいつも背筋を伸ばしてひたすら厳しい男で、ごくたまに不器用な愛情を示してくれたといった印象である。
「最初はぐんにゃりしていて好かないと言っていたが、こうやって抱かせたらメロメロになっていた。最終的に言葉遣いまで変わって猫に話しかけていたぐらいだ。気にせず可愛がってやれば良い」
ひょい、と猫を渡されてケインは戸惑いながらもそれを抱き抱えた。猫はほんのりと暖かくて柔らかくてそれだけで心が温まる。
ケインは先程アレックスがそうしていたように、キャリコの喉を撫でるとアレックスと船倉を後にした。
猫に対して言葉遣いの変わる父の件はあえて考えないことにした。
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