第3話 カザフスタンの女




 マッチングアプリで、カザフスタンの女と会ったことがある。確か年齢は、二十九歳だった。


 顔も躰も良くも悪くもないようだったが、外人というモノ珍しさで会いに行った。バイクで興味が引けたので、バイクに乗って博多駅に行った。


 合流予定の場所で、十分待たされた。


 この時点で、ナメた女なんだろうと想像したが、会ってみたらそこまでナメた女ではなかった。


 三年前から日本に来ていた上、あっちでも日本語を学んでいたらしい。カタコトとは言えないくらいに、日本語はなめらかだった。


 ヘルメットを一つ渡し、バイクの後部座席が体温で暖められた。


 県外から、旅行で来ていた女だったから。連れていく場所はいくつか思い浮かんだが、もう三日目で思い浮かぶ場所は大体行っていた。


 困りつつ、結局バイクで美味い焼き鳥屋に連れて行った。


 ……残念ながら、あまり刺さらなかった。バイクを降りて、日本の色々な場所に行っていることを聞いた時点で改めるべきだったかもしれない。


 生の刺しが美味い店だったのだが、やはり日本人以外では拒否感があるらしかった。薦めて一口だけは食べたが、生にはそれ以降は箸をつけなかった。酒も飲めないらしく、かなり難易度が高くなったことを知った。


 それを抜きにしても。福岡で美味いと評判の店も、日本で有数と言われている大阪の焼き鳥屋には敵わなかったらしい。


 一番距離が縮んだのは『大麻っていいよね』がメイン歌詞のHIPHOPユニットが好きだということが共通していたことだ。


 そこで、旅行先の写真を見せてよというところで、距離は詰められた。


 行動力や写真のセンスを褒めること、羨ましがることで少しは距離は詰められた。が、正直そこまで良いとは思っていなかったし羨ましくもなかったので、バイブスは籠もらなかったし巨乳でもなかったので、籠めた振りも出来なかった。


 バイブス籠めた振り。これは、自己洗脳の必要がある。


 少しやらないと、やり方を忘れてしまうと反省した。日常生活で使うべきだ。羨ましく、褒めようと精一杯人を好きになることだ。


 それでも多少は信用を得たらしく、焼き鳥屋を出た後には、散歩しようとお誘いがあった。


 天神は町並みが観光地のようで、そこまで時間もなさそうだったのでただぶらついた。


 カザフスタンのことを聞いた。聞くところによると、男性社会らしい。男性は一昔前の日本のようで、基本女性も同様らしい。目の前の彼女は、自分は違うと、良いようには思っていないようだった。


 正直、手応えは全然なかった。距離を急に詰めれる話題もなく、リアクションも微妙。迷いながら、ただ時間と歩数だけが過ぎた。


 明るい、人の多い場所を行き過ぎた後、ここから先は何も無い。


「裏ドオリも見タイ」


 それでも意外なことに、この言葉はカザフスタンの女の口から出た。


 僕はヤリたかった。外人とヤったのは、二度だけだ。もちろんカザフスタンなんて、ロシアの近くの女となんてヤったことはない。


 そこで、ようやく距離を詰める質問をいくつか投げかけた。


 カザフスタン女性はどんな男がタイプなのか?


 じゃあメディア(仮)。君はどんな男が好きなの?


 前の彼氏はどんな男だったの?


 どんなところを好きだったの?


 ちなみに人気なのは韓国アイドルで、彼女は悪い男が好きで、前の名古屋の彼氏は僕とは全く違う男だった。


 僕は悪そうなところがないことに定評がある男だ。絶妙にかわされている気がした。


 ……正直、そこで戦意が萎えたところがある。だからだろう。


「ネェあレ見て」


 ラブホを指指したのかと思ったが、隣の大麻マークのショップだった。絶対に違法な店ではないが。


 ここが失策だった。後から考えれば、悪い男が好きなどの散りばめられたヒントを活かせと言われていたのだった。


 そこは閉店時間が過ぎており、特にコメントもなかったのだ。大事なことは、そこがラブホ街であることだった。


 戦意を失っていた僕は、強引にいけなかったのだ。


 そこでタイミングを逃し、どうでもいい会話をしながら歩いて、後は別れた。物理的に距離を詰めようと、手を握ろうともしたけれど、明らかに避けられた。機を逸した間抜けに、チャンスは与えないタイプだったらしい。


 おそらくあのカザフスタンの女は、他の男を探しに行ったのだろう。


 僕はすっかり暗くなった天神から、博多駅へバイクを走らせた。我が家に向かうにつれ、次第に街明かりは小さくなり、暗くなっていく。


 後ろには誰も乗っておらず、後部座席には体温もない。誰もいない家だけが僕を待っている。


 ……婉曲に言う意味はないね。家に帰っても、誰もいない。



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